著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

プラムの収穫後病害と低温プラズマ

西洋スモモ(ヨーロッパプラム)は、収穫後に果実の生理的な変化が急速に進み、貯蔵や輸送の間にカビなどの病原菌に感染して腐りやすい果物です。中でも、Alternaria属のカビが主な原因となる黒斑病は特に被害の大きい収穫後病害とされています。この菌は傷口などから果実に侵入し、黒い病斑や果肉の軟化を起こして、最終的に果実を腐らせます。

現在、こうした病害対策の中心は化学合成の殺菌剤です。しかし、薬剤が効きにくい菌の出現、食品への残留、環境や健康への影響といった懸念から、規制が強まっています。そこで研究チームが注目したのが低温プラズマです。低温プラズマは、常温に近い温度で気体に電気エネルギーを与え、反応性の高い酸素や窒素の化学種(活性酸素・活性窒素)、荷電粒子、紫外線などを生み出す技術です。熱や薬剤を使わない殺菌法として、さまざまな食品の微生物に対する効果が報告されてきました。

一方で、プラムの黒斑病の主な原因菌であるAlternaria属菌に対して低温プラズマがどのように働くのかは、十分に調べられていませんでした。この研究は、低温プラズマがこの菌の生育や病原性にどう影響するのか、そしてその背景にどのような細胞内の変化があるのかを明らかにすることを目的としています。

何を調べたのか

研究チームは、自然に感染したプラム果実からAlternaria属菌を分離し、その胞子を液体に懸濁させました。この胞子懸濁液に、周囲の空気をそのまま使う誘電体バリア放電という方式の装置で、70キロボルトの電圧をかけて低温プラズマを0秒(未処理)、10秒、20秒、40秒、80秒照射しました。懸濁液の温度は35度未満に保たれていました。

処理後の菌について、培地上での菌糸の広がり、胞子の発芽率、菌糸の乾燥重量を測りました。さらに電子顕微鏡で胞子の表面を観察したほか、細胞膜が傷ついた細胞にだけ入り込んで赤く光る色素を使い、膜の損傷を調べました。細胞の外に漏れ出た核酸やタンパク質の量、膜の脂質が酸化されたときにできる物質であるマロンジアルデヒドの量も測定しています。

加えて、細胞内の活性酸素(スーパーオキシドと過酸化水素)の量と、それらを分解して細胞を守る抗酸化酵素(カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ)の働きを調べました。最後に、プラム果実に小さな傷をつけて胞子を接種し、低温プラズマを処理したうえで28度・高湿度で14日間保管し、発病率と病斑の大きさを比べました。

主な結果

低温プラズマの処理時間が長いほど、菌の生育は強く抑えられました。14日間培養した後の菌の集落(コロニー)の直径は、未処理で69.51ミリだったのに対し、10秒処理で40.67ミリ、20秒処理で36.83ミリとなり、40秒以上の処理では目に見えるコロニーが現れませんでした。胞子の発芽率も、未処理の97.67%に対して10秒で87.00%、20秒で69.00%、40秒で0.67%、80秒で0.33%と大きく下がりました。菌糸の乾燥重量も処理時間とともに減り、40秒と80秒では0グラムでした。

電子顕微鏡で見ると、未処理の胞子は表面がなめらかでふっくらしていたのに対し、80秒処理した胞子にはへこみや縮みが見られました。膜の損傷を示す赤い蛍光は処理時間が長いほど強く広くなり、細胞外に漏れ出た核酸やタンパク質、マロンジアルデヒドの量も処理時間とともに増えました。著者らは、これらを細胞膜の損傷を示す結果として報告しています。

細胞内では、スーパーオキシドと過酸化水素が処理時間とともに増え、過酸化水素は80秒処理で未処理より約58%多くなりました。反対に抗酸化酵素の働きは低下し、80秒処理でカタラーゼは約86%、ペルオキシダーゼは約75%低下し、スーパーオキシドジスムターゼも大きく下がりました。ただし著者らは、測定された酵素活性の低下には、これらの酵素が選択的に阻害されたのではなく、タンパク質全般が非特異的に失活した影響が一部含まれる可能性があると注意を添えています。

果実を使った試験では、未処理の果実は保管4日目に発病し始め、80秒処理の果実ではその4日後まで症状が出ませんでした。14日目の発病率は未処理で100%だったのに対し、10秒処理で80.74%、20秒処理で45.93%、40秒処理で22.96%、80秒処理で21.48%でした。保管終了時の病斑の平均直径も、未処理の7.68ミリに比べ、40秒と80秒の処理ではいずれも4.78ミリと小さくなりました。

研究が示すこと

著者らはこれらの結果から、低温プラズマが処理時間に応じてAlternaria属菌の生育と病原性を抑えたと結論づけています。その仕組みとしては、細胞膜の損傷と、活性酸素を取り除く抗酸化の防御機構の低下が結びついており、これらが重なって菌の細胞に酸化による損傷や代謝の異常をもたらしている可能性があると論文は示しています。

化学殺菌剤に代わる方法が求められる中、この研究は、空気を使った低温プラズマがプラムの黒斑病菌を抑える効果と、その背景にある細胞レベルの変化を、菌と果実の両面から示したものといえます。

原著論文の著者・所属:Xinqi Zhang(College of Food Science and Pharmacy, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Yaqing Fan(College of Food Science and Pharmacy, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Yating Zhao(College of Food Science and Pharmacy, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Xuan Zhu(College of Food Science and Pharmacy, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xinqi Zhang, Yaqing Fan, Yating Zhao, et al. Low Temperature Plasma Impairs the Pathogenicity of Alternaria sp. by Disrupting Its Cell Membrane and Redox Homeostasis. Foods 2026-07-31. DOI: 10.3390/foods15152702. 原著ライセンス:CC BY.