著者の所属・活動拠点の国は、ブラジル、ポルトガルです。

掲載誌:European Journal of Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

2型糖尿病は高齢になるほど多くなる病気です。加齢と2型糖尿病はどちらも、筋肉量や筋力が落ちる「サルコペニア」のリスクの高まりと関連しています。また、体内の慢性的な炎症や、活性酸素などによる「酸化ストレス」が糖尿病の合併症に関わるとされています。

運動と食事の見直しは2型糖尿病の治療の柱です。近年は、腸内細菌の状態が代謝や免疫に関わることにも関心が集まっています。シンバイオティクスとは、体によい働きを期待される菌(プロバイオティクス)と、その菌のえさになる成分(プレバイオティクス)を組み合わせたものです。著者らによれば、高齢の2型糖尿病患者を対象に、運動とシンバイオティクスを組み合わせた効果を調べた臨床研究はこれまでありませんでした。

そこで研究チームは、筋力トレーニングにたんぱく質の補給、さらにシンバイオティクスを加えると、炎症、酸化ストレス、筋力、体組成、血糖に関わる指標がどう変わるかを調べました。

どのように調べたか

対象は、ブラジル・サンパウロの地域で暮らす65〜79歳の男性です。全員が2型糖尿病の治療薬を少なくとも2年間同じ内容で使っており、血糖状態の目安であるHbA1cは6.0〜9.0%でした。51人を無作為に3つのグループに分け、最終的に40人が試験を終えて解析されました。

3つのグループはいずれも、週2回、1回45〜60分の指導付き筋力トレーニングを12週間行いました。違いは補給するものです。1つ目のグループは、トレーニング直後に風味をつけた水を飲みました。2つ目のグループは、トレーニング直後に乳清(ホエイ)たんぱく質20gを飲みました。3つ目のグループは、同じホエイたんぱく質に加えて、乳酸菌やビフィズス菌を含むシンバイオティクスのカプセルを毎日昼食後に服用しました。全員が栄養指導を受け、1日のたんぱく質摂取量をそろえました。

参加者、運動を指導する担当者、評価や解析をする担当者のいずれもが、誰がどの補給を受けているか分からないようにした「三重盲検」で試験は行われました。介入の前後に、握力やひざの筋力、立つ・歩く・バランスを点数化する身体機能テスト、体組成、血糖やインスリンに関わる血液検査、炎症に関わる物質(サイトカイン)、酸化ストレスや筋肉への負荷を示す指標を測定しました。

主な結果

身体機能テストの点数は、3つのグループすべてで12週間後に向上しました。ひざを伸ばす・曲げる筋力の指標がはっきり改善したのは、ホエイたんぱく質のみを補給したグループでした。握力にはどのグループでも有意な変化はみられませんでした。また論文の考察では、グループ間の差は統計的に有意な水準には届かなかったとされています。

血糖値、HbA1c、インスリンなど多くの血糖関連指標には変化がみられませんでした。インスリンの効きにくさを示すHOMA-IRは、たんぱく質のみのグループで低下しました。ただし、このグループはもともとHOMA-IRが他より高かったため、著者らは慎重に解釈すべきだとしています。

酸化ストレスに関わる指標では、すべてのグループで尿酸が増え、血清鉄が減りました。著者らはこれを、体の抗酸化の働きが高まったことを示唆するものと解釈しています。酸化を促しうるヘム鉄は、たんぱく質のみのグループでだけ約35%減りました。このグループでは炎症に関わるIL-6やIFN-γ、筋肉への負荷を示すCKやLDHも増えました。著者らは、これらを有害な炎症ではなく、運動に対する体の適応を反映している可能性が高いと考えています。

一方、シンバイオティクスを加えたグループでは、たんぱく質とトレーニングによる効果を上回る追加の効果はみられませんでした。なお、この研究では腸内細菌そのものは調べておらず、シンバイオティクスが実際に腸内環境を変えたかは確認できていません。

この研究が示すこと

著者らは、補給の内容にかかわらず筋力トレーニングによって高齢の2型糖尿病患者の身体機能が向上したと結論づけています。たんぱく質の補給は、筋力や一部の代謝の指標で上乗せの効果をもたらした可能性がある一方、今回用いた製品・量・12週間という条件では、シンバイオティクスに追加の効果は確認されませんでした。

