8月も後半、店先の葡萄棚に房が並ぶ季節になりました。岡山は昔から、マスカット・オブ・アレキサンドリアというぶどうの産地として知られています。淡い黄緑の大粒で、香りの高い、いわゆる「マスカット」の代表格です。そしていま棚の主役になっているシャインマスカットは、このアレキサンドリアの血を引く品種——交配親の一つがアレキサンドリアだとされています。大粒で種がなく、皮ごと食べられる。皮をむかずに口へ運んで、ぱりっとした皮の歯ごたえのすぐ後に、果汁の甘さが広がる——あの食べ方は、この品種になってはじめて当たり前になりました。
ひとつ断っておくと、マスカット・オブ・アレキサンドリアそのものは成分表に個別の収載がありません。そこでこの記事では、同じマスカットの系譜にあり、いま岡山でも広くつくられているシャインマスカットの数値で見ていきます。産地の話は岡山のマスカット、数字はシャインマスカット——その前提でお読みください。
皮ごと、には理由があります。ぶどうは果糖やぶどう糖などの糖質を主成分としながら、色素成分のアントシアニン、苦み成分のタンニン、カテキンなど、多種類のポリフェノールも含んでいて、これらは皮と果肉のあいだに多いとされています。皮をむいて食べていた頃は、いちばん濃いところをそのまま捨てていたことになります。皮ごと食べられる品種は、果肉だけでなく、皮のすぐ内側まで丸ごと味わえる。それだけのことですが、それが大きい。
甘さの主役は果糖
房から一粒つまんだときの、あの濃い甘さの正体は糖の組み合わせです。可食部100gあたりで、エネルギーは61kcal。甘みのもとになる糖類は果糖7.9g・ぶどう糖7gで、この食品では果糖のほうがわずかに多くなっています。脂質は0.2g、炭水化物は16.1g、食物繊維総量は0.9g、食塩相当量は0g、たんぱく質は0.7g。数字だけ見れば主張の少ない果物ですが、その軽やかな組成の中に、甘みだけがしっかり詰まっているのが分かります。
後味のすっきりした酸味は、酒石酸0.4gとリンゴ酸0.2gの仕事です。酒石酸はぶどうやワインに多い代表的な有機酸、リンゴ酸はその名のとおりりんごに、そしてぶどうにも多い酸味の成分。甘さのあとにこの二つが残るから、一粒でやめられずに次の一粒へ手が伸びるのかもしれません。
岡山という産地、いまという旬
ぶどうの収穫量を都道府県別のシェアで見ると、山梨29.1%・長野21.4%・岡山9.6%・山形9.4%・福岡4%。岡山は全国でも上位の産地で、マスカット系の産地としての歴史がその一角を支えています。国産のぶどうは8月から9月にかけて多く出回る旬にあたり、まさに今が食べどきです。
食べきれない分は、軸を残したまま冷凍する方法があります。まるごと冷凍なら2カ月ほど保存できるとされ、食べる直前に水に30秒ほどくぐらせるか手で触れると、皮がするりとむけて、シャーベットのような食感とともに甘みが増すともいわれています。皮ごと食べる品種を、あえて皮をむいて凍らせて食べる——旬を少し先まで引き延ばす、もう一つの楽しみ方です。
まとめ
岡山のマスカットの系譜を引くシャインマスカットの魅力は、大粒で種がなく皮ごと食べられる手軽さと、皮の内側に多いとされるポリフェノールまで余さず味わえることにあります。果糖の甘みと、酒石酸・リンゴ酸のすっきりした酸味。その釣り合いを、今の時季の一房で確かめてみてください。凍らせて皮をむく食べ方は、その一房が終わる前に試しておきたい寄り道です。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準