この研究は、イスラエルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
子どもの脳は学齢期に入っても発達を続けます。そのため、この時期の食事が認知機能に関わる可能性が考えられてきました。しかし、これまでの研究の多くは「健康的な食事パターン」のような食生活全体を扱っており、どの栄養素が関わるのかは十分に分かっていません。たんぱく質や脂質などの主要栄養素、食物繊維、脂肪酸の摂取量を具体的に測り、標準化された知能検査の成績と比べた研究は、健康な学齢期の子どもでは比較的少ないと著者らは指摘しています。
研究チームはさらに、中東地域、とくに独自の社会文化的背景と食習慣を持つ少数派集団のデータが乏しい点にも着目しました。この研究では、イスラエルに住む健康な10〜12歳のアラブ系児童を対象に、主要栄養素、食物繊維、脂肪酸の摂取量と認知機能の成績との関連を調べています。
何をどのように調べたか
対象は、2007年にイスラエル・ハデラ地区の二つのアラブ系の村で乳児期から追跡されてきた集団の子どもたちです。10〜12歳の時点で食事と認知機能の両方の評価を受けた146人を、ある一時点のデータとして分析しました(横断研究)。発達の遅れが記録されている子どもは対象から除かれています。二つの村はいずれも、イスラエル全体と比べて社会経済的に低い水準にあります。
食事は、学期中の平日1日について、前日24時間に食べたり飲んだりしたものを子どもと母親に聞き取る方法で調べました。聞き取りは三段階で進め、食品の写真集や計量カップなどを使って量を見積もりました。その内容をイスラエルの栄養計算ソフトに入力し、たんぱく質、脂質、炭水化物、食物繊維、糖類、飽和脂肪、コレステロール、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、リノール酸、リノレン酸の12項目の摂取量を算出しています。
認知機能は、子ども用の標準的な知能検査(WISC-IV)のアラビア語版を用いて、訓練を受けた心理士が測定しました。全体的な知的機能を表す全検査IQを主要な評価項目とし、言語理解、知覚推理(図形などを使った推論)、ワーキングメモリー(情報を一時的に保持しながら処理する力)、処理速度の4つの指標は探索的な副次項目として扱いました。分析では、年齢、性別、住んでいる村、社会経済的状況、1日の総エネルギー摂取量の影響を統計的に調整しています。
主な結果
主要な評価項目である全検査IQについては、調べた12項目のどの栄養素とも統計的に意味のある関連は見られませんでした。複数の比較を同時に行うことによる偶然の影響を補正した後も、この結果は変わりませんでした。
一方、4つの副次指標と12項目の栄養素を組み合わせた48通りの探索的な比較では、三つの関連が報告されました。食物繊維の摂取量が多い子どもほどワーキングメモリーの得点が高く、1日あたりの摂取量が1グラム多いごとに得点が平均約0.43点高いという関係でした。また、多価不飽和脂肪酸の摂取量が多いほど知覚推理の得点が、リノレン酸の摂取量が多いほど処理速度の得点が高い傾向が見られました。
研究チームは、これらの関連が分析の条件を変えても保たれるかを確かめました。食物繊維とワーキングメモリーの関連は、摂取量の数値を変換した場合や、結果に強く影響する一部のデータを除いた場合でも一貫していました。これに対し、多価不飽和脂肪酸と知覚推理、リノレン酸と処理速度の関連は、摂取量の表し方を変えると弱まりました。このほか、半数以上の子どもでトランス脂肪酸の計算上の摂取量がゼロだったため、摂取の有無で比べる追加分析も行われ、摂取があった子どもでは知覚推理の得点が低いという関連が見られました。
この研究が示すこと
著者らは、全体的な知的機能を表す全検査IQと栄養素摂取量との間に関連の証拠は見られなかったことを、この研究の主要な結果としています。一方で、食物繊維とワーキングメモリーのように特定の認知領域に限った関連が見られたことから、食事との関わりは認知機能のすべての側面で同じではない可能性があると論じています。
ただし、副次的な関連は多数の比較の中から見つかったものであり、偶然による可能性も残ります。著者らはこれらを、因果関係を示すものではなく、今後検証すべき仮説を生み出す結果と位置づけています。食事を1日分しか調べておらず、普段の食習慣を表しきれないことも限界として挙げられています。また、対象は社会経済的に比較的低い二つの地域の子どもで、肥満の割合も高い集団でした。そのため、得られた得点や結果をイスラエルのアラブ系児童全体にそのまま当てはめることはできないとしています。
この研究は、これまでデータが少なかった集団について、学齢期の栄養素摂取と認知機能の関係を示した新しい知見です。全体的なIQとの関連は見られなかった一方で、食物繊維とワーキングメモリーのように特定の能力に絞った関連の手がかりが得られたことに意義があります。
著者:Khitam Muhsen(Department of Epidemiology and Preventive Medicine, School of Public Health, Gray Faculty of Medical and Health Sciences, Tel Aviv University, Tel Aviv 6139001, Israel)、Ashraf Akawi(Child Development Center, Hillel Yaffe Medical Center, Hadera 3810101, Israel)、Rebecca Goldsmith(Nutrition Division, Ministry of Health, Jerusalem 9101002, Israel)、Dina Levy(Department of Epidemiology and Preventive Medicine, School of Public Health, Gray Faculty of Medical and Health Sciences, Tel Aviv University, Tel Aviv 6139001, Israel)、Nuha Zeidan(Diet and Nutrition Unit, Clalit Health Service, Arara 30026, Israel)、Asher Ornoy(Adelson School of Medicine, Ariel University, Ariel 4077625, Israel)、Eias Kassem(Department of Pediatrics, Hillel Yaffe Medical Center, Hadera 3810101, Israel)、Wasef Na’amnih(Department of Epidemiology and Preventive Medicine, School of Public Health, Gray Faculty of Medical and Health Sciences, Tel Aviv University, Tel Aviv 6139001, Israel)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Khitam Muhsen, Ashraf Akawi, Rebecca Goldsmith, et al. Associations Between Nutrient Intake and Cognitive Performance Across Multiple Domains in Healthy School-Aged Children. Nutrients 2026-09-26. DOI: 10.3390/nu18193186. 原著ライセンス:CC BY.