秋の北海道では、さけ漁が盛んになる9月から10月にかけて、スーパーの鮮魚売り場に生の筋子が並びます。薄い膜に包まれた、赤い卵のかたまりです。道内では、これを買って帰り、家でいくらにする家庭が多いといいます。

塩水の中で、指の腹を使って薄皮から卵を外し、醤油と酒を合わせた液に一晩漬ける。膜を外すひと手間で、生の筋子はいくらになります。では、膜ごと塩漬けにしたすじこと、粒にほぐしたいくらとでは、ご飯にのせたときの塩の量はどれくらい違うのでしょうか。

膜をつけたまま塩漬けにすれば、すじこ

いくらとすじこは、どちらもさけの卵です。食品成分表では、卵を網目に通して一粒ずつに分け、塩漬けにしたものをイクラ、膜がついたまま塩漬けにしたものをすじことしています。成分表の値は、どちらもしろさけの卵のものです。

さけの卵を食べる歴史は古く、平安時代の「延喜式」(905年)には、さけの加工品として筋子が記されています。「いくら」という呼び名は明治時代にロシア語から入ったといわれ、粒いくらの製造が始まったのは大正時代とされています。

同じ卵でも、塩は2倍あまり

膜があるかないかで、中身はどれほど違うのでしょうか。食品成分表で、イクラとすじこを並べてみます。

成分イクラすじこ
たんぱく質32.6g30.5g
脂質15.6g17.4g
イコサペンタエン酸(EPA)1600mg2100mg
ドコサヘキサエン酸(DHA)2000mg2400mg
ビタミンD44.0µg47.0µg
ビタミンB1247.0µg54.0µg
ナトリウム910mg1900mg
食塩相当量2.3g4.8g

たんぱく質はイクラ、脂質やその中のEPA・DHA、ビタミンはすじこがやや多いものの、どれも大きくは離れていません。はっきり違うのは塩です。食塩相当量はイクラが2.3g、すじこが4.8gで、すじこはイクラの2倍あまりあります。

膜を外したから塩が抜けた、という話ではありません。どちらも塩漬けにしたものの値で、この差は卵そのものより、塩漬けにするときの塩分の量から来ていると考えられます。

ご飯にのせる大さじ1杯では

ご飯にのせる量で考えてみます。大さじ1杯をイクラで18g、すじこで約20gとすると、食塩相当量はイクラがおよそ0.4g、すじこがおよそ1.0gです。

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」は、食塩相当量の1日の目標量を、18歳以上の男性で7.5g未満、女性で6.5g未満としています。すじこを大さじ1杯のせたご飯1杯で、女性の目標量のおよそ15%をとる計算です。イクラなら、同じ大さじ1杯で塩はその半分以下になります。

同じ大さじ1杯のイクラには、ビタミンDがおよそ7.9µg、ビタミンB12がおよそ8.5µg含まれます。食事摂取基準が示す成人の1日の目安量は、ビタミンDが9.0µg、ビタミンB12が4.0µg。ビタミンDはそれに近く、ビタミンB12は2倍あまりの量です。

家でいくらを漬けるときは

ここまでの数字は、塩漬けにしたイクラとすじこの値です。家で作るいくらの醤油漬けの値は、食品成分表にはありません。農林水産省の「うちの郷土料理」に載っている北海道のレシピは、4人分で生筋子2分の1腹に、酒2分の1カップと醤油3分の1カップ。醤油だけで漬ける家庭もあれば、酒やみりんの代わりにかつおや昆布のだしを使う家庭もあり、塩の量は家ごとに違います。売られている醤油漬けを買うなら、商品の栄養成分表示にある食塩相当量が手がかりになります。

生の筋子を家で扱うときは、寄生虫のアニサキスにも気をつけます。農林水産省北海道農政事務所の案内では、新鮮な生のすじこにはアニサキスの幼虫がまじっていることがあるとして、十分に洗い、目でよく見て幼虫がいないことを確かめるよう呼びかけています。アニサキスは、-20℃で24時間以上の冷凍か、中心温度60℃で1分以上の加熱で死滅します。塩漬けにしたり醤油に漬けたりしても死滅しないと、厚生労働省は説明しています。

晩秋に作った醤油漬けは、密封してしっかり冷凍しておけば、正月まで食べられるそうです。生筋子が店に並ぶのは、さけ漁の盛んな秋のうち。醤油の量を好みで加減できるのは、家で漬けるいくらならではです。いまほぐして漬けておけば、年明けの食卓にも、秋のいくらを出せます。

※参考資料

以下の公開資料をもとにNutriMapが構成・執筆しました。