ぶどうをかじったときの、あの少し引き締まる酸味の一部を作っている成分の一つが「酒石酸」です。リンゴ酸やクエン酸などと並ぶ有機酸の仲間で、ワインの酸味を形づくる主要な成分の一つとしても知られています。個別の有機酸には日本人の食事摂取基準のような定量的な基準は設定されていない成分ですが、摂取量の基準で語るのではなく、食品の酸味=味わいを読み解く手がかりになる成分です。今回は、成分表に酒石酸の値が収載されている9食品のうち上位5つを見比べながら、その顔ぶれを読み解いてみます。
上位はすべて同率タイ、そしてぶどうだけではなかった
酒石酸が多い上位の食品を見ていくと、まず目を引くのが4品が並んで可食部100gあたり0.4gの同率1位になっている点です。ぶどう 皮つき シャインマスカット 生、ぶどう 皮なし 生、ぶどう 皮つき 生という3種のぶどうに加え、スイートチョコレート カカオ増量までもが同じ0.4gで並んでいます。順位に上下はなく、いずれも「同程度」の酸味の土台を持つ食品ということになります。
チョコレートは一見ぶどうと縁のない食品に思えますが、このスイートチョコレートはカカオを70%以上含むタイプで、酒石酸という軸で並べると、ぶどうと同じ列に収まってきます。しかもこの4食品はすべて、酒石酸と並んでリンゴ酸0.2gも共通して含んでおり、酸味の構成そのものがよく似ています。
ぶどう3種、皮の有無で見えてくる違い
3種のぶどうはいずれも酒石酸0.4g・リンゴ酸0.2gと有機酸の顔ぶれは同じですが、エネルギーには差があります。皮なし 生が58kcal、シャインマスカット 生が61kcal、皮つき 生が69kcalと、皮つきのほうがやや高めです。糖の顔ぶれにも違いがあり、皮なしぶどうはぶどう糖7.3g(推定値)・果糖7.1g(推定値)とぶどう糖がやや優勢な一方、シャインマスカットは果糖7.9g・ぶどう糖7.0gと果糖が、皮つき生では果糖8.7g・ぶどう糖8.4gと果糖がそれぞれわずかに上回っています。いずれも脂質はほぼゼロ、ナトリウムもごく微量という点は共通しており、酸味と甘みのバランスで食べる果実であることがうかがえます。なお、ぶどうは皮や果肉の間にポリフェノールを多く含むとされ、皮ごと食べる方法もあるとされています。
チョコレートでは酒石酸が脇役に回る
ここでもう一段、意外な顔が見えてきます。スイートチョコレート カカオ増量は酒石酸ではぶどうと肩を並べていますが、全体を見ると鉄が100gあたり9.3mgと目立って多く、鉄は赤血球のヘモグロビンの成分として酸素の運搬に関わるとされる無機質です。女性30〜49歳(月経なし)の推奨量6.0mg/日に対して155%にあたる量ですが、これはあくまで推奨量に対する割合であり、特定の食品の健康効果を示すものではありません。なお、鉄は日本人の食事摂取基準(2025年版)で耐容上限量が設定されていない栄養素ですが、チョコレートは一度に食べる量が限られる食品なので、100gあたりの数値をそのまま一食の摂取量と考える必要はありません。酒石酸という同じ酸味成分を持ちながら、食品としての顔つきはまったく別の栄養素で際立つところが、このチョコレートの面白さです。
ワインでは酒石酸がやや控えめに
ぶどう酒 ロゼは酒石酸0.3g(推定値)と、ここまでの4食品よりわずかに少なく、5位という結果でした。有機酸の内訳は酒石酸0.3g・リンゴ酸0.2g・コハク酸0.1g(いずれも推定値)の順で、生のぶどうと同じく酒石酸・リンゴ酸を含む点は共通していますが、量としては生のぶどうの0.4gよりやや少なめです。この数値はあくまで可食部100gあたりのもので、目安量としてはグラス1杯(80ml)が約80gにあたります。なお、飲酒については適量を超えないことが望ましいとされており、体質や体調によって配慮が必要な場合もあります。
まとめ
酒石酸という一つの酸味成分を軸に並べてみると、生のぶどう3種とチョコレート、そしてワインという一見バラバラな5つの食品が、可食部100gあたり0.3〜0.4gという近い水準でつながっていることが見えてきました。果物のフレッシュな酸味と、チョコレートやワインの奥行きのある酸味を、同じ有機酸という視点で比べながら味わってみてください。ぶどうを皮ごと食べてみるときや、カカオの多いチョコレートを選ぶときの、ちょっとした手がかりになるはずです。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、厚生労働省 食事摂取基準等の公的資料に基づきます。