著者の所属・活動拠点の国は、フィリピンです。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

この論文が取り上げた問題

世界的に子どもの肥満が増える一方で、ビタミンやミネラルといった微量栄養素の不足も続いています。この「栄養の二重負担」は、特に低・中所得国に重くのしかかっています。本論文は、新たな調査を行った研究ではなく、フィリピンの学童を対象とした先行研究を読み解き、論点を整理した意見論文です。

取り上げられたのは、Amarraらが2025年に発表した2つの研究です。マニラ首都圏に住む、見たところ健康な5〜9歳の学童166人を調べたものです。1つ目の研究では、EBウイルス(エプスタイン・バーウイルス)に感染した経験を示す抗体を持つ子どもが多いことが報告されました。また、過体重・肥満、血清ビタミンCの低さ、鉄値の高さが、炎症や好中球(白血球の一種)の異常と有意に関連していたとされます。ここでいう炎症は、炎症の目印となるCRPという物質で判定されたものです。2つ目の研究では、市販の焼き菓子、シリアル、加工米菓子などを日常的に食べていることが、炎症の指標の上昇と関連していたと報告されました。

著者は、これらの食品を「NOVA分類」という国際的な枠組みで整理しています。NOVA分類は、栄養成分ではなく、工業的な加工の程度と目的によって食品を4群に分けるものです。著者によれば、先行研究で挙げられた市販の焼き菓子、インスタント麺、包装シリアルは、乳化剤や安定剤などの添加物を含む「超加工食品」(第4群)に当たります。そのうえで本論文は、3つの目的を掲げています。フィリピンの社会経済状況の中に先行研究の結果を位置づけること、研究デザイン上の限界を検討すること、そして腸内細菌と免疫の関わりを、今後の研究を方向づける考え方として提案することです。

フィリピンの状況と、研究方法への指摘

著者はまず、フィリピンで急速な「栄養転換」が進んでいる点を指摘します。かつての子どもの栄養問題は、主に発育阻害(低身長)や消耗(やせ)でした。現在は都市化や食品広告の広がりにより、伝統的で栄養に富む食事が、高カロリーで栄養の乏しい超加工食品に置き換わりつつあるとされます。著者は、インスタント麺や包装菓子をよく食べるという結果を、個人の選択だけで説明できるものではないと述べます。食料不安や、工業化が進んだ食環境を反映しているという見方です。

先行研究の長所として著者が挙げるのは、世界の栄養研究で取り上げられることの少ない公立校の子どもを対象にした点です。また、母親の学歴、性別、体格指数(BMI)といった要因を調整している点も評価しています。一方で、限界も指摘しています。対象が166人と比較的少なく、マニラ首都圏に限られているため、農村部などの子どもに結果をそのまま当てはめにくいことです。食事の調査は、別々の2日について母親や養育者に前日の食事を聞き取る方法で行われました。この方法には記憶違いが入り込みやすく、長期にわたる超加工食品の摂取を捉えるには十分でない可能性があるとされます。

炎症の判定には、CRPが「あるかないか」を二択で判定する簡易検査が使われていました。この方式は安価で選別には向いています。しかし、食事量に応じて炎症の程度がどう変わるかは評価できず、軽い慢性炎症を捉えるには高感度CRP検査が適していると著者は述べています。さらに、感染症、成長段階、身体活動、家庭の経済状況や食料事情といった、測られていない要因が炎症や白血球の値に影響しうると指摘します。また、ある一時点を調べる横断研究であるため、栄養不足や超加工食品の摂取が炎症に先立つのか、つまり因果の向きは定まらないことも強調しています。

結果の背後にある仕組みについての考察

ビタミンCについて、著者は、低いビタミンC状態と炎症の関連は既存の免疫学の知見とよく合うと述べています。ビタミンCは、免疫細胞を活性酸素から守ること、皮膚や粘膜のバリアを保つこと、白血球の働きを支えることに関わります。そのため不足すると免疫の監視が弱まり、体内に潜むEBウイルスが目立たない形で再び活動しやすくなる可能性があるとしています。

EBウイルスについて、著者は3つの見方を示しています。1つ目は、過密な住環境などによる早期感染を映す、社会経済的な弱さの目印という見方です。2つ目は、潜伏中にも再活性化して炎症を起こしうる要因という見方です。3つ目は、CRPや白血球の値そのものを変えてしまう交絡要因という見方です。ウイルス量の測定や、潜伏状態と再活性化を区別する検査が行われていないため、著者はEBウイルスを「測られていない重要な交絡要因」として残っていると位置づけています。

鉄については、血清鉄が高いことを鉄過剰や酸化による害の証拠とみなすことに慎重であるべきだと論じています。血清鉄は日内変動や食事の影響を受けやすい値です。また、炎症が起きると、ヘプシジンというホルモンの働きで血中の鉄は通常むしろ下がります。このため、血清鉄の高さが炎症と関連したという結果は生化学的には説明しにくく、一時的な食事の変動などが影響した可能性があるというのが著者の見解です。正確に評価するには、フェリチン、トランスフェリン飽和度、ヘプシジンなどを組み合わせた検査が必要だとしています。

超加工食品については、先行研究が糖や飽和脂肪の多さに主な原因を求めていました。これに対して著者は、腸の粘膜が最初の影響の場になるという仮説を提案しています。動物や細胞を使った実験では、焼き菓子などに使われる一部の乳化剤が腸内細菌の構成を変え、腸を守る粘液層を損なうことが示されています。その結果、細菌の成分が血中に入り込み、炎症を引き起こすという筋道が考えられています。ただし著者自身、これは理論上のモデルにとどまると明言しています。低・中所得国の子どもの腸は寄生虫や腸の慢性的な不調などの影響も受けるうえ、先行研究では腸内細菌やバリア機能が測定されていません。そのため、この仮説は検証されていないと述べています。

論文が示す意味

著者は、Amarraらの研究が、フィリピンの学童で肥満と微量栄養素不足が同時に起きている実態について、価値ある疫学的知見をもたらしたと評価しています。微量栄養素の不足や超加工食品の頻繁な摂取が炎症と統計的に関連するという考えも、生物学的にあり得る妥当なものだとしています。

同時に本論文は、その関連が何によって生じているのかは、まだ解きほぐされていないことを丁寧に示しています。研究デザイン、炎症や鉄の測り方、感染症の影響といった論点です。この論文から伝わるのは、子どもの食事と炎症の関係を、栄養素の数値だけでなく、社会環境や感染、腸と免疫のつながりを含めて捉える必要があるという視点です。

原著論文の著者・所属:Vheejay B. Tampol(Department of Biochemistry, Molecular Biology and Nutrition, Faculty of Medicine and Surgery, University of Santo Tomas)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Vheejay B. Tampol. Obesity, diet, and inflammation in Filipino schoolchildren: an opinion paper. Frontiers in Nutrition 2026-08-14. DOI: 10.3389/fnut.2026.1896799. 原著ライセンス:CC BY.