健康食品やサプリメントの原料として注目される微細藻類。オメガ3脂肪酸のEPAやタンパク質を豊富に含むことで知られていますが、実は培養コストの高さが実用化の壁になっているといいます。今回紹介する研究では、Nannochloropsis oceanica(ナンノクロロプシス・オセアニカ)という微細藻類から、タンパク質や脂質など複数の成分を同時に取り出す『バイオリファイナリー(多製品生産システム)』の設計が試みられました。カギとなったのは、硬い細胞壁をどう壊すかという工程です。
硬い細胞壁をどう壊すか、2つの方法を比較
この研究では、ナンノクロロプシスの細胞壁を壊して中身の成分を取り出しやすくするために、『高圧ホモジナイズ(高い圧力で細胞をつぶす物理的な方法)』と『酵素加水分解(酵素の働きで細胞壁を分解する方法)』という2つの手法が比較されました。その結果、酵素加水分解では乾燥した細胞重量の48.2±1.5%が水に溶け出したのに対し、高圧ホモジナイズでは27.3±3.2%にとどまったと報告されています。酵素加水分解の方が、より濃縮された水溶性成分を得られ、タンパク質の抽出量も有意に多かったとされました。
脂質についても違いが見られました。酵素加水分解で得られた脂質抽出物は、脂質含有量が72.0±5.3%(重量比)、EPA(エイコサペンタエン酸)含有量が28.1±6.9%(重量比)だったのに対し、高圧ホモジナイズでは脂質含有量38.8±6.1%、EPA含有量9.1±0.6%だったとのことです。脂質そのものの抽出収率は両方法とも約30%と近い水準だった一方、得られた抽出物の『濃さ』には差があったと説明されています。
さらに、脂質を抽出する際に使うエタノールの濃度(体積比)を58%から75%に高めたところ、酵素加水分解ベースの手法での脂質抽出収率が57.4±3.1%まで向上し、スケールアップした際にはさらに70.1%に達したと報告されています。また、脂質抽出物を含むすべての成分画分において、必須アミノ酸のバランスがWHO/FAO/UNU(世界保健機関・国連食糧農業機関・国連大学)が推奨する基準を上回っていたことも示されました。
加えて、簡易的な経済分析も行われ、細胞を酵素加水分解によって透過性にした場合の方が、高圧ホモジナイズによる場合よりも、脂質生産のコスト効率が良いことが示唆されたとされています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、微細藻類から複数の有用成分を効率よく取り出すための製造プロセスの設計・評価を目的としたものであり、ナンノクロロプシス由来の成分を摂取した際の健康への効果を検証したものではありません。示された数値はあくまで実験室レベルでの抽出収率や成分含有量、および予備的な経済分析の結果であり、実際の商業生産における採算性や、量産時の再現性については今後さらなる検証が必要と考えられます。また、この記事で紹介した内容は一つの研究によるものであり、結論が確定したわけではない点にもご留意ください。
まとめ
微細藻類ナンノクロロプシスを原料に、タンパク質や脂質、EPAなど複数の成分を無駄なく取り出す製造プロセスの研究において、細胞壁を壊す方法として酵素加水分解が高圧ホモジナイズよりも高い成分溶出・抽出効率をもたらし、経済性の面でも有利である可能性が示唆されました。持続可能な資源としての微細藻類の実用化に向けて、こうした製造プロセスの工夫が今後どのように発展していくか、注目される分野といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:Nannochloropsis oceanicaを用いた統合型多製品バイオリファイナリーにおける細胞破砕法の評価:プロセス設計から経済分析まで(マリン・ドラッグス・2026年07月)