著者の所属・活動拠点の国は、イラン、トルコです。
掲載誌:Journal of Microbiology Biotechnology and Food Sciences
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
マスタード(カラシナの仲間)は古くから世界各地で栽培され、香辛料や食用油の原料として使われてきました。著者らによると、収量が高く、乾燥や病気に強いことから、イランの乾燥地帯で農家が育てる作物の候補にもなりうるとされています。イラン南部ではマスタードが栽培され、伝統的に天然の保存料として使われてきました。小魚とマスタード種子などを合わせて発酵させる伝統的な魚醤「マフヤワ」の材料にもなっています。
一方で、イランで栽培されているマスタードが植物学的にどの種に当たるのかは、正確には確かめられていませんでした。研究チームは、イラン南部の2地域で栽培されるマスタード種子を遺伝子の情報から識別すること、そして種子と種子から取った油の化学的な性質を調べることを目的としました。研究開始時の仮説は「2つの試料は化学組成が似ており、どちらもブラウンマスタード(Brassica juncea)に属する」というものでした。
何をどのように調べたか
試料は、ホルモズガーン州ハジアバードとファールス州ラーレスターンという、イラン南部の2地域で採取した種子です。まず植物学の専門家が見た目の特徴を調べました。
遺伝的な識別には「DNAバーコーディング」という手法を用いました。これは、種ごとに違いが現れやすいDNAの短い領域を読み取り、データベースに登録された既知の配列と照合して種を見分ける方法です。研究チームは、植物の葉緑体DNAにある「trnH-psbA」と呼ばれる領域を目印として選びました。この領域を増幅して塩基配列を読み取り、既知のアブラナ属植物の配列と比較したうえで、類縁関係を枝分かれ図で示す系統樹を作成しました。
あわせて、種子に含まれる水分、油、たんぱく質、炭水化物、食物繊維、灰分、鉄やカルシウムなどの無機質を標準的な分析法で測定しました。さらに種子から油を抽出し、脂肪酸の種類と割合のほか、油の品質を示す指標を調べました。指標には、油の劣化で生じる遊離脂肪酸の量を示す「酸価」、酸化の初期段階で生じる過酸化物の量を示す「過酸化物価」、加熱しながら空気を送り込んで酸化が目立って進むまでの時間を測る「酸化安定性指数」などが含まれます。
主な結果
見た目の上では、2つの試料はどちらも小さく球形の茶色い種子で、植物学の専門家はブラウンマスタードと判断しました。ところが遺伝子を調べると、2つの試料には違いがありました。増幅したDNAを電気泳動という方法で長さごとに分けたところ、一方の試料では長さの異なる3本の帯が現れたのに対し、もう一方では1本だけでした。条件を変えて繰り返しても、この違いは変わりませんでした。
読み取った配列どうしの一致率は98%でした。既知の配列との比較では、どちらの試料もブラックマスタード(Brassica nigra)の該当領域と99%一致し、別のアブラナ属植物とは97%と95%の一致でした。いずれも100%の一致ではありませんでした。系統樹の上では、2つの試料はほかのアブラナ属植物とは別のまとまりに位置づけられました。
一方、化学組成は2つの試料の間で統計的な差がみられませんでした。種子の油の含有量は32.08%と33.98%、たんぱく質は29.87%と30.43%でした。著者らは、灰分などの値がマスタード種子に定められた上限を下回っていたことも報告しています。
種子油はどちらも不飽和脂肪酸が多く(88.06%と89.13%)、飽和脂肪酸は少ない(10.87%と11.94%)という結果でした。脂肪酸の中ではエルカ酸が約39%と最も多く、次いでリノレン酸が約24%、リノール酸が約14%、オレイン酸が約9%でした。酸価は0.55と0.70 mg KOH/g、過酸化物価は2.92と3.27 meq O2/kg、酸化安定性指数は4.12時間と4.32時間でした。研究チームは、これらの油の性質が、食用のアブラナ属種子油について国際規格が定める範囲内にあったと報告しています。
研究が示すこと
この研究では、異なる地域で採れた2つのマスタード種子は、化学的な性質がよく似ていたにもかかわらず、遺伝的な特徴は同じではありませんでした。どちらも、見た目から判断されたブラウンマスタードとも遺伝的な隔たりがみられました。著者らはこの結果から、これらがアブラナ属の新しい種または亜種に属する可能性があると考えていますが、分類を確定するにはさらなる研究が必要だとしています。
見た目だけでは近縁の種を見分けにくいなかで、DNAの情報が識別の手がかりになることを示した研究といえます。あわせて著者らは、油の含有量の多さや油の品質指標などから、イラン産マスタード種子には香辛料や植物油の原料として使える可能性があると述べています。
原著論文の著者・所属:Morteza Adeli Milani(Assistant professor of Department of Food Science and Technology, Islamic Azad University, Zanjan, Iran)、Maryam Ghobadi Dana(Microbiology Research Group, Faculty of Food Industry and Agriculture, Standard Research Institute, Karaj, Iran.)、Babak Ghanbarzadeh(Department of Food Engineering , Faculty of Engineering , Near East University , Nicosia , North Cyprus , Mersin 10 , Turkey; Department of Food Science and Technology , Faculty of Agriculture , University of Tabriz , Tabriz , Iran)、Peymaneh Ghasemi Afshar(Department of Food Science and Technology , Karaj Branch , Islamic Azad University , Karaj , Iran)、Ainaz Alizadeh(Department of Food Science and Technology , Tabrize Branch , Islamic Azad University , Tabrize , Iran)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Morteza Adeli Milani, Maryam Ghobadi Dana, Babak Ghanbarzadeh, et al. A NOVEL STUDY ON GENETIC DIVERSITY OF IRANIAN MUSTARD SEEDS AND SOME CHEMICAL PROPERTIES OF THEIR OILS. Journal of Microbiology Biotechnology and Food Sciences 2026-08-07. DOI: 10.55251/jmbfs.5579. 原著ライセンス:CC BY.