この研究は、フィリピンの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Food Science and Technology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的と背景

世界では栄養不足と過体重・肥満が同時に存在する「栄養の多重負荷」が広がっており、研究チームは論文の冒頭で、世界の子どもの約4分の1が低身長(発育阻害)であり、成人の3人に1人、子どもの10人に1人が過体重または肥満で、約9割の国が複数の栄養問題を抱えているという状況を紹介しています。こうした背景のもと、栄養素や生理活性成分を含む「機能性食品」への需要が高まっていると著者らは述べています。

フィリピンには栄養価の高い在来の葉物野菜が多く存在しますが、商品開発にはあまり使われていないと論文は指摘します。その一つが Talinum fruticosum で、ウォーターリーフ、フィリピン・スピナッチなどと呼ばれる多年草です。乾燥に強く、塩分を含む土壌や灌漑水にも耐え、主に野生のものを採取して加熱調理して食べられてきました。著者らによれば、この植物にはビタミンAやC、鉄やカルシウムなどのミネラル、食物繊維が含まれ、抗酸化性を持つ生理活性成分の供給源としても報告されていますが、加工食品、とくにスナック類への応用は限られていました。

一方で、健康志向の食品は味や食感、香り、見た目が好まれず消費者に受け入れられないことがあるという課題もあります。そこで研究チームは、クラッカーのようなパリパリした菓子「クロペック」を素材の受け皿として選び、フィリピン・スピナッチを配合したクロペックを試作して、官能(おいしさの)評価と栄養成分の分析を行うことを目的としました。

何をどう調べたか

研究チームは配合量を変えた3種類の試作品を作りました。水50g、塩2分の1小さじ、キャッサバ粉35gは各試作品で共通とし、フィリピン・スピナッチの混合物の量だけを変えています。第1区は25g、第2区は35g、第3区は45gで、ほかの材料を一定に保つことで、違いが野菜の配合量によるものだと判断できるようにしたと説明されています。

葉は大学の農学系学部の菜園から、雨期(6〜11月)に手で収穫した明るい緑色の成熟葉を用い、茎を取り除いて洗浄・水切りしたうえで水と撹拌して均一な状態にしました。生地は型に35gずつ分け、キャッサバ粉のでんぷんを糊化(加熱して粘りを出すこと)させるために中火で20分蒸し、冷やして型から外した後、乾燥機で乾燥させ、均一な形に切ってさらに乾燥させています。乾燥後は5時間置いてから密閉容器に入れ、涼しく乾いた場所で保管しました。

おいしさの評価には9点の快楽尺度(9が「非常に好き」、1が「非常に嫌い」)を用い、訓練を受けた10名のパネリストが香り、食感、外観、味、総合的な受容性を採点しました。試料は無作為に符号を付けて偏りを抑え、各試料を10回繰り返し評価し、口をすすぐ水も用意されました。最も受容性の高かった配合については成分分析を行い、3gの試料を用いて、水分は水分計、灰分・食物繊維・炭水化物はRaghuramulu法、脂質はFolch法、たんぱく質はBiuret法で測定し、代謝可能エネルギーはAtwaterの一般係数に基づくRandive法で算出しています。

主な報告結果

論文によれば、3種類すべてが「やや好き」から「とても好き」の範囲に収まり、全体として受け入れられる水準でしたが、配合量によって評価には差が見られました。総合平均は第2区(スピナッチ35g)が7.12で最も高く、第1区が6.92、第3区が6.77でした。第2区は外観7.82、食感7.52と全区中で最も高く、香り6.72、味6.62も第1区より高い値でした。第1区は外観と食感は高い評価を得たものの、香りと味の点数が相対的に低く、著者らは風味が穏やかすぎたと述べています。第3区は配合量が最も多く、色や香りが強まったことが評価の低下につながった可能性が指摘されています。

統計的な検定では、香り(F=3.21、p=0.046)、食感(F=4.18、p=0.019)、外観(F=5.36、p=0.007)、味(F=3.87、p=0.025)、総合的な受容性(F=4.92、p=0.011)のすべてで有意水準0.05を下回る差が認められ、事後検定では第2区がいくつかの項目で第3区を有意に上回ったと報告されています。これにより第2区が最も好まれる配合とされ、成分分析の対象に選ばれました。

第2区の3g試料あたりの成分は、水分17.17%、灰分0.093g、脂質0.216g、たんぱく質0.192g、食物繊維0.159g、炭水化物1.825g、代謝可能エネルギー10.01kcalでした。これを一般的なスナックの1食分である30g(約10枚)に換算した栄養表示では、約100kcal、炭水化物18.25g、脂質2.16g、たんぱく質1.92g、食物繊維1.59g、灰分0.93gと示されています(飽和脂肪酸約0.3gと糖類0gは、植物性スナックの一般的な組成に基づく推定値として注記されています)。著者らは、炭水化物が最も多い成分であり、これは主原料のキャッサバ粉が本来炭水化物に富むためだと説明し、食物繊維・たんぱく質・ミネラルにはスピナッチが寄与していると述べています。

この研究から読み取れること

この研究が示したのは、在来の葉物野菜をスナックに加える際には「入れれば入れるほど良い」わけではない、という点です。著者らの報告では、中程度の配合(35g)が見た目・パリパリ感・風味のバランスをもっとも良く保ち、量を増やすと色や香りが強まって好まれにくくなりました。健康に良さそうな素材を増やすことと、実際に食べてもらえることは別の課題であり、味と香りが受容性を左右する決定的な要素として残ることを、数値をもって確かめた研究だといえます。

また著者らは、ほとんど野生から採取されるだけだった未利用の葉物野菜が、加工菓子という身近な形に無理なく組み込めることを実証的に示したと位置づけています。地域で手に入る資源を使った食品開発の、ひとつの具体例を提供する報告です。

著者:Roselyn L. Almerol(College of Business and Management , Ifugao State University -Potia Campus , Potia , Alfonso Lista , Ifugao , Philippines)、Harold M. Cabacungan(College of Business and Management , Ifugao State University -Potia Campus , Potia , Alfonso Lista , Ifugao , Philippines)、Gerlie C. Guimmay(College of Business and Management , Ifugao State University -Potia Campus , Potia , Alfonso Lista , Ifugao , Philippines)、Christine Mae T. Samoy、Anabel L. Veniegas(College of Business and Management , Ifugao State University -Potia Campus , Potia , Alfonso Lista , Ifugao , Philippines)、Roger T. Bautista(College of Business and Management , Ifugao State University -Potia Campus , Potia , Alfonso Lista , Ifugao , Philippines)、Client William M. Malinao

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Roselyn L. Almerol, Harold M. Cabacungan, Gerlie C. Guimmay, et al. Formulation and Evaluation of Philippine Spinach (Talinum fruticosum) Cropeck: Development, Organoleptic Properties, Nutritional and Energy Evaluation. Food Science and Technology 2026-09-01. DOI: 10.13189/fst.2026.140304. 原著ライセンス:CC BY.