10月も下旬になると、香川県坂出市では金時にんじんの出荷が始まります。出荷は2月下旬まで続き、12月が収穫の最盛期です。坂出市は生産量が全国一の産地で、香川県の金時にんじんは海岸地帯の砂地で育ち、すらりとまっすぐな姿と美しい赤色が特徴です。香川県は旬の時期を11月から3月としていて、寒さが増すにつれて、サイズも色もますます良くなるといいます。これから正月に向けて旬を迎える、冬のにんじんです。
金時にんじんは、正月の料理によく使われます。香川県ではおせち料理に重宝されるほか、あんもち雑煮にも入ります。白味噌の汁に、あん入りの丸餅を入れる雑煮です。金時にんじんは大根と一緒に、「家族が仲良く円満でありますように」「今年一年丸く収まりますように」と願って輪切りにして入れます。
京都の白味噌の雑煮にも、丸餅と頭芋(里芋の親芋)、大根に加えて、金時にんじんを入れることがあります。そのあざやかな赤色から、魔除けのために入れられることがあるといいます。金時にんじんは、ふだんの橙色のにんじんより、ひときわ赤い、細長いにんじんです。これだけ色が違うと、中身も橙色のにんじんとは違うのでしょうか。
金時にんじんは、東洋系のにんじん
金時にんじんは「きょうにんじん」とも呼ばれ、東洋系の品種のなかでは、いちばん多く作られているにんじんです。ふだん私たちが食べている橙色のにんじんは、明治以降に入ってきたヨーロッパ系の品種や、それと東洋系との交雑種で、いまはこちらが主になっています。
金時の赤は、主にリコペン
橙色のにんじんの色は、カロテンによるものです。カロテンは、体の中でビタミンAに変わる成分です。一方、金時にんじんは、切ると芯まで真っ赤です。その濃い赤色は、主にリコペン(リコピンとも呼ばれます)という色素によるものです。トマトに含まれる赤い色素と同じものです。1988年に日本大学の研究者が金時にんじんの色素を調べたところ、主な色素はリコペンで、そのほかにβ-カロテンやα-カロテンも含まれていました。
リコペンもカロテンの仲間の色素ですが、体の中でビタミンAに変わる成分には数えられていません。日本食品標準成分表に載っているカロテンの仲間の色素(カロテノイド)は、α-カロテン、β-カロテン、β-クリプトキサンチンなどに限られており、リコペンの数値は公的データとして本表に記載がないのが現状です。
このため、赤い色の濃さは、ビタミンAのもとの多さを表していません。ビタミンAのもとをまとめた「β-カロテン当量」で比べると、ゆでたもの100gあたりで、金時にんじんは橙色のにんじんの半分あまりです。それでも生のものでは100gあたり4500µgで、厚生労働省が緑黄色野菜の目安とする600µgの7倍あまりあるので、緑黄色野菜であることに変わりはありません。
葉酸とカリウムは、金時にんじんが多い
ほかの成分を、ゆでたもので比べると、金時にんじんのほうが多いものがあります。葉酸は5倍あまり、カリウムは倍ほど、食物繊維も1.5倍ほどで、亜鉛もずっと多く入っています。葉酸は、体の中でたんぱく質などをつくる働きに関わるビタミンで、足りなくなると貧血などが起こることが知られています。
反対に、橙色のにんじんのほうが多いのは、カロテンとビタミンAのほか、血液が固まるしくみや骨をつくることに関わるビタミンKです。ビタミンKは、金時にんじんにはわずかしかありません。
| 成分 | にんじん(橙) | 金時にんじん(赤) |
|---|---|---|
| 葉酸 | 19µg | 100µg |
| 亜鉛 | 0.2mg | 1.0mg |
| カリウム | 240mg | 480mg |
| 食物繊維 | 2.8g | 4.1g |
| エネルギー | 28kcal | 40kcal |
| β-カロテン当量 | 8700µg | 4800µg |
| β-カロテン | 7200µg | 4700µg |
| α-カロテン | 3100µg | 230µg |
| ビタミンA(レチノール活性当量) | 730µg | 400µg |
| ビタミンK | 18µg | 2µg |
| マンガン | 0.17mg | 0.12mg |
金時にんじんの旬は、これから3月ごろまで続きます。スーパーで見かけたら、それは色が赤いだけでなく、中身も橙色のにんじんとは違うにんじんです。お正月には魔除けや家族が仲良く円満を願いつつ、ふだんの料理でも、橙色のにんじんと金時にんじんを使い分けて、旬の栄養を食卓に取り入れてみたら如何でしょうか。
※参考資料
以下の公開資料をもとにNutriMapが構成・執筆しました。
- 香川県 中讃農業改良普及センター「香川県さぬき讃ベジタブル『金時にんじん』が収穫期を迎えています!」(2025年12月15日公開)
- 香川県 農業生産流通課「根菜類(『さぬき讃ベジタブル』対象品目)」(2024年4月1日公開)
- 香川県 かがわ地産地消運動推進会議「旬の食材情報」平成29年12月(金時にんじん)
- 農林水産省 広報誌「aff」2021年1月号(香川県のあんもち雑煮の具の切り方)
- 農林水産省「うちの郷土料理」白味噌の雑煮(京都府)
- 農林水産省「うちの郷土料理」あんもち雑煮(香川県)
- 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」第3章 野菜類の留意点(にんじん・きんとき)
- 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」第1章 亜鉛・ビタミンA(カロテン・β-カロテン当量)・ビタミンK・葉酸
- 日本政策金融公庫「技術の窓」No.2461(令和2年12月25日)「トマト果実破砕物およびトマト加工品に含まれるリコピンの迅速定量法」
- 渡辺慶一・斎藤忠雄・広田才之・高橋文次郎「ニンジンのカロチノイド色素の系統間差異」日本食品工業学会誌 35巻5号(1988年)
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「緑黄色野菜」(2025年12月15日更新)
- 出典:文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」:にんじん(根・皮なし・ゆで)、きんとき(根・皮なし・ゆで)、きんとき(根・皮なし・生)