著者の所属・活動拠点の国は、デンマーク、イスラエルです。
掲載誌:Marine Drugs
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
微細藻類ナンノクロロプシス・オセアニカ(Nannochloropsis oceanica)は、脂質を多く蓄え、魚油に多いことで知られるオメガ3系の多価不飽和脂肪酸EPA(エイコサペンタエン酸)を含むことから、油脂の供給源として関心を集めてきました。これまでの研究では、この藻がビタミンKを合成し、紫外線のうちUVBと呼ばれる波長域の光を浴びるとビタミンD3もつくることが報告されています。光と水、栄養分、二酸化炭素から有用な成分をつくるため、動物に由来しない「ヴィーガンの細胞工場」になりうると考えられています。
食事から得られるビタミンD3は基本的に動物性食品に含まれ、EPAは主に脂の多い魚から摂られています。乱獲が世界的な問題となるなか、魚以外の供給源を探す意義は大きくなっています。研究チームは以前、実験室の条件でこの藻のビタミンD、ビタミンK、EPAを調べていました。今回の研究では、実際の産業的な屋外生産の現場で、これらの成分がどの程度つくられ、季節や培養の進み具合によってどう変わるのかを調べることを目的としました。
屋外生産の現場で何を調べたか
調査の舞台は、イスラエル・エイラートの養殖研究施設です。この施設ではナンノクロロプシス・オセアニカを養殖用の餌として日常的に生産しています。研究チームは2021年の1月から10月にかけて、1基の屋外培養池(レースウェイ池と呼ばれる、水を循環させる長円形の池)を対象に、最長31日間の生産サイクルを8回追跡しました。屋内で増やした藻を池に移す前と、移した後の複数の時点で藻を採取し、凍結乾燥した藻体に含まれる成分を測定しています。
あわせて、池の水温、塩分、pH、細胞の濃さを記録しました。日差しに含まれるUVBの量の目安には、気象データにある紫外線指数(UVインデックス)を用いています。そのうえで、培養日数や紫外線指数、池の条件と各成分量との関係を統計的に分析しました。ビタミンD3と脂肪酸は複数の月にわたって、ビタミンKは1月と3月の試料で調べています。この研究は条件を人為的に変える実験ではなく、実際の生産をそのまま観察する研究です。
主な結果
ビタミンD3の含有量は、凍結乾燥藻体1グラムあたり3〜253ナノグラムと大きくばらつきました。最も高かったのは4月の試料です。全期間の試料をまとめて分析すると、培養期間中の平均紫外線指数が高いほど、また池のpHが高いほど、ビタミンD3が多いという有意な関連がみられました。ただし、これらの要因で説明できるのはばらつきの一部にとどまり、ほかの要因も大きく関わっているとみられます。一方、月ごとの平均紫外線指数と、その月のビタミンD3の最大値との間には関連が認められませんでした。著者らは理由の一つとして、春は藻がよく増え、藻どうしが影になって細胞に届くUVBが減った可能性を挙げています。今回の最大値は、実験室でUVBを照射した場合に報告された値よりも低いものでした。
ビタミンKについては、メナキノン-4(MK-4)と呼ばれるタイプのみが検出され、含有量は凍結乾燥藻体1グラムあたり十数〜二十数マイクログラムでした。1月・3月のいずれも、屋外の池に移す前のほうが多く、移して2日後には減少していました。著者らはこれを、光による分解が原因と推測しています。
脂肪酸では、EPAが凍結乾燥藻体1グラムあたり10〜35ミリグラム含まれていました。培養日数が長くなるほどEPAが多くなり、飽和脂肪酸であるミリスチン酸とパルミチン酸は少なくなる傾向がみられました。一方、総脂肪酸量は年間を通じて藻体重量の平均7.6%前後で安定していました。このことから、屋外培養は脂質の総量よりも、脂肪酸の組成に影響していたと考えられます。
この研究が示すこと
この研究は、実験室だけでなく実際の屋外生産の条件でも、ナンノクロロプシス・オセアニカがビタミンD3、ビタミンK(MK-4)、EPAを含むことを示しました。同時に、その量は季節や培養の経過によって大きく変わることも明らかにしています。著者らは、この藻から抽出した油について、含有量が高い水準で安定して得られると仮定した場合の試算も示しました。それによると、小さじ1杯程度の油で、ビタミンD、ビタミンK、EPAの推奨摂取量に相当する量をまかなえる可能性があります。ただし、この藻は硬い細胞壁を持つため、そのためには細胞壁を壊して油を効率よく取り出す工程が必要だとしています。
なお、この研究は1基の池を観察したもので、季節とともに複数の環境要因が同時に変化しており、池単位の反復もありませんでした。また、紫外線は現地で直接測定したものではありません。そのため、個々の要因が成分量を決めているという因果関係を示すものではない、と著者らは位置づけています。実際の生産現場でのばらつきを記録した今回の結果は、実験室での知見を補う手がかりとなります。
原著論文の著者・所属:Marie Bagge Jensen(Research Group of Bioactives–Analysis and Application, Technical University of Denmark, 2800 Kongens Lyngby, Denmark)、Moshe Meged(Israel Oceanographic & Limnological Research Ltd.—National Center for Mariculture, Eilat 8811201, Israel)、Dalia Malka(Israel Oceanographic & Limnological Research Ltd.—National Center for Mariculture, Eilat 8811201, Israel)、Na’ama Segal(Israel Oceanographic & Limnological Research Ltd.—National Center for Mariculture, Eilat 8811201, Israel)、Charlotte Jacobsen(Research Group of Bioactives–Analysis and Application, Technical University of Denmark, 2800 Kongens Lyngby, Denmark)、Jette Jakobsen(Research Group of Bioactives–Analysis and Application, Technical University of Denmark, 2800 Kongens Lyngby, Denmark)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Marie Bagge Jensen, Moshe Meged, Dalia Malka, et al. Vitamin D3, Vitamin K and Fatty Acid Profiles of Nannochloropsis oceanica Grown Under Outdoor Industrial Conditions. Marine Drugs 2026-10-02. DOI: 10.3390/md24100349. 原著ライセンス:CC BY.