掲載誌:Genetics and Molecular Research

ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:生活習慣病の時代に雑穀を見直す

2型糖尿病、肥満、心臓や血管の病気、高血圧、メタボリックシンドローム、一部のがんなどの生活習慣病は、世界的に大きな公衆衛生上の課題とされています。著者らは、こうした病気が不健康な食習慣や運動不足、急速な都市化と深く結びついていることを背景に挙げています。論文が引用する世界保健機関(WHO)の資料では、生活習慣病を含む非感染性疾患による死亡は年間およそ4100万人で、世界の死亡の約74%を占めるとされています。

伝統的な食事に多かった全粒穀物や豆類、野菜が、精製された穀物や超加工食品に置き換わってきたことも、著者らは問題として指摘しています。そこで、基本的な栄養に加えて体に良い働きが期待される「機能性食品」への関心が高まっています。研究チームが注目したのが、ミレットと総称される小粒の雑穀です。

本論文は新たな実験を行った研究ではなく、これまでに発表された研究成果をまとめた総説です。シコクビエ、トウジンビエ、アワ、ソルガム(モロコシ)、ヒエの一種、リトルミレット、コドミレット、キビといった主な雑穀について、栄養成分、体内での働き、生活習慣病の予防や管理との関わりを整理しています。

雑穀に含まれる栄養と成分

著者らによると、雑穀は精白米や精製小麦に比べて栄養面で優れているとされています。複雑な構造をもつ炭水化物、食物繊維、レジスタントスターチ(小腸で消化されにくいでんぷん)、植物性たんぱく質に加え、カルシウム、鉄、マグネシウム、リン、カリウム、亜鉛などのミネラルやビタミンB群を含みます。たんぱく質の含有量は種類により7〜13%程度とされ、必須アミノ酸のリシンが比較的少ない点は、豆類と組み合わせることで補えると紹介されています。

種類ごとの特徴として、シコクビエはカルシウムが特に多く、トウジンビエは鉄と亜鉛の重要な供給源、ヒエやアワは食物繊維が多く血糖値の上がりやすさを示すグリセミック指数(GI)が低め、ソルガムは抗酸化作用をもつポリフェノールが豊富だと整理されています。

さらに雑穀には、フェノール酸、フラボノイド、タンニン、植物ステロール、カロテノイドなどの生理活性成分が含まれます。著者らは、これらの成分が、体内で細胞を傷つける活性酸素を抑えたり、炎症に関わる体内の信号を弱めたりする働きを持つと報告された研究を紹介しています。また、タンニンやポリフェノールがでんぷんを分解する消化酵素の働きを抑え、糖の吸収をゆるやかにする可能性や、植物ステロールが腸でのコレステロール吸収を妨げる仕組みにも触れています。食物繊維やレジスタントスターチは大腸で腸内細菌に分解され、短鎖脂肪酸と呼ばれる物質を生み、腸の健康や代謝に関わると説明されています。

病気ごとに整理された主な報告

2型糖尿病については、低いGI、豊富な食物繊維やレジスタントスターチによって糖の消化吸収がゆるやかになるとされ、著者らは、雑穀を日常的に食べることで空腹時血糖、食後血糖、過去数か月の血糖状態を反映するHbA1cが低下したとする研究を紹介しています。

肥満については、食物繊維やたんぱく質が満腹感を高め、摂取エネルギーを抑えることが挙げられ、雑穀を使った食品の摂取が体重、BMI、腹囲の小幅な減少と関連していたと報告されています。心臓や血管の病気、高血圧、脂質異常症については、食物繊維、マグネシウム、カリウム、植物ステロール、ポリフェノールなどを通じて、血中脂質の改善や血圧の調整に関わる可能性がまとめられています。

このほか、雑穀は本来グルテンを含まないため、グルテンに耐性のない人にも適しているとされ、腸の健康を支える役割が述べられています。一方、がんの予防については、抗酸化成分や食物繊維との関わりが示唆されているものの、臨床的な根拠はまだ不十分であると著者ら自身が記しています。

著者らは、雑穀の利用を妨げる課題にも触れています。食の好みの変化や都市化、認知度の低さ、加工技術の不足に加え、「貧しい人の食べ物」というイメージ、調理のしやすさや保存性、入手しやすさの問題から、雑穀の消費はこの数十年で大きく減ってきたとしています。また、外皮を取り除く精白は食感を良くする一方で、外層に多い食物繊維やミネラルを減らすため、程度の調整が必要であり、浸漬(水に浸す処理)は消化や栄養の吸収を妨げる成分を減らすと紹介されています。

この総説が示すこと

研究チームは、これまでの知見を総合すると、雑穀は健康的な食事のあり方を後押しし、生活習慣病の負担を減らすうえで重要な役割を果たし得ると結論づけています。あわせて、少ない水や資材で育ち、干ばつや暑さにも強い作物であることから、持続可能な食料システムにも貢献し得ると述べています。

この論文は、栄養成分、体内での働き、病気との関わりから利用上の課題までを一つにまとめ、精製された穀物中心の食生活の中で、昔から食べられてきた雑穀の価値を見直す視点を示したものといえます。

原著論文の著者・所属:Jyoti Pal(Research scholar, Institute of home science, Khandari, Agra, Email-)、Prof. Archana Singh(Dean & HOD Food and nutrition Department, Institute of home science, Khandari, Agra)、Megha Upadhyay(Research scholar, Institute of home science, Khandari, Agra)、Kajal(Research scholar, Institute of home science, Khandari, Agra)、Alpi Mittal(Research scholar, Institute of home science, Khandari, Agra)、Km. Saflata(Research scholar, Institute of home science, Khandari, Agra)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jyoti Pal, Prof. Archana Singh, Megha Upadhyay, Kajal, Alpi Mittal, Km. Saflata ROLE OF MILLETS IN THE PREVENTION AND MANAGEMENT OF LIFESTYLE DISEASES: NUTRITIONAL, FUNCTIONAL AND THERAPEUTIC PERSPECTIVES – A COMPREHENSIVE REVIEW. Genetics and Molecular Research 2026-08-12. DOI: 10.4238/dta4yd76. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.

本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。