この研究は、南アフリカの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目的とした研究か
南部アフリカに自生するマルーラ(Sclerocarya birrea)は、南アフリカの農村・半農村地域で生の果実として食べられるほか、酒やジャム、ジュース、ナッツなどの原料にも使われてきた在来果実です。ビタミンCやカルシウム、カリウム、リンなどを豊富に含むと報告されており、地域の食と栄養を支える存在だと著者らは位置づけています。
一方で著者らは、マルーラには「いつ収穫すればよいか」を判断するための成熟指標(収穫熟度の目安)がまだ確立されていないと指摘します。研究チームによれば、果実の収穫後の損失は世界の果実生産の25〜50%にのぼるとされ、熟度の指標に従わずに収穫することがその一因です。早すぎれば発育不良や風味の低下、しなびやすさにつながり、遅すぎれば過熟して傷みが早まります。そこで研究チームは、マルーラの果実が熟度によって成分をどう変えるのかを調べ、収穫の判断材料を示すことを目的としました。
どのように調べたか
調査は2025年の夏季、南アフリカ・ブッシュバックリッジ地区のリリーデール村(南緯24.872度、東経31.365度)の野生のマルーラを対象に行われました。無作為に選んだ36本の木から、1本あたり40個、合計1,440個の果実を採取しています。果実は果皮の色などの外観をもとに「緑色の未熟」「半熟」「完熟」の3段階に分類され、各段階につき12本の木が割り当てられました。色・大きさ・形が揃い、傷や明らかな欠点のないものだけを選んでいます。
採取した果実は南アフリカ大学の実験室に運ばれ、果肉が分析にかけられました。調べたのは大きく三つの領域です。第一に物理化学的な性質として、pH、滴定酸度(果実に含まれる有機酸の量を示す指標)、可溶性固形分(主に糖分を反映し、甘さの目安となる値)、そして糖酸比。第二に植物由来の機能性成分として、総フェノール含量、総フラボノイド含量、ベータカロテン、ビタミンC。第三にカルシウム、マグネシウム、リン、ナトリウム、銅、鉄、亜鉛といったミネラルです。得られたデータは分散分析で比較されたほか、主成分分析や階層クラスター分析といった多変量解析によって、成分同士の関係と熟度ごとのまとまりが視覚的に整理されました。なお著者らは、本研究の結果はあくまで実験室での分析に基づくものであり、臨床試験は行っていないと明記しています。
報告された主な結果
まず味に関わる成分は、熟すほど「酸っぱさ優位」から「甘さ優位」へと移っていきました。pHは緑色の未熟果で3.1、半熟で3.6、完熟で4.6と上昇し、逆に滴定酸度は未熟果の35.8から半熟27.1、完熟20.8へと低下しています。可溶性固形分は未熟果の5.9%から完熟の16.1%へと増え、糖酸比も0.16から0.78へ上がりました。いずれの違いも統計的に有意(p≤0.001)と報告されています。主成分分析でも第1主成分が全体の変動の95.7%を説明し、熟度による明確な分離が見られました。
一方、抗酸化作用などをもつとされるフェノール類とフラボノイド類は、これと逆の動きを示しました。総フェノール含量は緑色の未熟果で最も高く14.5 mg GAE/100 g FW、半熟で10.6、完熟で6.9と下がっていきます。総フラボノイド含量も同様に、未熟果の11.7 mg CE/100 g FWから半熟5.8、完熟1.7へと減少しました。著者らはこの傾向を、若い果実が紫外線や病害虫などのストレスから身を守るためにこれらの成分を蓄えるという、これまでに知られている説明と結びつけて論じています。
カロテノイドの一種であるベータカロテンは逆に、熟すほど増加しました。緑色の未熟果で51.7 mg/100 g FW、半熟で87.1、完熟で最も高い109 mg/100 g FWという結果です。またビタミンCは、未熟でも完熟でもなく半熟の段階で最も高くなりました。多変量解析でも、ビタミンCは緑から半熟の段階に、ベータカロテンは完熟の段階に、それぞれ近い位置づけで現れています。著者らは、100 g分の緑色未熟果の果肉が比較用に算出した一日あたりの平均摂取参照値に占める割合を、フラボノイドで約1.6%、フェノール類で約1.5%と見積もっていますが、この参照値はあくまで比較のための目安であり、特定の集団に対する推奨量ではないと断っています。
この研究が示すこと
この研究が伝えているのは、マルーラの果実には「唯一の正解となる収穫時期」があるわけではない、ということです。甘さや食べやすさを求めるなら完熟、フェノール類やフラボノイド類を多く得たいなら緑色の未熟、ビタミンCなら半熟と、目的とする成分によって望ましい段階が異なります。
著者らは結論として、マルーラは熟度ごとに植物化学成分や栄養成分の量が変わるため、狙いとする成分に合わせて収穫時期を決めることが重要だと述べています。成熟指標が定まっていなかった在来果実について、収穫の判断を裏づける具体的なデータが示されたことに、この研究の意味があります。
著者:Mashudu Sikhavhakhavha(Leeto-La-Africa Community Engagement Scholarship Project (CU_1600), Department of Environmental Sciences, College of Agriculture and Environmental Sciences, University of South Africa)、Nkosikhona Goodman Magwaza(Leeto-La-Africa Community Engagement Scholarship Project (CU_1600), Department of Environmental Sciences, College of Agriculture and Environmental Sciences, University of South Africa)、Sabelo Shezi(Leeto-La-Africa Community Engagement Scholarship Project (CU_1600), Department of Environmental Sciences, College of Agriculture and Environmental Sciences, University of South Africa)、Thanyani Ralulimi(Leeto-La-Africa Community Engagement Scholarship Project (CU_1600), Department of Environmental Sciences, College of Agriculture and Environmental Sciences, University of South Africa)、Kuhlula Maluleke(Leeto-La-Africa Community Engagement Scholarship Project (CU_1600), Department of Environmental Sciences, College of Agriculture and Environmental Sciences, University of South Africa)、Cynthia Kwena Marokane-Radebe(Leeto-La-Africa Community Engagement Scholarship Project (CU_1600), Department of Environmental Sciences, College of Agriculture and Environmental Sciences, University of South Africa)、Makgafele Lucia Ntsoane(Agricultural Research Council, Tropical and Subtropical Crops (ARC-TSC))、Mdungazi Knox Maluleke(Leeto-La-Africa Community Engagement Scholarship Project (CU_1600), Department of Environmental Sciences, College of Agriculture and Environmental Sciences, University of South Africa)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mashudu Sikhavhakhavha, Nkosikhona Goodman Magwaza, Sabelo Shezi, et al. Maturity-driven shifts in physicochemical, phytochemical and mineral composition of marula [Sclerocarya birrea (a. rich.) Hochst] fruit: a multivariate perspective on nutritional functionality. Frontiers in Nutrition 2026-09-23. DOI: 10.3389/fnut.2026.1908448. 原著ライセンス:CC BY.