この研究は、エジプトの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Scientific Reports
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ガーデンクレス(学名レピディウム・サティブム、中東では「ハブ・エル・ラシャード」と呼ばれる)は、アブラナ科の食用植物です。種子は昔から食用や民間薬として使われてきました。種子の重さの約4分の1は油(固定油)です。この油には、オメガ3系のα-リノレン酸などの多価不飽和脂肪酸(二重結合を2つ以上持つ脂肪酸)や、一価不飽和脂肪酸が含まれることが知られています。
一方、不飽和脂肪酸は二重結合を持つため、高温で処理すると分解や酸化、構造の変化が起こりやすいとされます。研究チームは、常温でじっくり抽出する方法と加熱して抽出する方法を並べて比べ、油の成分がどう違うかを詳しく調べた研究はまだ少ないと指摘しています。
そこで著者らは、抽出時の温度条件が種子油の量と成分にどう影響するかを調べました。あわせて、抽出条件の違いが試験管内での抗酸化活性と、でんぷんを分解する酵素を抑える働きに表れるかも検討しました。これまで種子の水抽出物やメタノール抽出物では糖尿病に関わる活性が報告されてきましたが、油のように水に溶けにくい成分についての検討は限られていたため、その点を確かめることも目的の一つでした。
二つの抽出法と分析の方法
研究チームは、エジプトの市場で購入した種子を粉砕し、いずれも有機溶媒のn-ヘキサンで油を取り出しました。一つは常温の溶媒に72時間浸す方法で、24時間ごとに溶媒を入れ替えて計3回抽出しました(論文では「冷抽出油」と呼んでいます)。もう一つは、溶媒を加熱して循環させるソックスレー抽出という方法で、60〜70℃で4時間抽出しました(「熱抽出油」)。
得られた油は、アルカリで処理して脂肪酸を含む部分(けん化物)と、ステロールなどを含む残りの部分(不けん化物)に分けられました。それぞれをガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS、混合物を成分ごとに分けて種類を特定する手法)で調べ、検出された成分の相対的な割合を比べました。
また、試験管内の実験で、抗酸化の働きを2種類の方法で測りました。一つは安定な人工ラジカル(DPPH)を消す力、もう一つは総抗酸化能です。さらに、でんぷんを分解する消化酵素α-アミラーゼをどれだけ阻害するかも調べました。活性の強さはIC50(反応や酵素の働きを半分に抑えるのに必要な濃度)で比べています。この値は小さいほど作用が強いことを示します。
主な結果
まず、油の量と色に違いが出ました。250グラムの種子から、冷抽出では約50ミリリットル(収率20%)の淡い黄色の油が得られました。熱抽出では約35ミリリットル(収率14%)で、色は濃いオレンジ色でした。著者らは、冷抽出の収率が高かった理由として、長時間かけて繰り返し抽出したことを挙げています。
脂肪酸の構成も大きく異なりました。冷抽出油では、オメガ3系のα-リノレン酸が脂肪酸を含む部分の主成分で、相対的な割合は36.04%でした。熱抽出油ではこれが10.16%に下がりました。飽和脂肪酸の割合は、冷抽出油の18.37%に対し、熱抽出油では29.87%と高くなっていました。冷抽出油は多価不飽和脂肪酸の割合が41.28%と高く、熱抽出油は一価不飽和脂肪酸の割合が47.07%と高い構成でした。著者らは、α-リノレン酸の減少は熱による酸化や分解で説明できる可能性があるとしています。ただし、酸化の指標は測っておらず、これは考えられる説明の一つにとどまると述べています。
ステロールなどを含む部分では、熱抽出油でγ-シトステロールが26.87%と主成分になっていました。冷抽出油では、比較的小さな炭化水素類が多く検出されました。加熱によって、こうした重い脂溶性成分が種子から取り出されやすくなった可能性があると研究チームは考えています。
試験管内での活性は、どちらの油にも認められました。そのうえで、冷抽出油のほうが強い結果でした。DPPHを消す働きのIC50は、冷抽出油が約138マイクログラム/ミリリットル、熱抽出油が約315マイクログラム/ミリリットルでした。冷抽出油は、およそ半分の濃度で同じ効果に達したことになります。総抗酸化能でも、冷抽出油のIC50は約75、熱抽出油は約141マイクログラム/ミリリットルでした。α-アミラーゼについては、両方の油が中程度の阻害を示しました。冷抽出油の阻害がより強く、IC50は約123マイクログラム/ミリリットルと報告されています。
この研究が示すこと
この研究は、同じ種子と同じ溶媒を使っても、抽出の条件によって油の量や脂肪酸の構成、試験管内での働きが大きく変わりうることを示しました。とくに常温で抽出した油では、オメガ3系のα-リノレン酸が多く保たれていました。一方、加熱抽出は時間が短く、溶媒も少なくて済むという利点があると著者らは述べています。
同時に、研究チームはいくつかの注意点も挙げています。二つの油の違いは、温度だけでなく、抽出時間を含む方法全体の違いを反映したものです。また、今回のデータは、多価不飽和脂肪酸の多さと活性の強さとの直接の関係を確かめたものではありません。さらに、得られた結果は試験管内のもので、治療効果の証拠と受け取るべきではないとしています。種子油の成分と性質が抽出のやり方に左右されることを、成分と活性の両面から具体的に示した点に、この研究の意味があります。
著者:Mai T. Abdo(Department of Pharmacognosy, Faculty of Pharmacy, Ain Shams University, Abbassia, 11566, Cairo, Egypt)、Mohamed S. Elnaggar(Department of Pharmacognosy, Faculty of Pharmacy, Ain Shams University, Abbassia, 11566, Cairo, Egypt)、Ahmed M. Elissawy(Department of Pharmacognosy, Faculty of Pharmacy, Ain Shams University, Abbassia, 11566, Cairo, Egypt)、Haidy A. Gad(Department of Pharmacognosy, Faculty of Pharmacy, Ain Shams University, Abbassia, 11566, Cairo, Egypt)、Sherweit Hamed El-Ahmady(Department of Pharmacognosy, Faculty of Pharmacy, Ain Shams University, Abbassia, 11566, Cairo, Egypt)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mai T. Abdo, Mohamed S. Elnaggar, Ahmed M. Elissawy, et al. Effect of extraction temperature on the fatty acid composition, metabolic profile, and bioactivity-related properties of Lepidium sativum seed oil. Scientific Reports 2026-10-02. DOI: 10.1038/s41598-026-70947-y. 原著ライセンス:CC BY.