この研究は、カナダの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Food Bioscience

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

シュガーケルプ(学名Saccharina latissima)は、北大西洋の冷たい海に広く分布するコンブの仲間です。ミネラルや食物繊維となる多糖類、オメガ3系脂肪酸を含む脂質、抗酸化性をもつフェノール化合物などを含む褐藻として注目されており、カナダのニューファンドランド周辺でも収穫が増えています。こうした海藻は保存や流通のために乾燥させるのが一般的ですが、乾燥方法によって成分の残り方が変わることが課題とされてきました。

乾燥前の下処理として研究チームが注目したのが高圧処理です。これは食品を加熱せず、非常に高い圧力をかける技術で、細胞壁や細胞膜の構造をゆるめることが知られています。ただし、高圧処理とその後の乾燥を組み合わせたときに、海藻の脂質の内訳やミネラル組成がどう変わるかは、ほとんど分かっていませんでした。そこで著者らは、ニューファンドランド産シュガーケルプを対象に、高圧処理の強さと乾燥方法の組み合わせが、栄養成分、脂質、ミネラル、フェノール化合物、抗酸化活性にどのような影響を与えるかを総合的に調べました。

何をどのように調べたか

研究チームは、フォゴ島で収穫したシュガーケルプを刻んで袋に密封し、150、300、450メガパスカル(150メガパスカルは大気圧のおよそ1500倍)の3段階の圧力で、室温(20℃)のまま5分間処理しました。高圧処理をしていない試料も比較対象として用意しました。

その後、それぞれの試料を、50℃の熱風で乾かす「熱風乾燥」と、凍らせた状態で真空にして水分を取り除く「凍結乾燥」の二通りの方法で乾燥させました。一般に、熱風乾燥は効率がよい一方で熱や酸素による成分の劣化を招きやすく、凍結乾燥は成分を保ちやすい代わりにエネルギーを多く使うとされています。

乾燥後の粉末について、水分、灰分(燃やした後に残る無機物の量)、たんぱく質、脂質、炭水化物の割合を測定したほか、脂質をリン脂質や中性脂肪、遊離脂肪酸などの種類別に分け、脂肪酸の組成やミネラル元素の量も分析しました。さらに、抽出液のフェノール化合物の量や、化学的な試験での抗酸化活性に加え、ヒトの腸に由来する培養細胞(Caco-2細胞)を使って、細胞内で生じる活性酸素をどの程度抑えられるかも調べました。

主な結果

基本的な栄養成分は、高圧処理と乾燥方法の両方の影響を受け、しかも高圧処理の効果は、どちらの乾燥方法を組み合わせるかによって異なっていました。たとえば熱風乾燥の試料では、圧力が高くなるにつれて灰分が増え、450メガパスカルで乾燥重量の37.97%に達した一方、凍結乾燥の試料では26.56〜30.53%とほぼ一定でした。たんぱく質も、300〜450メガパスカルで処理して熱風乾燥した試料で15.18〜15.57%と高くなりました。なお著者らは、灰分の違いは試料に含まれるミネラルの総量そのものの変化ではなく、処理後に測定される灰分の見かけ上の違いとして解釈すべきだと述べています。

脂質の内訳では、細胞膜の主成分であるリン脂質がどの条件でも最も多く、全脂質の42.60〜89.76%を占めました。リン脂質の割合は150メガパスカルで熱風乾燥した試料で最も高い89.76%でしたが、300〜450メガパスカルでは42.60〜51.55%まで下がりました。代わりに、高い圧力では遊離脂肪酸やステロールなどの割合が増え、中性脂肪の割合は凍結乾燥の試料で高い傾向がありました。脂質の総量は1.04〜2.11%の範囲で大きくは変わらず、著者らは、高圧処理が主に脂質の「量」ではなく「内訳」を変えたと説明しています。ただし、その背後にある分子レベルの仕組みは今回直接は調べておらず、考えられる仕組みとして示されています。

脂肪酸では、多価不飽和脂肪酸がどの条件でも最も多く、全脂肪酸の39.39〜48.35%を占めました。主な脂肪酸はパルミチン酸、オレイン酸、EPA、DHAでした。同じ圧力で比べると、凍結乾燥の試料のほうが熱風乾燥の試料よりも多価不飽和脂肪酸の割合が一貫して高くなっていました。

ミネラルについては、高い圧力で処理した試料、特に熱風乾燥と組み合わせた試料で、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、鉄の濃度が高く観察されました。一方、150メガパスカル程度の穏やかな高圧処理、主に凍結乾燥との組み合わせでは、フェノール化合物の量、化学的な抗酸化活性、培養細胞内での活性酸素の抑制、多価不飽和脂肪酸に富む脂質組成がいずれも良好な結果となりました。

研究が示すこと

この研究は、同じシュガーケルプでも、かける圧力の強さと乾燥のしかたの組み合わせ次第で、栄養成分や脂質の内訳、ミネラル組成、抗酸化活性が異なる方向に変わりうることを示しました。著者らは、穏やかな高圧処理と凍結乾燥の組み合わせが最もバランスのよい組成をもたらした一方、高い圧力と熱風乾燥の組み合わせは、たんぱく質やミネラルの割合を高めた製品に向く可能性があると述べています。加工条件の選び方によって、海藻由来の食品素材の性質を目的に合わせて調整できるという見方を、具体的なデータで裏づけた研究といえます。

著者:Abul Hossain(Department of Human Biosciences, Memorial University of Newfoundland, St. John’s, NL A1C 5S7, Canada)、Deepika Dave(Department of Human Biosciences, Memorial University of Newfoundland, St. John’s, NL A1C 5S7, Canada)、Fereidoon Shahidi(Department of Human Biosciences, Memorial University of Newfoundland, St. John’s, NL A1C 5S7, Canada)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Abul Hossain, Deepika Dave, Fereidoon Shahidi. Can high-pressure processing and drying tailor the nutritional quality of sugar kelp (Saccharina latissima)? Evidence from lipid-class redistribution, mineral composition, and antioxidant activity. Food Bioscience 2026-09-30. DOI: 10.1016/j.fbio.2026.110153. 原著ライセンス:CC BY.