秋の売り場に、真牡蠣が並び始めます。夏の産卵を終え、これから身を太らせていく牡蠣。いつもの鍋やフライに、旬の食材が一つ加わります。
真牡蠣の旬は、おおむね10月から翌年4月ごろ。秋は、旬の入り口です。
ひと粒のふくらみを育てる、海と山
真牡蠣は主に夏に産卵し、蓄えていた栄養を使います。産卵後は、餌から得た栄養を再び体に蓄え、身がふっくらと太っていきます。秋冬の食べ頃は、牡蠣が一年をかけて繰り返す、この営みとつながっています。
牡蠣の餌は、海水の中に漂うプランクトン。牡蠣の育つ場所をたどると、海だけでなく、川や山にも行き着きます。産地の沿岸では、山から栄養を含んだ水が流れ込み、プランクトンが豊富に育つ条件が揃います。海の食材である牡蠣の身を、陸から届く栄養からも育つのです。
育つ海が違えば、食べ頃にも違いが生まれます。岩手県の山田湾では、春の4月から5月にさらに身が大きくなる牡蠣もあります。「牡蠣は冬」とひとくくりにできないのは、産地ごとに身の太る時期が違うため。秋に始まる真牡蠣の季節には、そんな幅があります。
濃厚なのに、脂質は少なめ
牡蠣の持ち味は、クリーミーで濃厚な口当たり。食品成分表のかき(養殖・生)を見ると、身100gあたりの脂質は2.2g。濃厚に感じる食べ物が、必ずしも脂肪たっぷりとは限りません。
牡蠣が体に蓄えるものの一つが、エネルギー源となるグリコーゲンです。牡蠣の味を調べた研究では、グリコーゲンの量と身入りが、濃厚さと関係することが示されています。海で餌を食べ、身に蓄える。ひと粒の味わいに表れます。
ひと粒の身には、亜鉛やビタミンB12なども多く含まれています。乳白色の姿に加え、栄養の豊かさも「海のミルク」と呼ばれるゆえんです。
加熱用だから、鮮度が落ちているわけではありません
売り場に並ぶ「生食用」と「加熱用」。この表示は、生で食べるための条件を満たしているかどうかを示しています。加熱用だから鮮度が新鮮でないとか、味が劣る、という意味ではありません。
生食用には、採取海域や加工などの衛生基準があります。基準を満たす海域で採れ、加工などの条件も満たせば、浄化せずに出荷できる場合があります。一方、出荷前に殺菌した海水などで体内の細菌を減らす「浄化」を行うものもあり、この間の過ごし方が身の状態に変化がでてきます。
例えば、兵庫県相生市の野村水産は、同じいかだで育てた牡蠣でも、出荷前の浄化の有無によって生食用と加熱用に分けています。同店の説明では、生食用は浄化の間に餌を食べないため、身がやや締まります。一方、浄化せずに出荷する加熱用は、身の張り具合や濃い味が持ち味とされ、その身と味を楽しめる鍋やフライには、同店は加熱用を勧めています。
生で食べるなら必ず生食用を。加熱用は中心まで十分に火を通します。ノロウイルス対策の加熱の目安は、中心部を85〜90℃で90秒以上です。
鍋なら旨みの染み出た出汁までひと口。フライならサクッとした衣とジューシーな身を堪能できます。料理ごとにまったく違う表情を見せてくれるのも、牡蠣ならではの楽しみです。
夏の産卵を終え、じっくりと栄養を蓄えた真牡蠣は、これからが本番。あつあつの湯気とともに、今夜の食卓へ季節の味を届けてみませんか。今年も、真牡蠣の旬が始まります。
※参考資料
以下の資料をもとにNutriMapが構成・執筆しました。