この研究は、インドネシアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Science & Technology Indonesia
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何のための研究か
インドネシアで栽培される赤ショウガ(Zingiber officinale var. rubrum)は、辛みと香りのもとになるジンゲロールを多く含み、食品や製薬の原料として使われています。論文によれば、インドネシアの製薬業界は医薬原料用の赤ショウガに総ジンゲロール1.5%以上を求めており、そのため植え付けから少なくとも9か月たった根茎を収穫することが推奨されています。
ところが、ジンゲロールの量を正確に測る従来の方法は、試料を壊してしまうクロマトグラフィー(高速液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィー質量分析)が中心です。著者らは、これらが高価で時間がかかり、専門的な人材を必要とすると指摘します。その結果、小規模な農家や事業者が出荷する生の赤ショウガには信頼できる品質データが付かないことが多く、原料の品質管理の障害になっているといいます。
そこで研究チームが取り組んだのは、試料を壊さずに測れる紫外・可視分光法(UV-Vis分光法)の活用です。これは試料に光を当てて、どの波長の光がどれだけ吸収されるかを調べる手法で、ジンゲロールのような有機化合物の構造に反応しやすく、装置が比較的安価だという利点があります。論文は、乾燥させたり抽出したりした試料ではなく、水分の多い「生のまま」の状態で測ることを狙いとしており、ここが既存研究との違いだと述べています。
どのように調べたか
試料は西ジャワ州チアンジュール産の赤ショウガで、植え付けから7か月・8か月・9か月の3つの収穫時期から各30個、合計90個の根茎を用いました。各試料の総ジンゲロール量は超高速液体クロマトグラフィーで測定し、6-ジンゲロール・8-ジンゲロール・10-ジンゲロールの標準品と照合しています。水分量も別に測定しました。
光の測定には紫外・可視分光計を用い、200〜900 nmの波長範囲を1 nm刻みで記録しました。測定は各試料3回ずつ行っています。得られたデータのうち、500〜900 nmは収穫時期による違いがほとんど見られず、200〜220 nmはノイズが大きかったため、著者らは解析対象を220〜450 nmに絞りました。この範囲には、フェノール性化合物やジンゲロール由来の吸収が現れるとされています。
生の組織から得られる光のデータには、ノイズや、表面の凹凸や繊維による光の散乱、ベースラインのずれが混じります。そこで、平滑化(Savitzky-Golay法)、散乱の補正(MSC)、ベースライン補正、そして吸収の変化を際立たせる一次微分(D1)といった前処理を、単独または組み合わせて適用しました。
その上で2種類のモデルを作っています。ジンゲロール量を予測する回帰モデルには部分最小二乗回帰(PLS)と人工ニューラルネットワーク(ANN)を、収穫時期を3つに分類するモデルには線形判別分析(LDA)、k近傍法、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン(SVM)を用い、データの全体像をつかむ探索的な手法として主成分分析(PCA)も併用しました。評価はいずれも5分割交差検証で行っています。
報告された主な結果
まず化学分析では、6-ジンゲロールが最も多く含まれる成分であり、総ジンゲロール量は収穫時期が遅いほど増えました。7か月では1.13±0.48%、8か月では1.23±0.89%、9か月では2.56±0.11%と報告されています。一方、水分量は7・8・9か月のいずれでも85〜86%程度で、著者らは3群の間に大きな違いは見られなかったとしています。
光のデータでも、220〜230 nmと280〜290 nmの付近に目立つ吸収が現れ、収穫時期によって吸収の強さが異なりました。全体として、収穫時期が遅いほど吸収が強くなる傾向が見られ、これはクロマトグラフィーで測ったジンゲロール量の増加と同じ方向だったと述べています。
モデルの性能については、ジンゲロール量の予測では、平滑化と一次微分を組み合わせた前処理に隠れノード2個のANNを用いた構成が最も良く、決定係数R²=0.66、相関係数r=0.74、検量時の誤差(RMSEC)0.7062、予測時の誤差(RMSEP)0.8317でした。収穫時期の分類では、ベースライン補正と一次微分を組み合わせた前処理にSVMを用いた構成が正解率0.91、適合率・再現率・F1スコアがいずれも0.93に達しました。
なお、PCAによる探索では、一次微分を加えた前処理によって収穫時期ごとのまとまりが見えやすくなった一方、8か月と9か月の試料は重なりが残りました。著者らはこれを、この2つの時期では化学組成、特にジンゲロール量が比較的似ているためだと説明しています。
この研究が示すこと
この研究で興味深いのは、量を数値で当てることと、時期を見分けることの難しさが異なっていた点です。生の根茎は水分が多く、水による光の吸収がジンゲロール量の絶対値の推定をゆがめます。実際、量の予測モデルのR²は0.66にとどまりました。それに対して収穫時期の分類は正解率0.91と高く、著者らはこれを、量の直接予測が難しい状況での代替となる「成熟度による見分け」として位置づけています。
