著者の所属・活動拠点の国は、カナダです。

掲載誌:Plant Perspectives

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

ココナツが資源になる歴史をたどる

フィリピンのココナツは、暮らしを支える身近な植物であると同時に、世界市場へ送り出される工業原料でもあります。この変化は、どのような支配や労働の仕組みと結びついていたのでしょうか。著者は、農園の写真や栽培手引書、経済的な利用を扱う植物学の文献、建築物を読み解き、ココナツを輸出資源として位置づけてきた歴史を考察しました。

分析の手がかりは、作物を、それが育つ土地だけでなく、人々の労働、環境、技術、流通とのつながりから捉える「クロップスケープ」という視点です。中心となる建築物は、イメルダ・マルコスが推進した、ココナツ材をふんだんに使う「タハナン・ピリピノ」、通称ココナツ宮殿です。著者はこの建物を、植民地期から続く資源利用の歴史の中に置いています。

農園写真が見せたもの、見せなかったもの

論文がたどる米国統治期には、ココナツの果肉を乾燥させた搾油原料「コプラ」の輸出が拡大しました。その栽培技術を試す場となったのが、イワヒグやサンラモンの流刑地・刑務農場です。囚人たちは開墾や植え付けを担い、植物についての自身の知識も持ち込みました。著者は、こうした生産の拡大が、囚人の移送、労働の管理、森林の伐採と結びついていたことを描いています。

一方、投資を呼び込む農園写真では、その労働を担う人々がほとんど見えません。著者によれば、航空写真は土地をすでに管理された生産空間として示し、下草の茂る農園と整備後の農園を並べた写真は、米国式の農業による「改善」を印象づけました。太い幹や多くの実をつけた木の写真も、科学的な管理によって収益性の高い農園を再現できるという期待を伝えていました。

著者は、これらの写真を単なる生育記録とは捉えていません。写真や栽培手引書は、土地や植物を投資・管理の対象として見せる一方、小規模農家の多様な利用法や、生産を支える労働を見えにくくする役割も果たしたと論じています。

ココナツ宮殿に引き継がれた資源観

ココナツ宮殿は、地域ごとの工芸や植物を取り入れ、国民の一体性、職人の技術、国産素材の可能性を示す建物として構想されました。しかし著者は、植民地支配からの脱却をうたうこの建築が、フィリピンを世界市場向けの熱帯産品の供給地とする考え方を、国家開発の言葉で引き継いだと解釈しています。建設資金とココナツ産業振興機関や小規模農家への課徴金との関係にも目を向け、華やかな建物の背後にある負担と利益の偏りを指摘しました。

論文は、ココナツ宮殿を環境に優しい建築として評価する際にも、素材だけでなく、それを支える生産と取引の関係を見る必要があると結びます。ココナツの利用そのものを否定するのではなく、建物や商品の見た目からは伝わりにくい、土地と働く人々の歴史まで含めて捉えることが、この研究の示す視点です。

原著論文の著者・所属:Theresa Ventura(Concordia University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Theresa Ventura. Planting Power. Plant Perspectives 2026-09-16. DOI: 10.3197/whppp.63876246815930. 原著ライセンス:CC BY.