著者の所属・活動拠点の国は、イタリアです。
掲載誌:Potato Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:水不足の時代に塊茎の栄養はどうなるか
ジャガイモは生産量で世界第4位の重要な食用作物で、でんぷんに加えて、カリウム、リン、カルシウムなどのミネラル源にもなります。地中海地域では、冬から春に栽培して完熟前に収穫する「早掘りジャガイモ」が多く作られ、北ヨーロッパへ輸出される重要な作物です。早掘りジャガイモは、収穫後すぐに出荷され、皮をむかなくてもこすれば簡単に取れるものを指します。
この地域では高い収量と品質を得るために灌漑が欠かせません。一方で、灌漑用水は乏しく高価になり、気候変動もその傾向を強めています。そこで、作物が乾燥に弱い時期に水やりを絞る「不足灌漑」が広く使われています。ただし、水を減らしたときに早掘りジャガイモの塊茎のミネラル組成がどう変わるかを調べた研究はほとんどありませんでした。
研究チームは、水の量を減らすと塊茎のミネラル組成が損なわれるのか、それとも逆に高まるのかを確かめるため、4品種を2年間にわたって地中海環境で栽培し、調べました。
何をどのように調べたか
試験は、イタリア・シチリア島のエトナ山南東麓にある圃場で、2021年と2022年の2シーズン行われました。土壌は砂の多い、水を保ちにくい土です。降水量は2021年が282ミリ、2022年が119ミリで、2年目のほうが乾燥していました。
灌漑は3通りです。1つ目は芽が出た時期にだけ水を与える区(I0)です。2つ目は、塊茎ができ始めてから肥大が終わるまで、作物が十分な水分条件で消費する水量(作物蒸発散量)の50%を与える区(I50)です。3つ目は同じ期間に100%を与える区(I100)です。作物蒸発散量とは、土からの蒸発と葉からの蒸散を合わせた、作物が使う水の量のことです。出芽時の12ミリに加え、灌漑の総量はI100で143ミリ、I50で78ミリでした。品種は「アリゾナ」「レバンテ」「ボーグ」「パラディーゾ」の4つです。
収穫した塊茎は乾燥させて粉にし、窒素、リン、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、鉄、マンガン、亜鉛、銅の含有量を、乾燥重量あたりの濃度として測りました。さらに、ナトリウムとカリウムの比(Na/K比)も計算しました。そのうえで、灌漑、品種、栽培年がそれぞれ、また組み合わさってどう影響するかを統計的に分析しました。
主な結果:水を減らすと増える成分と、減る成分
実際の水の消費量を推定すると、1〜2月は3つの区でほぼ同じでした。差が最も大きくなったのは、塊茎が大きく育つ4月です。I100が88〜95ミリだったのに対し、I0は22〜36ミリにとどまり、強い水ストレスがかかっていたことが示されました。I50は中間の値でした。
10種類の成分のうち6種類では、灌漑や品種よりも栽培年による違いのほうが大きく出ました。灌漑の違いは特に鉄、ナトリウム、リンとNa/K比に影響し、マンガンには影響しませんでした。品種の違いが最も大きく表れたのは窒素で、カルシウムとナトリウムがそれに続きました。
灌漑の量との関係を見ると、カルシウム、カリウム、リン、窒素はI0で最も高くなりました。たとえばカリウムは、I0からI100にかけて18%低下しました。一方、マグネシウム、ナトリウム、亜鉛、銅はI100で最も高く、鉄はI0からI100にかけて31%増えました。著者らは、水不足のときに塊茎の水分が減ることや、養分の吸収・移動・配分が変わることで、一部のミネラルの濃度が高まる可能性を挙げています。
ただし、反応は品種によって異なりました。マグネシウムは、アリゾナとレバンテではI100のほうがI0より多くなりました(それぞれ70%と30%)。これに対し、パラディーゾではI100のほうが23.8%少なくなりました。主成分分析という、多数の成分をまとめて傾向を見る手法でも、灌漑への反応のしかたが品種ごとに異なり、試料がいくつかのまとまりに分かれることが示されました。
Na/K比については、すべての品種の塊茎が、世界保健機関(WHO)が食事について推奨する値(1.0以下)を下回っていました。著者らは、I0ではこの比が品種によって23%から54%低くなったと報告しています。
この研究が示すこと
著者らは、不足灌漑がカルシウム、カリウム、リン、窒素といった成分の含有量を高める持続的な手段になり得る一方で、マグネシウム、亜鉛、銅、鉄を保つには十分な灌漑が必要だと結論づけています。また、品種によって反応が異なることから、品種や環境条件に合わせて灌漑の方法を選ぶことが重要だとしています。
水を節約しながら塊茎のミネラル組成を保つ、あるいは高めるには、灌漑の量だけでなく品種の選択も組み合わせて考える必要がある。この研究はそのことを示しています。なお、こうしたミネラルの吸収や配分がどのような仕組みで起きているのかは、まだ明らかになっていないと著者らは述べています。
原著論文の著者・所属:Gaetano Pandino(Department of Agriculture, Food and Environment – Di3A, Università Degli Studi Di Catania, Catania, Italy)、Salvatore Alfio Salicola(Department of Agriculture, Food and Environment – Di3A, Università Degli Studi Di Catania, Catania, Italy)、Claudia Formenti(Department of Agriculture, Food and Environment – Di3A, Università Degli Studi Di Catania, Catania, Italy)、Aurelio Scavo(Department of Veterinary Sciences, University of Messina, Polo Universitario Dell’Annunziata, Messina, Italy)、Gaetano Roberto Pesce(Department of Agronomy, Food, Natural Resources, Animals and Environment – DAFNAE, University of Padua, Agripolis Campus, Legnaro (PD), Italy)、Giovanni Mauromicale(Department of Agriculture, Food and Environment – Di3A, Università Degli Studi Di Catania, Catania, Italy)、Sara Lombardo(Department of Agriculture, Food and Environment – Di3A, Università Degli Studi Di Catania, Catania, Italy)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Gaetano Pandino, Salvatore Alfio Salicola, Claudia Formenti, et al. Deficit Irrigation Affects Tuber Mineral Composition of Four Potato Genotypes. Potato Research 2026-10-22. DOI: 10.1007/s11540-026-10165-1. 原著ライセンス:CC BY.