この研究は、トルコの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Scientific Reports
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
トルコの伝統食品であるマントゥは、小麦粉の生地で牛ひき肉や大豆たんぱく、玉ねぎ、香辛料などの具材を包んだ小さな包み状のパスタです。常温で流通させるには水分を12%未満まで下げる乾燥が必要ですが、従来の熱風乾燥は高温に長くさらすため、脂質の安定性や色、戻したときの品質に悪影響が出ることがあると著者らは述べています。
研究チームが着目したのが「冷プラズマ」です。プラズマとは気体に電気的なエネルギーを加えて電子やイオンに分かれた状態のことで、冷プラズマは電子だけが高いエネルギーを持ち、気体全体の温度は室温近くにとどまる点が特徴です。そのため熱に弱い素材でも、熱による劣化を起こさずに表面の微生物を減らせるとされています。
ただし論文によれば、冷プラズマの食品への応用はこれまで果物やチーズ、卵といった単一素材の食品が中心で、でんぷん質の生地が高水分・高たんぱくの生肉の具を包むという複雑な多層構造の食品に、マイクロ波乾燥と低圧冷プラズマを順に組み合わせて適用した研究は不足していました。そこで著者らは、まずマイクロ波乾燥で製品の構造を素早く固めて水分を減らし、続く低圧アルゴン冷プラズマで具材に余分な熱負荷をかけずに表面の微生物を減らせるのではないかという仮説を立て、これを検証することを目的としました。
何をどのように調べたか
研究チームは、この目的のために専用のマイクロ波プラズマ装置を自作しました。トルコ・コンヤの製造業者に製造を委託したマントゥを急速冷凍して実験室に運び、生産から24時間以内に処理を開始しています。
処理は2通りです。一つは比較対象となる従来法で、250℃の熱風乾燥機を用い、水分が12%になるまで乾燥させました。もう一つがマイクロ波乾燥で、2.45GHz・実測出力460Wのマイクロ波オーブンを使い、同じく水分12%になるまで乾燥させました。マイクロ波乾燥後の試料の中心温度は88±2℃だったと報告されています。
マイクロ波で乾燥させた試料には、さらに真空チャンバー内で高純度アルゴンガスを用いた低圧冷プラズマ処理を、実効放電出力300Wで行いました。処理条件はアルゴンの流量(1.5または3.0L/分)と照射時間(15秒または30秒)を組み合わせた4通り(プラズマI〜IV)で、これに従来乾燥の対照区を加えた5群を比較しています。
評価項目は、pHと色(L*・a*・b*)、脂質の酸化を示すTBA値といった理化学的性質、中温性好気性菌や低温性好気性菌、カビ・酵母といった微生物、7名の熟練パネルによる5段階の官能評価、そしてICP-OESによるミネラル・重金属の分析です。これらを貯蔵開始時と30日後に測定し、各群3反復で統計的に比較しました。
報告された主な結果
微生物の面で差がはっきり出ました。中温性好気性菌数は、貯蔵開始時に従来乾燥が37,500cfu/gだったのに対し、プラズマ処理群は7,500〜9,700cfu/gと低い値で、30日後も従来法より低く推移しました。低温性好気性菌はどの群でもコロニーが確認されませんでした。カビと酵母については、従来乾燥の試料では貯蔵25日目に計測不能なほど多数のコロニーが観察された一方、マイクロ波+プラズマ処理群では発生が見られなかったと報告されています。
色については、L*値(明るさ)が貯蔵30日で全群において有意に低下しました。ただし処理直後の時点では、プラズマIIIとプラズマIVの試料が最も高いL*値を示し、プラズマIと従来法が最も低い値でした。著者らは、従来乾燥の暗さは高温の熱風が内部まで届かず表面だけが高温になり、褐変が進むためだと説明しています。一方で0日目と30日目の色差ΔEはすべての処理で目に見える差とされる3.5を大きく超えており、30日間でどの試料にも相当の色の変化が起きたと述べられています。
pHは処理方法による有意差も貯蔵中の有意な変化も認められませんでした。著者らはこれを、加熱とプラズマ処理によって微生物や酵素の活性が抑えられたためではないかと考察しています。
脂質酸化の指標であるTBA値は、貯蔵中にすべての群で有意に上昇しました。処理条件による違いもあり、30日後の値が最も高かったのは長時間(30秒)処理のプラズマIVで、最も低かったのは短時間・中程度流量のプラズマIIでした。著者らは、真空チャンバー内に残った空気や試料からの微量の水分がイオン化して生じる活性酸素・窒素種が不飽和脂肪酸と反応するためだと説明し、処理時間とガス流量の最適化が重要だと指摘しています。
ミネラル分析では、プラズマ処理が元素や処理条件によって保持のされ方に異なる影響を及ぼすことが示されました。従来乾燥は植物性原料や肉に由来する銅やカリウムを保ちやすく、特定のプラズマ条件はたんぱく質と結合したミネラルや組織内に包み込まれたカルシウム、マグネシウム、ナトリウムの保持を高めたと報告されています。
この研究が示すこと
この研究は、生肉を包んだ複雑な構造の伝統食品に対して、マイクロ波乾燥で構造を固めつつ水分を下げ、続く低圧アルゴン冷プラズマで表面の微生物を減らすという段階的な組み合わせが成り立つことを、自作装置を用いて実際に確かめたものです。著者らは、この組み合わせによって30日間の貯蔵期間中、製品の中心的な品質特性が維持されたと結論づけています。
同時に、プラズマの条件設定しだいで結果が変わることも示されました。処理時間が長いほど脂質酸化が進みやすく、色の保持やミネラルの保たれ方も条件によって異なります。単に強くかければよいのではなく、微生物を抑える効果と品質への負担のバランスをとる条件選びが要になる、という点がこの研究から読み取れます。
なお著者ら自身も、長期的な栄養成分の変化や脂質・たんぱく質の酸化の進み方を実際の流通条件のもとで評価するには、さらに包括的な研究が必要だと述べています。
著者:Süleyman Gökmen(Department of Food Processing, Karamanoglu Mehmetbey University, Karaman, Turkey)、Hüsnü Kasar(Department Of Hotel, Restaurant and Caterıng Service, Vocational School of Antakya, Hatay Mustafa Kemal University, Hatay, Turkey)、Mehmet Okan Erdal(Meram Vocational School, Necmettin Erbakan University, Konya, Turkey)、Hasan Yetim(Department of Food Engineering, Istanbul Sabahattin Zaim University, Istanbul, Turkey)、Ferhat Bozduman(Faculty of Medicine, Department of Biophysics, Karabuk University, Karabuk, Türkiye)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Süleyman Gökmen, Hüsnü Kasar, Mehmet Okan Erdal, et al. Decontamination kinetics, quality attributes, and shelf life extension of stuffed pasta (mantı) processed by combined microwave drying and low-pressure argon cold plasma treatment. Scientific Reports 2026-09-21. DOI: 10.1038/s41598-026-71716-7. 原著ライセンス:CC BY.