著者の所属・活動拠点の国は、リトアニアです。

掲載誌:Plants

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

長く耕されずに残ってきた半自然の草地は、多くの植物や生き物のすみかとして生物多様性を支えています。一方で、こうした草地で牛を放牧しながら、自然の保全と牛肉生産をどこまで両立できるのかは、数字で十分に示されていませんでした。

リトアニアの研究チームは、冷温帯から北方林帯への移行域にあたる地域で、人が種をまいて作った牧草地(播種草地)と、昔から続く永年の半自然草地を比較しました。放牧地としての植物の多様性と生産面の成果を、一つの事例として並べて調べることが目的です。

何を調べたか

調査は2019年と2020年の放牧期に行われました。毎年8頭の若い雄牛を用い、それぞれの草地に年4頭ずつ放牧しました。2年間で延べ16頭分の観察になります。

著者らは、草地に生える植物の種類の多さ、草の収量と成分、牛の体重の変化、牛肉の品質を評価しました。牛肉については、筋肉内の脂肪に含まれる脂肪酸の組成を分析しています。

主な結果

植物の種数は、半自然草地が84種、播種草地が12種で、半自然草地の方が大きく上回りました。一方、面積あたりの草の乾物収量(水分を除いた重さ)は、半自然草地が1ヘクタールあたり1.45トン、播種草地が2.92トンで、半自然草地の方が少なくなりました。土壌の状態にも違いがあり、半自然草地では植物が利用しやすいリンが少なかったと報告されています。

半自然草地では牛の放牧密度を播種草地の半分とし、1頭あたり2倍の面積を割り当てました。その結果、1頭あたりで見た草の乾物収量は両者でほぼ同程度になりました。

牛の成長については、補正をしない成長の差は年によって向きが入れ替わりました。条件を補正して最終体重を比べると、半自然草地の牛は播種草地の牛より平均10.1キロ軽いという推定でした。ただし推定の幅(95%信頼区間)は39.7キロ軽いから19.5キロ重いまでと広く、どちらの草地の牛が重いのかははっきりしませんでした。

牛肉の脂肪酸では違いが見られました。半自然草地の牛の肉は、飽和脂肪酸が少なく不飽和脂肪酸が多い組成でした。また、脂肪酸の組成から算出する「動脈硬化指数」や「血栓形成指数」と呼ばれる指標が低く、コレステロールを下げる方向に働くとされる脂肪酸と上げる方向に働くとされる脂肪酸の比も高くなっていました。これらは肉の脂質の質を表す指標で、食べた人の健康への影響を直接調べたものではありません。

この研究が示すこと

この事例では、半自然草地は播種草地より植物の多様性がはるかに高い一方、面積あたりの草の量は少ないことが示されました。牛1頭により広い土地を割り当てれば1頭あたりの草の量はそろえられ、牛の体重には明確な差は確認されませんでした。牛肉の脂肪酸組成にも違いが見られました。

ただし、これは各1か所の草地を比べた事例研究です。著者らは、こうした違いがより広く当てはまるかを確かめるには複数地点での研究が必要だとしています。

原著論文の著者・所属:Vilma Živatkauskienė(Lithuanian Research Centre for Agriculture and Forestry, Instituto al. 1, Akademija, LT-58344 Kedainiai, Lithuania)、Vaclovas Stukonis(Lithuanian Research Centre for Agriculture and Forestry, Instituto al. 1, Akademija, LT-58344 Kedainiai, Lithuania)、Sigitas Juzėnas(Life Sciences Center, Institute of Biosciences, Vilnius University, Sauletekio Av. 7, LT-10257 Vilnius, Lithuania)、Gintarė Zaborskienė(Department of Food Safety and Quality, Faculty of Veterinary Medicine, Lithuanian University of Health Sciences, LT-44307 Kaunas, Lithuania)、Vilma Kemešytė(Lithuanian Research Centre for Agriculture and Forestry, Instituto al. 1, Akademija, LT-58344 Kedainiai, Lithuania)、Eglė Norkevičienė(Lithuanian Research Centre for Agriculture and Forestry, Instituto al. 1, Akademija, LT-58344 Kedainiai, Lithuania)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Vilma Živatkauskienė, Vaclovas Stukonis, Sigitas Juzėnas, et al. Comparing Vegetation Characteristics and Production Outcomes of Semi-Natural Permanent Grassland and Sown Ley: A Case Study in a Hemi-Boreal Region. Plants 2026-10-02. DOI: 10.3390/plants15193026. 原著ライセンス:CC BY.