著者の所属・活動拠点の国は、イタリア、シンガポールです。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
植物性食品を中心とした食事は、環境負荷を下げるとされています。一方で、動物性食品を完全に除くと、必要な栄養素が不足するおそれがあると指摘されています。環境への配慮と十分な栄養をどう両立させるかは、持続可能で健康的な食事を考えるうえで難しい課題です。
この研究で著者らは、魚介類の役割に注目しました。イタリアを想定した2種類の食事パターンの中で、鶏肉の一部を生鮮魚や缶詰ツナに置き換えたとき、栄養素の摂取量、栄養の充足度、環境負荷がどう変わるかを試算しています。環境負荷の指標には2つを使いました。温室効果ガス排出量を示すカーボンフットプリントと、水の使用量を示すウォーターフットプリントです。
どのように調べたか
比較の土台にしたのは2つの食事パターンです。1つは「MED_EAT-IT」です。健康と地球環境の両立を目指して国際委員会EAT-Lancetが示した推奨を、イタリアの食文化に合わせて具体化したものです。もう1つは、イタリアの公的な食事ガイドラインに基づくパターンです。
研究チームは、以前に開発した表計算ベースの計算ツールを使いました。食品ごとの1回の量と食べる頻度を決めると、食事全体の栄養素量と環境負荷を自動で算出できます。算出された栄養素量は摂取基準と比べられました。基準には、欧州食品安全機関とイタリア人類栄養学会が示す、18〜64歳の健康な成人向けの値が使われています。
魚については、1週間に食べる魚の回数と内訳を変えた4つの想定を作りました。基準となる想定は生鮮魚3回です。想定1は生鮮魚2回と缶詰ツナ1回、想定2は生鮮魚3回と缶詰ツナ1回、想定3は生鮮魚2回と缶詰ツナ2回です。想定2と3では魚が1回増え、その分だけ週1回の鶏肉を減らしています。
缶詰魚としては、試算では油漬けのツナ(油を切ったもの)だけを扱いました。欧州食品安全機関の消費データでは、缶詰ツナが最も多く食べられている缶詰魚で、イタリアで消費される缶詰魚の94.4%を占めていたためです。生鮮魚は、よく食べられる13品目を対象にしました。タラ、サケ、メカジキ、イカなどが含まれます。
置き換える相手には鶏肉を選びました。陸上の動物性食品の中で、鶏肉はカーボンフットプリントが最も小さいからです。著者らは、こうすることで環境面の利点を大きく見積もりすぎないようにしたと説明しています。同じ理由で、水の使用量は、魚介類をすべて養殖とみなして計算しました。
MED_EAT-ITでは、1日の摂取エネルギーを2500、2000、1600 kcalの3段階で設定しています。各想定の比較には統計的な検定を使っていません。数値を並べて比べる記述的な方法で行われました。
主な結果
生鮮魚1回を缶詰ツナに置き換えると、多くの微量栄養素とコレステロールがわずかに減りました。一方、MED_EAT-ITのパターンで鶏肉1回を生鮮魚に置き換えると(想定2)、主要な栄養素のほとんどが増えました。とくに増えたのは、魚に多い脂肪酸のEPAとDHA、そしてビタミンB12です。亜鉛はわずかに減りました。たとえば2000 kcalの場合、EPAとDHAの合計は1日あたり697.5 mgから798.5 mgに増えています。著者らは、このパターンでは想定2が比較的良い栄養構成だったと報告しています。
これに対し、国のガイドラインに基づくパターンでは、どの置き換えでも、調べた栄養素が全体的に小幅に減りました。
摂取基準との比較では、どの想定でも主要な栄養素の多くが基準に達していました。例外は鉄、亜鉛、ビタミンDです。女性の鉄と男性の亜鉛は、2500 kcalの場合にだけ基準を満たしました。ビタミンDは、すべての想定で基準を下回りました。著者らは、ビタミンDを食事だけで満たすのは難しいと述べています。もともと食品に含まれる量が少なく、主に日光を浴びて皮膚で作られる栄養素だからです。どの想定でも、基準を満たしていた栄養素は満たしたまま、不足していた栄養素は不足したままでした。
環境負荷は、どの想定でも基準の食事と比べて小幅な減少にとどまりました。カーボンフットプリントは、鶏肉を生鮮魚に置き換えた想定2ではほとんど減りませんでした(1日あたり0.00〜0.06 kg CO2換算)。缶詰ツナを含む想定では、より大きく減りました。減少量は想定1で0.08〜0.13 kg、想定3で0.08〜0.18 kgです。
ウォーターフットプリントは、想定1から3へ進むほど減少幅が大きくなりました。1日あたりの減少量は、想定1で44〜64 L、想定2で81〜92 L、想定3で136〜145 Lです。著者らは、缶詰ツナの環境負荷が低く出た理由の一部を、試算に用いた1回の量が生鮮魚より少なかったことにあるとみています。
研究が示すこと
著者らは、鶏肉の一部を生鮮魚に置き換えると、EPAやDHAなど重要な栄養素の摂取を後押しできると結論づけています。生鮮魚は缶詰ツナより栄養素が豊富でした。それでも、缶詰ツナを取り入れた場合も、食事全体の栄養はおおむね基準の範囲内にとどまりました。また、今回調べた2つの環境指標では、缶詰ツナが生鮮魚よりわずかに良い結果でした。
ただし著者らは、これが決められた前提に基づく試算であり、その前提の外には当てはめられないと注意を促しています。環境データには平均的な値を使っており、漁法や養殖方法による違いは十分に反映されていません。重金属などの汚染物質や、水産資源の状態といったほかの持続可能性の観点も、今回の試算には含まれていません。そうした制約はあるものの、この研究は1つの見方を示しています。健康的で持続可能な食事を栄養と環境の両面から考えるとき、生鮮魚と缶詰魚の両方が選択肢になりうるということです。
原著論文の著者・所属:Ellis Bianchi(Division of Human Nutrition, Department of Food, Environmental and Nutritional Sciences (DeFENS), Università Degli Studi di Milano, 20133 Milan, Italy)、Massimiliano Tucci(Division of Human Nutrition, Department of Food, Environmental and Nutritional Sciences (DeFENS), Università Degli Studi di Milano, 20133 Milan, Italy)、Alberto Dolci(Bolton Food Research & Innovation Center, The Westgate, Singapore 608531, Singapore)、Cristian Del Bo’(Division of Human Nutrition, Department of Food, Environmental and Nutritional Sciences (DeFENS), Università Degli Studi di Milano, 20133 Milan, Italy)、Daniela Martini(Division of Human Nutrition, Department of Food, Environmental and Nutritional Sciences (DeFENS), Università Degli Studi di Milano, 20133 Milan, Italy)、Patrizia Riso(Division of Human Nutrition, Department of Food, Environmental and Nutritional Sciences (DeFENS), Università Degli Studi di Milano, 20133 Milan, Italy)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ellis Bianchi, Massimiliano Tucci, Alberto Dolci, et al. Fish Consumption and Sustainability: A Modeling Study Evaluating the Effects of Fish and Canned Fish Consumption on Nutritional Adequacy and Selected Metrics of Environmental Impact. Nutrients 2026-09-26. DOI: 10.3390/nu18193182. 原著ライセンス:CC BY.