著者の所属・活動拠点の国は、クロアチアです。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ添加物を「混合物」として見るのか

加工度の高い食品(超加工食品)を多く食べる人ほど2型糖尿病を発症しやすいことは、多くの疫学研究で示されてきました。しかし超加工食品には、エネルギー密度の高さ、食物繊維や微量栄養素の不足、加工中に生じる物質、そして添加物そのものといった、性質の異なる要素が混ざっています。そのため、添加物だけがどの程度関わっているのかを切り分けることは困難でした。

研究チームは、この問題を整理するために総説(レビュー)論文をまとめました。著者らが注目したのは、乳化剤、保存料、着色料、甘味料などを一つずつではなく、実際の食生活で一緒に摂られる「組み合わせ(混合物)」として捉える視点です。現実には、1つの加工食品に複数の添加物が含まれ、1日の中でもさまざまな添加物を同時に摂取しています。一方、規制上の安全評価は従来、物質ごとに行われてきたと著者らは指摘しています。

論文は、添加物の組み合わせと2型糖尿病との関連を示す疫学的証拠の評価、添加物が血糖の調節を乱しうる仕組みの整理、現在の証拠の限界の評価、そして今後必要なヒト試験の条件の提示を目的としています。著者らは、結論を補強するためではなく、批判的に検討する立場を明確にしています。

どのように調べたか

研究チームは、PubMed/MEDLINEやEmbaseなど5つの文献データベースを2026年4月30日まで検索し、7月26日にはPubMedで追加検索を行いました。さらに欧州食品安全機関(EFSA)などの公的文書も参照しています。追跡調査(前向きコホート研究)とヒトを対象にした介入試験を優先し、動物実験や細胞・体外実験は「生物学的にありうる話かどうか」を判断する材料として用いました。

この論文は、決められた手順で文献を網羅的に選び、偏りを定量的に評価する「系統的レビュー」ではありません。専門家が文献を読み解いて統合する「ナラティブレビュー」であることを、著者ら自身が明記しています。最終的に106件の資料が引用されました。

疫学研究と実験研究から見えたこと

中心となる疫学的証拠は、フランスの大規模追跡調査「NutriNet-Santé」の解析です。約10万8千人の成人を平均7.7年追跡し、1131人が2型糖尿病を発症しました。この解析では、食事記録から推定した166種類の添加物の摂取量を統計手法で分解し、よく一緒に摂られる5つの組み合わせパターンが抽出されました。そのうち2つが糖尿病発症と関連していました。1つは、加工でんぷんやカラギーナンなどの乳化剤、保存料のソルビン酸カリウム、着色料のクルクミンを中心とし、主にブイヨン、乳製品デザート、ソースから摂られる組み合わせです。このパターンの摂取スコアが1標準偏差高まるごとに、発症のハザード比(発症のしやすさを比べた指標)は1.08でした。もう1つは、酸味料、人工甘味料、着色料などを中心とし、主に人工甘味料入り飲料や炭酸飲料から摂られる組み合わせで、ハザード比は1.13でした。これらの関連は、測定された食事の質や総エネルギー摂取量などで調整した後も統計的に有意でした。

同じ調査からは、特定の乳化剤、保存料、着色料、人工甘味料を個別に取り上げた解析でも、糖尿病発症との関連が報告されています。ただし著者らは、これらの解析の参加者は大きく重なっており、互いに独立した再現結果ではないと強調しています。また、参加者は女性が約8割で、教育水準の高いフランス人に偏っていること、添加物の摂取量は食品データベースからの推定であること、測定されていない要因の影響を除ききれないことも限界として挙げています。さらに、糖尿病のリスクと関連した組み合わせには、単独で摂ると血糖に良い効果がヒト試験で示されているペクチンやグアーガムも含まれています。このことから著者らは、こうした組み合わせのスコアは、添加物どうしが体内で相互作用していることを示すものではなく、特定の食品や食事パターンの目印として読むべきだとしています。

仕組みについては、一部の乳化剤と甘味料で実験的な裏付けが比較的強いとまとめられています。マウスに乳化剤のカルボキシメチルセルロース(CMC)やポリソルベート80を12週間与えた研究では、腸内細菌が本来は菌のいない腸の粘液の内側の層に入り込み、軽い炎症や空腹時の高血糖などが生じました。この変化は腸内細菌がいないマウスでは起きず、腸内細菌が関わっていることが示されました。ただし、与えた量は人が普段摂る量を大きく上回っていました。また、ヒトの腸内細菌を培養した体外実験では、乳化剤によって影響が異なり、レシチンは腸内細菌の構成をほとんど変えませんでした。

ヒトを対象とした試験は小規模で短期間のものに限られます。健康な成人16人を、乳化剤を含まない食事をとる対照群9人と、CMCを1日15g摂る群7人に無作為に分け、11日間比較した試験では、両群の間で腸内細菌の構成に違いが見られました。一方で、対照群と比べてCMC群で血糖コントロールやインスリンの効きが悪化したことは確認されませんでした。男性20人がカラギーナンと偽薬をそれぞれ2週間ずつ摂った交差試験でも、全体ではインスリンの効きに差はなく、過体重の人に限ってインスリンの効きの低下や腸の透過性の上昇などとの関連が見られたにとどまりました。

この総説が示すこと

著者らは、添加物の摂取からインスリン抵抗性や糖尿病の発症までの道筋を一貫して示したヒト試験はまだないと結論づけています。また、関連が見られない結果や物質ごとに異なる結果があることから、「添加物」という分類全体が一律に悪影響を持つとは言えないとしています。現在の証拠が支持するのは「生物学的にありうる」という段階までであり、因果関係や、特定の添加物について臨床上の推奨を出せる段階ではない、というのが論文の評価です。

そのうえで著者らは、食品の中身(食品マトリックス)をそろえたまま現実的な組み合わせの添加物を与える、より長期の管理された食事試験が必要だと述べています。この総説は、添加物と糖尿病の関係について、すでに示されている関連と、まだ確かめられていない因果の間の境界を整理した点に意義があります。

原著論文の著者・所属:Roko Santic(Department of Pathophysiology, University of Split School of Medicine, Soltanska 2A, 21000 Split, Croatia; Laboratory for Cardiometabolic Research, University of Split School of Medicine, Soltanska 2A, 21000 Split, Croatia)、Marko Kumric(Department of Pathophysiology, University of Split School of Medicine, Soltanska 2A, 21000 Split, Croatia; Laboratory for Cardiometabolic Research, University of Split School of Medicine, Soltanska 2A, 21000 Split, Croatia)、Nikola Pavlovic(Department of Pathophysiology, University of Split School of Medicine, Soltanska 2A, 21000 Split, Croatia; Laboratory for Cardiometabolic Research, University of Split School of Medicine, Soltanska 2A, 21000 Split, Croatia)、Josko Bozic(Department of Pathophysiology, University of Split School of Medicine, Soltanska 2A, 21000 Split, Croatia; Laboratory for Cardiometabolic Research, University of Split School of Medicine, Soltanska 2A, 21000 Split, Croatia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Roko Santic, Marko Kumric, Nikola Pavlovic, et al. Food Additive Mixtures, Glucose Metabolism, and Type 2 Diabetes Mellitus Risk: Mechanistic Insights from Epidemiology, Human Intervention Studies, and Experimental Models. Nutrients 2026-08-04. DOI: 10.3390/nu18152521. 原著ライセンス:CC BY.