著者の所属・活動拠点の国は、ポーランドです。

掲載誌:International journal of molecular sciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的

世界人口の増加や資源への負担の高まりを背景に、従来の食肉生産に代わる持続可能な食料源が求められています。食用昆虫はその候補の一つです。家畜より少ない飼料・水・土地で育てられ、温室効果ガスの排出も少ないとされます。また、たんぱく質やミネラルに富み、ポリフェノールなどの生理活性物質を含むことも報告されています。

一方、ヨーロッパなどでは昆虫を食べることへの文化的・心理的な抵抗が根強くあります。そのため、昆虫の姿が見えない粉末の形で身近な食品に加える研究が進んでいます。今回の研究チームは、ミールワーム(チャイロコメノゴミムシダマシの幼虫)の粉末を加えたクラッカーを作りました。そして、栄養価、でんぷんの消化性、予測グリセミック指数、抗酸化性、色、食感、消費者の評価を一つの研究でまとめて調べました。著者らは、これらを同時に評価した研究はまだ限られていると述べています。

何を調べたのか

研究チームは、小麦粉の一部をミールワーム粉末に置き換えたクラッカーを作りました。粉末の割合は2%、5%、10%の3種類で、粉末を含まない対照のクラッカーと比べました。

調べた項目は多岐にわたります。色と硬さ・割れやすさは機器で測りました。たんぱく質の分子量の分布は電気泳動で調べました。ほかに、たんぱく質・脂質・炭水化物・ミネラルの量、抗酸化活性、フェノール化合物の種類も分析しました。でんぷんの消化性は試験管内の消化試験で評価し、その結果から、食後の血糖の上がりやすさの目安となる予測グリセミック指数を求めました。さらに、消費者による官能評価も行いました。

主な結果

ミールワーム粉末の割合が増えるほど、クラッカーは暗い色になりました。明るさの指標は、対照の78.01から10%添加で55.60まで下がりました。色の差は、消費者が目で見て分かる程度だったと報告されています。食感も変わりました。硬さは17.55ニュートンから6.39ニュートンへと6割以上低下し、割れるまでの時間も短くなりました。著者らは、10%添加ではもろくなりすぎて、輸送や保存の際に形を保ちにくくなる可能性を指摘しています。

栄養面では、10%添加でたんぱく質が100gあたり13.10gから15.36gに増えました。マグネシウム、カリウム、鉄、亜鉛も増えました。カルシウムは増える傾向が見られたものの、統計的に意味のある差ではありませんでした。一方、脂質は14.56gから23.42gへ、エネルギーは452kcalから491kcalへ増え、炭水化物は減りました。

抗酸化性も粉末の割合に応じて高まりました。総フェノール量は対照の3倍ほどに増え、2種類の抗酸化試験の値はいずれもフェノール量と強く相関していました。成分分析では13種類のフェノール化合物が検出されました。4-ヒドロキシ安息香酸などは対照には見られず、粉末と強化クラッカーに見られました。ただし著者らは、これらの抗酸化試験は化学的な測定であり、体内での効果を直接示すものではないと述べています。

でんぷんについては、すばやく消化されるでんぷんが減り、ゆっくり消化されるでんぷんが増えました。予測グリセミック指数も56.32から54.82へ、統計的に意味のある差で下がりました。しかし著者らは、この差は小さいと述べています。試験管内の消化性がわずかに変わったことを示す結果であり、食後の血糖反応が実際に下がることの証拠とはみなすべきではない、という位置づけです。官能評価では、粉末の割合が増えるほど色の評価が下がりました。

研究が示すこと

この研究は、ミールワーム粉末を加えることで、クラッカーのたんぱく質・ミネラル・フェノール量や試験管内での抗酸化性が高まることを示しました。同時に、色が暗くなる、食感が弱くなる、脂質とエネルギーが増えるといった変化も伴うことが明らかになりました。著者らは、栄養面の利点と見た目・食感・消費者の受け入れやすさとの兼ね合いを考え、添加量を最適化することが重要だとしています。

原著論文の著者・所属:Zielińska E(Department of Analysis and Evaluation of Food Quality, University of Life Sciences in Lublin, Skromna Str. 8, 20-704 Lublin, Poland.)、Jakubczyk A(Department of Biochemistry and Food Chemistry, University of Life Sciences in Lublin, Skromna Str. 8, 20-704 Lublin, Poland.)、Jaglińska K(Department of Physical Chemistry, Medical University of Lublin, Chodźki 4a, 20-093 Lublin, Poland.)、Polak B(Department of Physical Chemistry, Medical University of Lublin, Chodźki 4a, 20-093 Lublin, Poland.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zielińska E, Jakubczyk A, Jaglińska K, et al. Bioactive and Molecular Characterization of Mealworm (<i>Tenebrio molitor</i>) Powder: Nutritional and Functional Implications for Crackers. International journal of molecular sciences 2026-10-21. DOI: 10.3390/ijms27209378. 原著ライセンス:CC BY.