著者の所属・活動拠点の国は、インドです。

掲載誌:Nepal Journal of Biotechnology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

チロンジ(学名 Buchanania lanzan)は、インドやネパールなどに分布するウルシ科の樹木です。その種子は脂質、たんぱく質、食物繊維を多く含み、食品や栄養補助食品の素材として関心を集めています。種子から得られる油は、主にオレイン酸とリノール酸で構成されることが知られています。

油に含まれる脂肪酸は、加熱や空気との接触によって性質が変わることがあります。そこで研究チームは、種子を焙煎したときと、取り出した油を空気に触れさせたまま置いたとき(自動酸化)とで、油の脂質組成がどう変化するかを調べました。著者らによれば、¹H NMR(プロトン核磁気共鳴)分光法を使ってこの問題を体系的に調べた研究は、これが初めてです。

何をどのように調べたか

焙煎の実験では、乾燥させた種子10グラムをステンレス皿に広げ、ふたをせずに180℃のオーブンで15分、30分、45分、60分加熱しました。各条件は3回ずつ行われました。その後、溶媒のヘキサンを使って種子から油を抽出しました。

自動酸化の実験では、まず未加熱の種子から油を抽出しました。その油を、穴を開けたろ紙で覆ったシャーレに入れ、実験室の通常の環境に置きました。2週間ごとに油を採取し、8週目まで追跡しています。

分析には¹H NMRを用いました。これは分子の中にある水素原子が出す信号を測る方法です。水素原子は、分子内のどこにあるかによって信号の現れる位置が変わります。信号の面積を比べれば、成分の割合を見積もることができます。研究チームはこの方法で、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸(MUFA)、多価不飽和脂肪酸(PUFA)の割合を求めました。あわせて、油の主成分であるトリアシルグリセロール(TAG)と、そこから切り離された遊離脂肪酸(FFA)の割合も見積もりました。TAGは、グリセロールに脂肪酸が3つ結合した分子です。

この方法は、試料を化学的に変換する手間がほとんどかからず、試料を壊さずに複数の成分を一度に測れます。研究チームは、得られた脂質組成が、ガスクロマトグラフィーなどを用いた既報の研究結果とよく一致したと報告しています。

主な結果

焙煎による変化は小さいものでした。一価不飽和脂肪酸の割合は、どの条件でも約56.5〜57.2%の範囲に収まり、統計的に有意な差はありませんでした。多価不飽和脂肪酸は、未焙煎の3.93%から30分焙煎で4.81%まで有意に増え、45〜60分ではやや下がりました。飽和脂肪酸は、30〜45分の焙煎で未焙煎より有意に低くなりました。その結果、不飽和脂肪酸全体の割合は45分で61.75%と最も高くなりました。

一方で、TAGは98.17〜98.83%、遊離脂肪酸は1.17〜1.83%にとどまり、いずれも有意な変化はありませんでした。著者らはこの結果から、今回の焙煎条件では油の基本的な構造はおおむね保たれ、変化は脂肪酸の飽和度に関わる小幅なものだったと述べています。

空気中での保存では、より明確な変化が見られました。8週間のあいだにTAGは98.83%から92.83%へ減り、遊離脂肪酸は1.17%から7.17%へ増えました。回帰分析では、保存期間と遊離脂肪酸の量のあいだに強い直線的な関係が示されています。著者らは、TAGのエステル結合が加水分解されて脂肪酸が切り離されたことが、この変化の原因と考えています。

保存中、多価・一価不飽和脂肪酸はおおむね大きく変わりませんでした。飽和脂肪酸は2週目から8週目にかけて緩やかに増え、不飽和脂肪酸全体はわずかに減りました。研究チームは、空気中での保存のほうが焙煎よりも油の脂質に大きな影響を与えたと結論づけています。

研究が示すこと

この研究は、チロンジ種子を今回の条件で焙煎しても、油の主要な脂質組成は大きく崩れなかったことを示しています。一方で、油を空気に触れる状態で保存すると、時間とともに油の劣化が進むことも示しました。あわせて、¹H NMRが油の成分変化を手早く、試料を壊さずに追跡する手段として役立つことも示されています。

ただし、著者らは限界も挙げています。今回使った種子は一つの入手源のものだけです。また、酸化の程度を示す過酸化物価などの指標は測定していません。今回の結果は、こうした範囲の中で、加工と保存がチロンジ種子油に与える影響の違いを示したものといえます。

原著論文の著者・所属:Prashanth M(Department of Chemistry, University College Mangalore, Mangalore, India)、Sumana S(Department of Chemistry, University College Mangalore, Mangalore, India)、Jayalakshmi Kamaiah(Department of Chemistry, Karnatak University's Karnatak Science College, Dharwad, India)、Sanjay Annarao(Department of Chemistry, University College Mangalore, Mangalore, India)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Prashanth M, Sumana S, Jayalakshmi Kamaiah, et al. 1H NMR Spectroscopic Analysis of Lipid and Fatty Acid Modulations in Chironji Seed Oil Induced by Roasting and Auto Oxidation. Nepal Journal of Biotechnology 2026-07-31. DOI: 10.54796/njb.v14i1.494. 原著ライセンス:CC BY.