論文は、この分類モデルが、生のインドネシア産赤ショウガを対象とした自動選別システムを設計するための技術的な土台になると述べています。安価な分光装置と前処理・機械学習の組み合わせによって、原料を化学処理にかける前に成熟度のまとまりごとに仕分ける道筋を示したことが、この研究の報告の要点です。
著者:Tika Hafzara Siregar(Research Center for Equipment Manufacturing Technology, National Research and Innovation Agency, South Tangerang, Banten, 15314, Indonesia)、Fareihan Rizki Farikhin(Department of Mechanical and Biosystem Engineering, IPB University, Bogor, 16002, Indonesia)、Slamet Widodo(Department of Mechanical and Biosystem Engineering, IPB University, Bogor, 16002, Indonesia)、Y. Aris Purwanto(Department of Mechanical and Biosystem Engineering, IPB University, Bogor, 16002, Indonesia)、Lamhot Parulian Manalu(Research Center for Equipment Manufacturing Technology, National Research and Innovation Agency, South Tangerang, Banten, 15314, Indonesia)、Tri Yulni(Research Center for Equipment Manufacturing Technology, National Research and Innovation Agency, South Tangerang, Banten, 15314, Indonesia)、Nenie Yustiningsih(Research Center for Equipment Manufacturing Technology, National Research and Innovation Agency, South Tangerang, Banten, 15314, Indonesia)、Harianto(Research Center for Equipment Manufacturing Technology, National Research and Innovation Agency, South Tangerang, Banten, 15314, Indonesia)、Jonni Firdaus(Research Center for Horticulture, National Research and Innovation Agency, Cibinong, West Java, 16911, Indonesia)、Primawati Yenni Fauziah(Research Center for Food Technology and Processing, National Research and Innovation Agency, Yogyakarta, 55861, Indonesia)、Endang Suwandi(Research Center for Manufacturing Technology of Production Machinery, National Research and Innovation Agency, South Tangerang, Banten, 15314, Indonesia)、Marga Asta Jaya Mulia(Research Center for Manufacturing Technology of Production Machinery, National Research and Innovation Agency, South Tangerang, Banten, 15314, Indonesia)、Astuti(Research Center for Processing Technology, National Research and Innovation Agency, South Tangerang, Banten, 15314, Indonesia)、Tantry Eko Putri Mariastuty(Research Center for Processing Technology, National Research and Innovation Agency, South Tangerang, Banten, 15314, Indonesia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Tika Hafzara Siregar, Fareihan Rizki Farikhin, Slamet Widodo, et al. Rapid Prediction of Total Gingerol Content and Harvest Age Classification of Fresh Indonesian Red Ginger Using UV-Vis Spectroscopy. Science & Technology Indonesia 2026-09-17. DOI: 10.26554/sti.2026.11.4.1406-1422. 原著ライセンス:CC BY.