著者の所属・活動拠点の国は、イランです。
掲載誌:Applied Food Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
水耕栽培の養液の不安定さという課題
土を使わず、栄養分を溶かした水(養液)で作物を育てる水耕栽培では、養液の状態が変わりやすいことが課題になっています。研究チームによると、養液の濃さの目安となるEC(電気伝導度。水に溶けている肥料成分などの量を反映する値)や、酸性・アルカリ性の度合いを示すpHが変動しやすく、頻繁な監視や養液の交換が必要になります。その結果、コストや環境への廃棄物が増えるといいます。
そこで注目されたのが、分解される性質を持つハイドロゲル(水を含んでふくらむゲル状の素材)です。栄養分をゆっくり放出する手段として期待されていますが、実際に養液が循環する水耕システムで、ゲルを直接の栄養源として使う方法はまだ十分に調べられていないと著者らは指摘しています。この研究は、栄養分を含ませたゲルを水耕栽培の緩効性肥料(ゆっくり効く肥料)として使えるかを確かめることを目的としています。
3種類のゲルを作り、レタス栽培で比べる
研究チームは、アルギン酸ナトリウムを主な材料に、3種類のハイドロゲルを作りました。窒素を含むもの(尿素を使用)、リンとカリウムを含むもの、マグネシウムと銅を含むものです。ゲルは、カルシウムなどのイオンで分子同士をつなぎ合わせる「イオン架橋」という方法で固められました。
作ったゲルについては、熱分析や赤外分光法、電子顕微鏡による観察などで性質を調べました。さらに、15〜35℃、pH5.5〜7.5の範囲で、ゲルから栄養分がどのように溶け出すかを実験室で確かめています。
栽培試験は温室で14日間行われました。対象はフレンチレタス(Lactuca sativa var. crispa)で、栽培方式はNFT(根に沿って養液を薄く流し続ける水耕法)です。ゲルを根の周りに置いたシステムAと、標準的な養液を使ったシステムBを比較し、ECとpHの安定性、生育、葉に含まれる元素の量、植物に含まれる機能性成分の量を調べました。
根の環境の変動が減り、生育や成分にも違い
論文によると、栄養分がゲルの中に取り込まれていることが確認されました。栄養分の放出は、調べた条件のうち35℃、pH5.5のときに最も多くなりました。
栽培試験では、ゲルを使ったシステムAで、ECとpHの変動が40%小さくなったと報告されています。生育面でもシステムAが上回り、葉の生重量(水分を含んだ重さ)は32%多く、根は18%長くなりました。
植物に含まれる成分では、フラボノイドが33%、フェノール類が24%多く、抗酸化性の指標の一つであるDPPHラジカル消去活性も14.3%高い結果でした。一方で、システムAの葉では、葉緑素(クロロフィル)、カロテノイド、窒素の含有量が低くなっていました。著者らは、この結果について、軽い窒素不足とのトレードオフ(得られる利点と引き換えに生じる面)と矛盾しないものだと述べています。
研究が示すこと
この研究は、栄養分を含ませたアルギン酸ゲルを根の周りに置くことで、14日間の水耕栽培で養液の状態の変動を抑えられたことを報告しています。同時に、生育や一部の成分が増える一方、葉の窒素や色素は減るという両面の結果も示されました。著者らは、こうしたゲルを、土を使わない農業で根の環境を安定させるための有望で生分解性のある方法と位置づけつつ、さらなる評価が必要だとしています。
原著論文の著者・所属:Rasoul Mohammadi(Department of Chemistry, Faculty of Science, Imam Khomeini International University, Qazvin, Iran)、Abolfazl Keshtkar-vanashi(Department of Chemistry, Faculty of Science, Imam Khomeini International University, Qazvin, Iran)、Seyed Mehrdad Mirsalami(Department of Chemical Engineering, Faculty of Engineering, University of Guilan, Guilan, Rasht, Iran)、Hossein Ghasemzadeh(Department of Chemistry, Faculty of Science, Imam Khomeini International University, Qazvin, Iran)、Morteza Soleimani Aghdam(Department of Chemistry, Faculty of Science, Imam Khomeini International University, Qazvin, Iran)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rasoul Mohammadi, Abolfazl Keshtkar-vanashi, Seyed Mehrdad Mirsalami, et al. Controlled nutrient release from alginate hydrogels stabilizes root-zone environment and enhances lettuce quality in NFT hydroponics. Applied Food Research 2026-08-20. DOI: 10.1016/j.afres.2026.102527. 原著ライセンス:CC BY.