この研究は、エジプトの研究機関の研究論文です。
掲載誌:BMC Complementary Medicine and Therapies
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜブドウの「葉」を調べたのか
ブドウ(Vitis vinifera)は世界で広く栽培される果樹で、エジプトでも栽培が拡大し、地域の農業にとって重要な作物になっています。ただし研究の関心は主に果実とその加工品に向けられてきました。著者らは、葉がフェノール酸、フラボノイド、タンニン、スチルベンなど構造の多様な二次代謝産物(植物が自らつくる、生育に直接必須ではない成分)を豊富に含むにもかかわらず、比較的活用されていない点に注目しています。
植物の二次代謝産物の量は一定ではなく、品種、気候、気温、光の強さ、水や養分、栽培管理、生育段階、そして収穫時期によって変わることが知られています。ブドウの葉でも成分の季節変動はこれまで報告されてきました。しかし著者らによれば、葉の色素、主要成分群、個々のフェノール成分、そして幅広い試験管内での生物活性を一つの研究にまとめて収穫時期との関係を調べた例は限られており、どの時期の葉が有用成分に富むのかという情報は不十分でした。そこで本研究は、生育期の異なる段階にあたる3月・5月・9月に採取した葉を比較し、成分と生物活性がどう変わるかを調べることを目的としています。
何をどう調べたか
葉はエジプト・ベヘイラ県ワディ・エル・ナトルーンの民間農園から、2024年の3月(生育初期)、5月(生育の盛期)、9月(生育後期から老化前)に採取されました。乾燥させて粉末にした葉をメタノールに浸して成分を抽出し(常温で72時間の浸出を3回繰り返す方法)、得られた抽出物を分析に用いています。すべての測定は3回繰り返し、収穫時期の間の差は統計的に検定されました。
成分側では、光合成色素(クロロフィルaとb、カロテノイド)、総ポリフェノール量、総フラボノイド量、総タンニン量を測定し、さらに高速液体クロマトグラフィー(成分を分離して同定・定量する分析法)で個々のフェノール・フラボノイド成分を調べています。薄層クロマトグラフィーで主要成分を分離し、質量分析と核磁気共鳴(NMR)で構造を確認する作業も行われました。
活性側では、いずれも試験管内(in vitro)の評価として、抗酸化能とラジカル消去能(DPPH、ABTS、一酸化窒素)、糖の分解に関わるα-アミラーゼとα-グルコシダーゼの阻害、アルツハイマー病治療の標的として知られるアセチルコリンエステラーゼの阻害、タンパク質変性とプロテアーゼに対する抗リウマチ関連の作用、炎症に関わるCOX-1・COX-2・5-LOXの阻害、そしてヒトの肝がん(HepG-2)、大腸がん(CACO-2)、肺がん(A549)の培養細胞に対する細胞毒性を測定しています。それぞれアスコルビン酸、アカルボース、ドネペジル、ジクロフェナクナトリウム、インドメタシンとジロートン、ドキソルビシンといった標準物質と比較されました。
報告された主な結果
色素では、クロロフィルaとbが5月に最も高く、9月に減少し、3月が最も低いという結果でした。カロテノイドは逆の傾向を示し、3月に最も高く(2.95±0.13 mg/g)、5月に最も低くなりました(2.08±0.22 mg/g)。著者らは、5月の高いクロロフィル量は活発な栄養成長と一致し、9月に向けた低下は生育後期の成熟と老化の始まりに伴う変化と整合すると述べています。
主要成分群では、総ポリフェノール、総フラボノイド、総タンニンのいずれも5月の抽出物が最も高く、3月が最も低い値でした。クロマトグラフィー分析では全体で19種類のフェノール・フラボノイド成分が検出され、3月の抽出物では14種類、5月では17種類、9月では19種類が同定されました。カテキンとピロカテコールは3月・5月の抽出物では検出されず、ルチン、エラグ酸、ケンフェロールは3月の抽出物にありませんでした。一方で個々の成分の濃度としては、5月の葉がフェノール・フラボノイドともに3月・9月より明確に高かったと報告されています。分離・同定された7成分のうち、ケルセチン、アピゲニン、アピゲニン-7-グルコシドは3時期すべてで確認され、ケンフェロールとルチンは5月と9月のみ、p-クマル酸とイソラムネチンは5月のみで確認されました。
生物活性は、測定した項目のすべてで5月の抽出物が最も強く、次に9月、最も弱いのが3月という共通の順序を示しました。たとえば総抗酸化能は5月が293.26±2.15 mg没食子酸/gで、3月の78.20±0.57、9月の136.40±1.00を上回りました。100 µg/mLでのDPPH消去率は5月が60.16±0.44%、3月が16.04±0.12%でした。α-アミラーゼとα-グルコシダーゼの阻害では5月抽出物のIC50(活性を半分に抑える濃度で、小さいほど強い)がそれぞれ3.90±0.03、3.05±0.04 µg/mLでした。細胞毒性では5月抽出物のIC50がHepG-2で24.53±2.62、CACO-2で37.73±3.57、A549で105.82±3.53 µg/mLと最も低く、処理した細胞では細胞死に関わるカスパーゼ-3の活性が最も高く、細胞死を抑えるBcl-2の活性が最も低い値が観察されました。いずれの試験でも、各標準物質のほうがより強い作用を示しています。
この報告が示すこと
著者らはこれらの結果から、収穫時期がブドウの葉の機能的な品質に影響する重要な要因であり、調べた3時期の中では5月の葉が最も有用成分に富み、試験管内での活性も最も強い組み合わせを示したと述べています。成分量の多い時期と活性の強い時期が一致していた点は、葉の中の成分蓄積と測定された活性が並行して変動することを示す観察結果です。
ブドウの葉は栽培にともなって大量に生じる農業副産物です。本研究は、その葉を原料として選別・規格化するうえで、いつ採るかという判断が成分と活性の両面に関わることを、同一の研究の中で色素・成分・活性を並べて示したものとして位置づけられています。なお、ここで報告されている活性はすべて試験管内の実験で得られたものです。
著者:Amal Mohamed El-Feky(Pharmacognosy Department, Pharmaceutical and Drug Industries Research Institute, National Research Centre, 33 El Bohouth St. (Former El Tahrir St.), P.O. 12622, Dokki, Giza, Egypt. [email protected])、Noha E. Ibrahim(Microbial Biotechnology Department, Biotechnology Research Institute, National Research Centre, 33 El Bohouth St. (Former El Tahrir St.), P.O. 12622, Dokki, Giza, Egypt)、Wael Mahmoud Aboulthana(Biochemistry Department, Biotechnology Research Institute, National Research Centre, 33 El Bohouth St., P.O. 12622, Dokki, Giza, Egypt)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Amal Mohamed El-Feky, Noha E. Ibrahim, Wael Mahmoud Aboulthana. Harvest-Time–Dependent variations in phytochemistry and in vitro bioactivities of Vitis vinifera Leaves. BMC Complementary Medicine and Therapies 2026-09-26. DOI: 10.1186/s12906-026-05578-x. 原著ライセンス:CC BY.