対象は都市部に住む比較的教育水準の高い男性に限られ、途中で参加をやめた人もいました。著者らはこうした点を踏まえて結果を解釈する必要があるとしています。そのうえでこの試験は、高齢の2型糖尿病患者にとって筋力トレーニングが中心的な役割を持つことを改めて示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Marta Ferreira Bastos(Postgraduate Program in Aging Sciences, Universidade São Judas Tadeu, Rua Taquari, 546, São Paulo, 03166-000, Brazil. [email protected])、Priscila Larcher Longo(Postgraduate Program in Aging Sciences, Universidade São Judas Tadeu, Rua Taquari, 546, São Paulo, 03166-000, Brazil)、Guilherme Eustáquio Furtado(Polytechnic Institute of Coimbra, Applied Research Institute, Coimbra, Portugal. [email protected]; SPRINT - Sport Physical activity and health Research & INnovation cenTer, Polytechnic Institute of Coimbra, Coimbra, Portugal. [email protected])、Joselma Rodrigues dos Santos(Laboratory Study of Movement, Instituto de Ortopedia e Traumatologia do Hospital das Clínicas (IOT-HC) da Faculdade de Medicina da Universidade de São Paulo (FMUSP), São Paulo, SP, Brazil)、Ariana Tito Rodrigues(Postgraduate Program in Aging Sciences, Universidade São Judas Tadeu, Rua Taquari, 546, São Paulo, 03166-000, Brazil)、João Vitor Oliveira Carvalho(Postgraduate Program in Aging Sciences, Universidade São Judas Tadeu, Rua Taquari, 546, São Paulo, 03166-000, Brazil)、Adriana Machado Saldiba de Lima(Postgraduate Program in Aging Sciences, Universidade São Judas Tadeu, Rua Taquari, 546, São Paulo, 03166-000, Brazil)、Guilherme Carlos Brech(Postgraduate Program in Aging Sciences, Universidade São Judas Tadeu, Rua Taquari, 546, São Paulo, 03166-000, Brazil)、André Luis Lacerda Bachi(Ent Research Lab. Department of Otorhinolaryngology - Head and Neck Surgery, Federal University of Sao Paulo, São Paulo, Brazil; Post-Graduation Program in Health Sciences, Santo Amaro University (UNISA), São Paulo, SP, Brazil)、Marcelo Paes de Barros(Interdisciplinary Program in Health Sciences, Institute of Physical Activity Sciences and Sports (ICAFE), Universidade Cruzeiro do Sul, Rua Galvao Bueno 868, B-Tower, 13th floor, São Paulo, SP, 01506-000, Brazil)、Larissa Augusta de Sousa(Interdisciplinary Program in Health Sciences, Institute of Physical Activity Sciences and Sports (ICAFE), Universidade Cruzeiro do Sul, Rua Galvao Bueno 868, B-Tower, 13th floor, São Paulo, SP, 01506-000, Brazil)、Rodrigo Assunção de Oliveira(Interdisciplinary Program in Health Sciences, Institute of Physical Activity Sciences and Sports (ICAFE), Universidade Cruzeiro do Sul, Rua Galvao Bueno 868, B-Tower, 13th floor, São Paulo, SP, 01506-000, Brazil)、Carolina Rego Chaves Dias(Post-Graduation Program in Collective Health, Institute of Collective Health, Federal University of Bahia (ISC/UFBA), R. Basílio da Gama, S/N, Campus Universitário Canela, Salvador, Bahia, 40110-040, Brazil. [email protected])、Julia Maria D’Andrea Greve(Laboratory Study of Movement, Instituto de Ortopedia e Traumatologia do Hospital das Clínicas (IOT-HC) da Faculdade de Medicina da Universidade de São Paulo (FMUSP), São Paulo, SP, Brazil)、Angelica Castilho Alonso(Laboratory Study of Movement, Instituto de Ortopedia e Traumatologia do Hospital das Clínicas (IOT-HC) da Faculdade de Medicina da Universidade de São Paulo (FMUSP), São Paulo, SP, Brazil; Postgraduate Program in Aging Sciences, Universidade São Judas Tadeu, Rua Taquari, 546, São Paulo, 03166-000, Brazil)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Marta Ferreira Bastos, Priscila Larcher Longo, Guilherme Eustáquio Furtado, et al. Synergistic effects of synbiotic, protein supplementation, and resistance training on inflammation, oxidative stress, and muscle strength in older adults with type 2 diabetes mellitus: a RCT triple-blinded study. European Journal of Nutrition 2026-08-19. DOI: 10.1007/s00394-026-04076-7. 原著ライセンス:CC BY.