著者の所属・活動拠点の国は、イタリアです。
掲載誌:Sustainability
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
手軽さと環境負荷は両立するのか
パスタは世界中で食べられている主食の一つです。一方で、食品業界には、すぐ食べられる便利さを求める消費者の声に応えながら、供給網全体の環境負荷を減らすことも求められています。この論文は、「調理の手間が少ない食品ほど環境に良いのか、それとも工場での加工や冷蔵輸送で負荷が増えるのか」という問いを、パスタを例に検討しています。
パスタにはいくつかの形態があります。乾燥パスタは常温で長く保存できますが、家庭で長くゆでる必要があります。生パスタはゆで時間が短い反面、4℃以下で冷蔵し続けなければなりません。インスタントパスタは工場で蒸してから乾燥させてあり、お湯で短時間に戻せます。家庭での調理エネルギーが減る分を、工場での加熱や冷蔵物流の負担増が打ち消してしまうのではないか。著者はこの釣り合いを明らかにしようとしました。
比較対象は、デュラム小麦のセモリナ粉と水だけで作るパスタに限られています。世界のインスタント麺の多くは普通小麦を使った揚げ麺ですが、原料や揚げ工程の違いが結果に混ざらないよう、それらは対象から外しています。
四つの製品を「ゆりかごから墓場まで」評価
研究では四つの製品の形を比べました。袋入りの乾燥パスタ、ガス置換包装の袋に入った生パスタ、硬いカップ容器に入った市販型のインスタントパスタ、そして環境配慮設計として想定した柔らかい袋入りのインスタントパスタです。最後の袋入りインスタントパスタは、巣のように丸めた小分けのパスタを500グラムの袋に詰める設計案で、包装を軽くし、運搬時の積載効率を高めることを狙っています。
評価には、欧州の「製品環境フットプリント(PEF)」と呼ばれる手法を用いました。原料の小麦の栽培と製粉から、工場での加工、包装材の製造、輸送と店頭での保管、家庭での保存と調理、包装や食べ残しの廃棄までを含めて、環境への影響を積算する方法です。主な比較の基準は、出荷時点の製品1キログラムです。製品ごとに水分量が違うため、同じ量の乾物(1食70グラム分)を基準にした比較もあわせて行っています。
輸送距離や調理時間などには幅があります。そこで、条件をランダムに変えて何度も計算を繰り返す「モンテカルロ・シミュレーション」で、結果のばらつきも見積もっています。
報告された主な結果
製品1キログラム当たりの気候変動への影響(温室効果ガス排出量を二酸化炭素に換算した値)は、乾燥パスタが1.91±0.08キログラム、袋入りインスタントパスタが1.72±0.08キログラムでした。この二つが同程度で、四つの中で最も低い結果になりました。カップ入りインスタントパスタは3.85±0.17キログラムで、重い包装材と、かさばる容器による輸送効率の悪さが大きく響いたと論文は分析しています。最も高かったのは生パスタの4.14±0.17キログラムでした。輸送から店頭、家庭まで冷蔵し続ける必要があることが主な理由とされています。
インスタントパスタは、工場で蒸してでんぷんを糊化させています。糊化とは、加熱によってでんぷんが水を吸いやすい状態に変わることです。これにより麺に細かな隙間ができ、火にかけ続けなくてもお湯に浸すだけで戻せるようになります。論文の想定では、家庭での準備に必要なエネルギーは1キログラム当たり0.90キロワット時で、乾燥パスタをコンロでゆでる場合の2.40キロワット時を大きく下回りました。論文は、この家庭での省エネルギーによって、インスタントパスタの製造時に工場で投入される熱エネルギー(1キログラム当たり0.326キロワット時)を十分に補えると報告しています。
包装の違いも大きく影響しました。カップを袋に替えると、パスタ正味1キログラム当たりの包装材の総重量は1016.2グラムから279.8グラムへと72.5%減りました。カップ入りでは、包装材の重さが中身のパスタを上回っていたことになります。
生パスタについては、ゆで時間の短さで調理エネルギーは乾燥パスタより15%少なくなります。しかし、モデルで想定した家庭での冷蔵保存のエネルギーがそれを打ち消してしまい、論文はこれを一種の「エネルギーの逆説」と呼んでいます。
この研究が示すこと
著者は、加熱の負担を家庭での調理から工場での糊化処理へ移し、常温保存と軽い袋包装を組み合わせることが、手軽な食品の温室効果ガス排出を減らす有望な設計の方向性だと結論づけています。ただし、袋入りインスタントパスタはあくまで設計案です。論文も、包装が品質を守る性能や消費者に受け入れられるかどうかは、実際の商品で確かめる必要があるとしています。
便利な食品は環境負荷が大きいと一律には言えず、どこで加熱するか、どう包むか、冷蔵が必要かどうかによって結果が大きく変わることを、この研究は具体的な数字で示しています。
原著論文の著者・所属:Mauro Moresi(Department for Innovation in the Biological, Agro-Food and Forest Systems, University of Tuscia, 01100 Viterbo, Italy)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mauro Moresi. Eco-Designing Convenience Food: A Monte Carlo Product Environmental Footprint Assessment of Dry, Fresh, and Instant Pasta Systems. Sustainability 2026-08-25. DOI: 10.3390/su18178712. 原著ライセンス:CC BY.