掲載誌:Theoretical and Natural Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

血糖値だけでは説明しきれない合併症

2型糖尿病は世界で患者数が増え続けている病気です。著者が引用する国際糖尿病連合の推計では、糖尿病の人は2000年の約1億5100万人から、2025年には5億8900万人を超えるまでに増えました。そのうち約9割を2型糖尿病が占めます。2型糖尿病は、血糖を下げるホルモンであるインスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」によって血糖値が高くなる病気で、心臓や腎臓などに障害を起こしやすいことが知られています。

著者によると、血糖値を下げる治療で目標値を達成しても、心筋梗塞や脳卒中、腎症や網膜症といった合併症のリスクはかなり残ります。そのため、高血糖だけを病気の進行の原因とみなす考え方には限界があると論文は指摘しています。そこで注目されているのが、体内でくすぶり続ける慢性的な炎症と、活性酸素などによって細胞が傷つく「酸化ストレス」です。これらはインスリン抵抗性を悪化させ、臓器障害にも関わる一方で、従来の血糖降下薬では十分に抑えにくいとされます。

このレビューは、2型糖尿病における炎症と酸化ストレスの仕組みを整理し、食事のパターンや特定の栄養成分がそれらにどう働きかけるかについての既存研究をまとめることを目的としています。患者一人ひとりの炎症や酸化の状態に合わせた食事による予防策を考えるための参考資料を示すことがねらいです。

病気を進める複数の仕組みのつながり

著者はまず、炎症と酸化ストレスが2型糖尿病を進める仕組みについて、過去の研究をもとに4つの側面から整理しています。1つ目はお腹の内臓のまわりにつく脂肪組織(内臓脂肪)の変化です。健康な状態では、内臓脂肪には炎症を抑える働きをもつ免疫細胞が多く存在します。ところが、高脂肪食によって脂肪細胞が肥大するとストレスが生じ、炎症を引き起こす物質が作られるようになります。

2つ目は、脂肪組織から放出される「小さな細胞外小胞」と呼ばれる微小な袋状の粒子です。細胞どうしの情報伝達を担っており、内臓脂肪由来のものはインスリン抵抗性の進行に関わる一方、脂肪由来の幹細胞から出るものはインスリンの効きを高める働きが報告されていると紹介されています。3つ目は、脂肪組織が分泌するホルモン様物質のバランスの乱れです。例として、空腹時に脂肪組織から出るアスプロシンというタンパク質が挙げられています。2型糖尿病や肥満の人では血中濃度が高く、インスリン抵抗性の指標とも関連していることから、炎症・酸化ストレスと病気をつなぐ目印(バイオマーカー)になりうると論文は述べています。4つ目は、インスリンの信号が細胞内でうまく伝わらなくなることです。

著者はこれらを別々の現象ではなく、互いに影響し合いながらインスリン抵抗性を強め、血管や臓器の障害を招く一つの「網の目」のようなつながりとしてとらえています。

食事パターンと食品成分についての報告

次に論文は、食事がこの網の目にどう働きかけるかに関する研究を紹介しています。オリーブオイル、植物性食品、魚を多くとる地中海食については、ポリフェノールや不飽和脂肪酸、食物繊維などが炎症物質や活性酸素を減らす方向に働くという仕組みがまとめられています。臨床研究としては、心血管病リスクの高い高齢者で地中海食を続けた人は低脂肪食の人に比べて糖尿病リスクが52%低かったというPREDIMED試験の結果が紹介されています。また、心血管病の既往がある1002人を約7年間追跡したCORDIOPREV試験では、主要な心血管イベントが地中海食群で87人、低脂肪食群で111人に起こり、危険度はおよそ26%低かったと報告されています。この差は男性ではよりはっきりしていましたが、女性では統計的に意味のある差は見られませんでした。

個々の成分についても研究が紹介されています。腹部肥満の67人を対象とした10週間の試験では、植物由来のn-6系多価不飽和脂肪酸を多く含む食事をとった群のほうが、バターを主な脂肪源とした群より肝臓の脂肪が大きく減り、炎症に関わる指標の一部も低くなりました。体重が減らなくても見られた結果だとされています。

培養細胞を使った実験では、腸内細菌が食物繊維を分解してできる短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)が、炎症を模した条件で増えた脂質の酸化をほぼ通常のレベルまで抑えたと報告されています。さらに、オーツ麦に含まれる食物繊維のβグルカンと糖の一種であるL-アラビノースを1対1で組み合わせると、糖尿病モデルマウスで空腹時血糖値が下がり(1リットルあたり33.73ミリモルに対し27.14ミリモル)、肝臓でのインスリン抵抗性の改善が見られたという動物実験も紹介されています。カレーのスパイスに含まれるクルクミンなどのポリフェノールについては、細胞を守る遺伝子の働きを高めつつ炎症の信号を抑える仕組みが整理されています。ただし、効果は体内への吸収されやすさや個人の代謝の違いに左右されうるとも述べられています。

臨床研究のまとめと、このレビューが示すこと

論文は、食事による介入が実際の患者でどのような効果をもたらすかについて、2つのメタ解析(複数の研究結果を統合する分析)を紹介しています。2型糖尿病患者338人を含む7件の研究を統合した分析では、時間を区切って食事をとる間欠的断食は、通常の食事と比べて体重を平均1.89キロ多く減らしました。しかし、長期的な血糖の指標であるHbA1cや空腹時血糖、脂質、血圧に上乗せの改善は見られませんでした。一方、1371人を含む7件のランダム化比較試験を統合した地中海食の分析では、HbA1cが0.39ポイント、空腹時血糖が1デシリットルあたり15.12ミリグラム下がり、血圧や体格指数、腹囲にも改善が見られました。ただし、コレステロールなどの脂質には有意な変化がなく、脂質への影響ははっきりしていないとされています。

著者は、2型糖尿病の炎症と酸化ストレスは単一の経路では説明できず、脂肪組織の免疫、細胞間の情報伝達、ホルモン様物質、インスリンの信号が絡み合った網の目として理解すべきだとまとめています。食事は食事パターン全体としても、個々の成分としても、この網の目のさまざまな箇所に働きかけうるというのが本レビューの見立てです。そのうえで、要となる箇所を見きわめることが、患者ごとの炎症や酸化の状態に合わせた食事戦略を考える足がかりになると論文は述べています。

原著論文の著者・所属:Hsuan-Chi Huang(Haidian Kaiwen Academy)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hsuan-Chi Huang. Regulation of Specific Dietary Patterns on Inflammatory and Oxidative Pathways in Type 2 Diabetes Mellitus. Theoretical and Natural Science 2026-10-27. DOI: 10.54254/2753-8818/2026.38129. 原著ライセンス:CC BY.