著者の所属・活動拠点の国は、ギリシャです。

掲載誌:Processes

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

規格外の果物を原料として見直す

色や大きさ、形が揃わないために安く扱われる二級品・三級品の果物は、ジャムなどの低価格な用途に回されるか、廃棄されることが多くあります。埋め立てられた果物は酸素の少ない環境で分解され、二酸化炭素より温室効果の強いメタンを出します。栽培に使われた水や土地、エネルギーも無駄になります。

研究チームは、こうした果物をポリフェノールの原料として活用できるかを検討しました。ポリフェノールは果物や野菜に含まれる植物由来の成分群で、論文では食品の酸化を抑える天然素材として関心が高まっていると説明されています。対象としたのは、ギリシャ北部の中央マケドニア地方で生じる二級品・三級品のリンゴ、イチジク、ザクロです。

著者らによれば、果物の残りかすからポリフェノールを取り出す研究は、これまで実験室規模のものが中心でした。工場規模に拡大したときの採算と環境負荷を、複数の果物で比べた研究は少ないといいます。そこで本研究では、実験データ、工場の工程シミュレーション、経済性評価、環境評価を組み合わせました。

実験室での抽出から仮想工場の設計へ

抽出には超音波アシスト抽出という方法を用いました。液体に超音波を当てると微小な気泡ができてはじけ、その作用で成分が果物の組織から溶け出しやすくなります。溶媒には、有機溶媒ではなくβ-シクロデキストリンを溶かした水を使いました。β-シクロデキストリンは環状の糖で、ポリフェノールを取り込んで溶けやすくする働きがあります。

実験では、凍結乾燥して粉末にした果物を使い、抽出時間、温度、β-シクロデキストリン濃度を変えて試しました。結果は、ポリフェノール総量(没食子酸という基準物質に換算した量、GAE)と抗酸化活性で評価しています。ポリフェノールが最も多かったのはザクロでした。イチジクは超音波を当てる時間に特に敏感で、試した中で最も短い約2.8分で最大値を示し、それより長く抽出すると減少しました。リンゴでは温度が回収量を左右する主な要因でした。

次に、実験で得た最適条件をもとに、工程設計用ソフトウェアで連続運転の工場を模擬しました。想定した処理量は年間7920トンです。工程は、洗浄、破砕、乾燥、凍結乾燥、粉砕、超音波抽出、遠心分離、ナノろ過、濃縮の順に進みます。ナノろ過はごく細かい膜でβ-シクロデキストリンを分離する工程です。洗浄水と溶媒は一部を再利用します。

抽出後に残る固形分は、果物シロップ製造の原料に回すことを前提としました。このため、果物の購入費はかからない設定になっています。さらに研究チームは、採算性の指標と、原料の栽培から輸送、工場での加工までを含む環境負荷(ライフサイクルアセスメント)を、果物ごとに比較しました。

採算が合ったのはザクロだけ

工程の物質とエネルギーの収支を計算すると、蒸気や冷却水などの消費が大きいことが分かりました。ただし、これらを循環させて再生する仕組みを最適化することで、消費を大きく減らせると報告されています。

経済性評価では、利益が見込めたのはザクロの場合だけでした。ザクロは原料1トンあたり14.63キログラム(GAE換算)と抽出量が多く、この点が採算を支えています。製品価格を1キログラム80ユーロとした場合、年間の運転費は約635万ユーロでした。正味現在価値は約1181万ユーロと試算されました。正味現在価値とは、将来の収益を現在の価値に換算して投資額と比べた指標で、プラスであれば投資に見合うことを示します。

一方、抽出量の少ないリンゴとイチジクは、採算が大きく合わない結果になりました。処理規模を変えた分析では、小規模な工場ほど設備投資の固定費が重くのしかかることが示されています。価格を変えた分析では、損益分岐点は1キログラムあたり66.03ユーロでした。

環境評価は、製品1キログラム(GAE換算)をつくる場合で比較しました。ザクロが最も環境負荷が小さく、その主な理由は、製品あたりに必要な原料と光熱の量が少ないことでした。製品1キログラムに必要な原料は、リンゴで553キログラム、イチジクで1104キログラムだったのに対し、ザクロでは68キログラムでした。どの果物でも、毒性に関わる影響項目が負荷の大きい部分でした。イチジクは絶対的な環境負荷が最も大きい結果になりました。

なお著者らは、工程計算では複雑な成分の混合物である抽出物を没食子酸という単一の物質で代表させたこと、またこの単純化が計算に不確かさを持ち込むことを断っています。

有望な原料と地域の供給量のずれ

この研究からは、同じ抽出技術でも、原料の果物によって採算性と環境負荷が大きく異なることが分かります。ザクロは経済面でも環境面でも最も有利でした。

ところが、中央マケドニア地方で年間に得られる規格外の果物は推計約8483トンで、その87.3%をリンゴが占めます。ザクロは9.7%、イチジクは3.0%にとどまります。このため著者らは、この規模でザクロだけを扱う工場を成り立たせるのは難しいと指摘しています。そのうえで、複数の果物を時期ごとに切り替えて処理する方式や、他地域から原料を集める方式に目を向ける必要があると述べています。

規格外の果物を価値ある素材に変えるには、抽出技術だけでなく、どの原料がどれだけ手に入るかを合わせて考える必要があります。本研究は、その判断材料を数値で示したものといえます。

原著論文の著者・所属:Lefteris D. Melas(Laboratory of Environmental Engineering and Sustainability, Institute for Bioeconomy and Agritechnology, Center for Research and Technology Hellas (CERTH), Thermi, 57001 Thessaloniki, Greece)、Stamatia Skoutida(Laboratory of Environmental Engineering and Sustainability, Institute for Bioeconomy and Agritechnology, Center for Research and Technology Hellas (CERTH), Thermi, 57001 Thessaloniki, Greece)、Maria Batsioula(Laboratory of Environmental Engineering and Sustainability, Institute for Bioeconomy and Agritechnology, Center for Research and Technology Hellas (CERTH), Thermi, 57001 Thessaloniki, Greece)、Ioannis Mourtzinos(Laboratory of Food Chemistry and Biochemistry, School of Agriculture, Aristotle University of Thessaloniki (AUTH), 54124 Thessaloniki, Greece)、Sotiris I. Patsios(Laboratory of Natural Resources & Renewable Energies, Chemical Process & Energy Resources Institute, Center for Research and Technology Hellas (CERTH), Thermi, 57001 Thessaloniki, Greece)、Georgios F. Banias(Laboratory of Environmental Engineering and Sustainability, Institute for Bioeconomy and Agritechnology, Center for Research and Technology Hellas (CERTH), Thermi, 57001 Thessaloniki, Greece)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lefteris D. Melas, Stamatia Skoutida, Maria Batsioula, et al. Industrial-Scale Valorization of Low-Grade Fruits Through Green Polyphenol Extraction: Integrating Process Simulation, Techno-Economic Analysis, and Environmental Assessment. Processes 2026-09-18. DOI: 10.3390/pr14182975. 原著ライセンス:CC BY.