この研究は、韓国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

加齢に伴う認知機能の低下やアルツハイマー病への対策として、生活の中で変えうる要因に注目が集まっています。栄養状態はその一つで、日常診療で測定でき、改善に向けた働きかけも可能です。これまでの研究でも、栄養状態が悪い高齢者ほど認知機能の成績が低い傾向が報告されてきました。

ただし、この関係がすべての人に同じように当てはまるのかは、よく分かっていません。研究チームが注目したのは、アポリポタンパク質E遺伝子のε4型(APOE4)です。APOE4は、高齢になってから発症するアルツハイマー病について、よく見られる遺伝的リスク要因のなかで最も影響が大きいとされています。また、代謝や脳の炎症とも関わります。著者らは、栄養状態と認知機能の関連がAPOE4を持つ人と持たない人で異なるかを調べました。あわせて、栄養評価票のどの部分や項目が認知機能と結びついているのかも検討しています。

何を調べたか

対象は、韓国で進行中の研究であるGLADコホートに参加した65〜90歳の196人です。いずれも認知症ではなく、このうち83人は認知機能が正常、113人は軽度認知障害(記憶などに低下が見られるものの、日常生活は自立している状態)でした。APOE4を持つ人は40人でした。今回の分析は、ある一時点のデータを使う横断研究です。

栄養状態の評価には、高齢者向けに広く使われている簡易栄養状態評価表(MNA)の18項目版を用いました。MNAは二つの部分から成ります。一つは、最近の食事量の減少、体重減少、BMIなどを尋ねる短い「スクリーニング」部分です。もう一つは、食事の回数、たんぱく質や水分の摂取、自分の健康状態の自己評価、ふくらはぎの周囲長などを含む、より詳しい「アセスメント」部分です。認知機能は、記憶や言語などを調べる複数の検査の合計点(CERAD総合得点)で全体的に評価しました。

解析では、年齢、性別、教育歴、診断区分、血管系の危険因子、身体活動、収入、飲酒・喫煙歴、血液検査の値など、多くの要因の影響を統計的に調整しました。そのうえで、MNAの得点と認知機能の関連を調べています。

主な結果

各要因を調整した後も、MNAの総得点とアセスメント部分の得点が高い人ほど、認知機能の合計点が高いという関連が見られました。一方、スクリーニング部分の得点は、調整後には統計的に明確な関連を示しませんでした。

この関連はAPOE4の有無によって異なっていました。APOE4を持たない人では、栄養状態が良いほど認知機能が高いという関連がはっきり見られました。APOE4を持つ人では、統計的に有意な関連は確認されませんでした。ただし、APOE4を持つ人は40人と少なく、統計的に検出する力は十分ではありませんでした。著者らは、関連が見られなかったことを「関連がない」証拠と解釈すべきではないと注意を促しています。なお、栄養状態の平均的な得点は、両グループで大きな差はありませんでした。

個々の項目についても探索的に分析しました。栄養に関わる三つの領域、すなわち主観的な健康感、食事内容、体格・筋肉量から、それぞれ代表的な項目を選んで調べています。その結果、複数の検定を行うことを考慮した厳しい基準を満たしたのは「同年代の人と比べた自分の健康状態の評価」だけでした。たんぱく質の摂取とふくらはぎの周囲長は、より緩い基準でのみ関連が示されました。また、認知機能が正常な人だけ、あるいは軽度認知障害の人だけに分けて分析しても、栄養状態と認知機能の関連はおおむね保たれていたと報告されています。

この研究が示すこと

今回の研究は、認知症ではない高齢者において、栄養状態の良さと全体的な認知機能の高さが結びついていることを示しました。また、その関連が主にAPOE4を持たない人で目立つことも報告しています。さらに、短いスクリーニングだけでなく詳しい評価まで行うことで、認知機能との関連がより捉えやすくなる可能性も示されました。

ただし、これは一時点の観察にもとづく結果です。栄養状態が認知機能を良くするという因果関係を示したものではありません。著者らは、今回の知見を仮説を立てるための段階のものと位置づけており、より大規模な追跡研究や介入研究での確認が必要だとしています。

著者:Young Min Choe(Department of Neuropsychiatry, Hallym University Dongtan Sacred Heart Hospital, 7 Keunjaebong-gil, Hwaseong 18450, Gyeonggi, Republic of Korea)、Jihyun Kim(Department of Neuropsychiatry, Hallym University Dongtan Sacred Heart Hospital, 7 Keunjaebong-gil, Hwaseong 18450, Gyeonggi, Republic of Korea)、Jihyun Kim(Department of Neuropsychiatry, Hallym University Dongtan Sacred Heart Hospital, 7 Keunjaebong-gil, Hwaseong 18450, Gyeonggi, Republic of Korea)、Hyeji Choi(Department of Neuropsychiatry, Hallym University Dongtan Sacred Heart Hospital, 7 Keunjaebong-gil, Hwaseong 18450, Gyeonggi, Republic of Korea)、Boung Chul Lee(Department of Neuropsychiatry, Hallym University Hangang Sacred Heart Hospital, Seoul 07247, Republic of Korea)、Guk‐Hee Suh(Department of Neuropsychiatry, Hallym University Dongtan Sacred Heart Hospital, 7 Keunjaebong-gil, Hwaseong 18450, Gyeonggi, Republic of Korea)、Shin Gyeom Kim(Department of Neuropsychiatry, Soonchunhyang University Bucheon Hospital, Bucheon 14584, Gyeonggi, Republic of Korea)、Hyun Soo Kim(Department of Laboratory Medicine, Hallym University Dongtan Sacred Heart Hospital, 7 Keunjaebong-gil, Hwaseong 18450, Gyeonggi, Republic of Korea)、Jaeuk Hwang(Department of Psychiatry, Soonchunhyang University Hospital Seoul, Seoul 04401, Republic of Korea)、Dahyun Yi(Institute of Human Behavioral Medicine, Medical Research Center Seoul National University, Seoul 03080, Republic of Korea)、Jee Wook Kim(Department of Neuropsychiatry, Hallym University Dongtan Sacred Heart Hospital, 7 Keunjaebong-gil, Hwaseong 18450, Gyeonggi, Republic of Korea)、Jee Wook Kim(Department of Neuropsychiatry, Hallym University Dongtan Sacred Heart Hospital, 7 Keunjaebong-gil, Hwaseong 18450, Gyeonggi, Republic of Korea)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Young Min Choe, Jihyun Kim, Jihyun Kim, et al. Nutritional Status and Cognition in Older Adults: Modification by Apolipoprotein E ε4. Nutrients 2026-09-29. DOI: 10.3390/nu18193217. 原著ライセンス:CC BY.