著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:International Journal for Vitamin and Nutrition Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ糖尿病のドライアイと栄養に注目したのか
ドライアイは、涙の量や質が不安定になって目の表面が乾き、不快感や痛みが生じる状態です。著者らによると、糖尿病の人に起こる「糖尿病性ドライアイ」は、糖尿病による細い血管の合併症のひとつとされます。研究によって15%から70%と幅のある有病率が報告されており、一般の人より多いとされます。原因や症状の出方、治療への反応にも、糖尿病のないドライアイとは違いがあると論文は説明しています。
現在の治療は主にヒアルロン酸ナトリウムやステロイド、シクロスポリンなどの点眼薬ですが、長く使うと副作用が出る可能性があります。一方で、栄養素とドライアイ全般の関係を扱った総説はあっても、糖尿病性ドライアイに絞った研究はまだ少ないのが現状です。そこで研究チームは、栄養素の摂取や食事パターンがこの病気の発症や進行にどう関わりうるかを、既存の研究をもとに整理しました。この論文は新たな実験を行ったものではなく、文献をまとめて論じる総説です。
高血糖が目の表面を傷つける仕組み
論文はまず、病気の土台となる仕組みを整理しています。高血糖が続くと、体内でブドウ糖を処理するいくつかの代謝経路が過剰に働き、細胞を傷つける「活性酸素」が増えます。こうして細胞が酸化によって傷む状態を「酸化ストレス」と呼びます。高血糖は、活性酸素を消す酵素の働きも弱めます。
酸化ストレスは炎症を引き起こし、炎症がさらに酸化ストレスを強めます。著者らは、この悪循環によって角膜(黒目の表面)の神経や、涙をつくる涙腺が傷つき、涙の膜が不安定になると説明しています。そのため、酸化ストレスと炎症をやわらげることが、栄養による対策を考えるうえでの主な手がかりとして位置づけられています。
栄養素ごとに示された報告とその根拠の強さ
総説では、炭水化物、たんぱく質、脂肪酸といった主要な栄養素に加え、ビタミンA・D・C・E、亜鉛やセレンなどの微量元素、α-リポ酸、そしてアントシアニン、レスベラトロール、ケルセチン、カロテノイドといった植物由来の成分が取り上げられています。それぞれについて、作用の仕組みと考えられる点、主な食品源、各国の摂取基準が紹介されています。
人を対象とした研究として紹介されているもののひとつが、オメガ3脂肪酸の試験です。中等度から重度のドライアイがある2型糖尿病患者に、EPA170mgとDHA115mgを含むカプセルを毎日3か月間投与したところ、涙の量を測る検査値や、涙の膜が保たれる時間が改善し、自覚症状の評価点も下がったと報告されています。α-リポ酸については、50〜79歳の患者70人を2群に分けた研究が紹介されています。0.3%HPMCに0.1%のα-リポ酸を加えた点眼薬を1日3回、2か月使った群は、HPMCのみの群と比べて、涙の膜の安定性や角膜の傷、症状の評価点がより大きく改善したとされます。
ビタミンDについては、1型糖尿病の子ども90人と健康な子ども80人を比べた研究が取り上げられています。ビタミンDが不足している糖尿病の子どもでは、涙に関する指標が悪い傾向が見られました。ただし、これは不足とドライアイの悪化に「関連がある」ことを示すもので、ビタミンDを補えば改善すると確かめた結果ではありません。
著者らは、根拠の強さが栄養素によって大きく異なる点を強調しています。人での介入研究で検討されているのは、オメガ3脂肪酸、α-リポ酸、ビタミンCとEの組み合わせなどです。一方、たんぱく質由来の成分や、植物成分を含むチベット伝統医学の点眼薬などは、動物実験の段階にとどまっています。カロテノイドについても、糖尿病性ドライアイを直接調べた臨床研究は限られているとされます。また、糖尿病性ドライアイを対象にした大規模な二重盲検・プラセボ対照試験はまだなく、適切な量や期間、長期の安全性は今後の課題として残っています。多くの栄養素で、とりすぎによる害にも触れられています。
食事パターンとしての地中海食とこの総説の意味
個々の栄養素に加えて、著者らは食事全体の組み立て方にも目を向けています。野菜、果物、全粒穀物、オリーブオイル、魚、ナッツを中心とする地中海食は、ポリフェノール、ビタミン、ミネラル、不飽和脂肪酸を豊富に含みます。そのため、酸化ストレスや炎症、全身の代謝を整えることで糖尿病性ドライアイをやわらげる可能性がある、と論文は仮説として述べています。
ただし、地中海食が糖尿病性ドライアイに効くかを直接調べた臨床研究は限られています。論文が挙げる根拠は主に代謝面のものです。2型糖尿病患者1371人を含む7つのランダム化比較試験をまとめた解析では、地中海食によって血糖の指標であるHbA1cが0.39%低下したと紹介されています。これは血糖管理についての結果であり、ドライアイの改善を直接示したものではありません。
この総説は、糖尿病性ドライアイを高血糖による酸化ストレスと炎症の問題として捉え、食事や栄養素がどこに関わりうるかを一つの見取り図にまとめたものです。有望な手がかりがある一方で、人での確かな根拠がそろっている栄養素はまだ一部にとどまる、という現状も同時に示しています。
原著論文の著者・所属:Qiuhan Li(School of Public Health, Southeast University, 210009 Nanjing, Jiangsu, China)、Yilu Chen(School of Public Health, Southeast University, 210009 Nanjing, Jiangsu, China)、Wei Ye(Department of Ophthalmology, Jinling Hospital, Medical School of Nanjing University, 210016 Nanjing, Jiangsu, China)、Liang Chen(The Marine Biomedical Research Institute, Guangdong Medical University, 524000 Zhanjiang, Guangdong, China)、Kefeng Wu(The Marine Biomedical Research Institute, Guangdong Medical University, 524000 Zhanjiang, Guangdong, China)、Da Pan(School of Public Health, Southeast University, 210009 Nanjing, Jiangsu, China)、Hui Xia(School of Public Health, Southeast University, 210009 Nanjing, Jiangsu, China)、Ligang Yang(School of Public Health, Southeast University, 210009 Nanjing, Jiangsu, China)、Shaokang Wang(School of Public Health, Southeast University, 210009 Nanjing, Jiangsu, China)、Guiju Sun(School of Public Health, Southeast University, 210009 Nanjing, Jiangsu, China)、Yirui Ge(Department of Ophthalmology, Jinling Hospital, Medical School of Nanjing University, 210016 Nanjing, Jiangsu, China)、Wang Liao(School of Public Health, Southeast University, 210009 Nanjing, Jiangsu, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Qiuhan Li, Yilu Chen, Wei Ye, et al. Nutritional Modulation of Diabetic Dry Eye: Mechanistic Insights and Therapeutic Potential of Dietary Nutrients and Patterns. International Journal for Vitamin and Nutrition Research 2026-08-21. DOI: 10.31083/ijvnr50268. 原著ライセンス:CC BY.