野菜づくりの世界では近年、化学肥料に頼りすぎずに収量や品質を高める手段として「微生物バイオスティミュラント」への関心が高まっています。植物の根に有用な微生物を与えることで、栄養の吸収やストレス耐性を助けようという発想です。これまでこの分野では根圏微生物(PGPR)と呼ばれるBacillus属やPseudomonas属の細菌がよく使われてきましたが、今回紹介する研究は、発酵食品でおなじみの「乳酸菌」を水耕栽培のレタスに応用したらどうなるかを調べたものです。トルコのチュクロヴァ大学のBoran İkiz氏らの研究チームによる報告で、インターナショナル・ジャーナル・オブ・アグリカルチャー・エンバイロメント・アンド・フード・サイエンシズ誌に2026年8月に掲載予定です。

研究チームは、伝統的なサワードウ(パン種)から分離されたという3種類の乳酸菌株、Lactiplantibacillus plantarum(LP)、Levilactobacillus brevis(LB)、Pediococcus pentosaceus(PP)を用意し、これらを単独で、あるいは3種混合(Mix LAB)として使う場合と、Bacillus subtilis・Bacillus megaterium・Pseudomonasfluorescensを含む市販のPGPR製剤「Rhizofill」を使う場合、そして何も加えない対照区とを比較しました。

どうやって調べたのか

実験はトルコの温室内で、冬季(1月〜3月)に、Batavia型レタス品種「Caipira」を使って行われました。根を養液に浸す「浮き根式(フローティング)水耕栽培」というシステムが使われ、各処理区は4反復、1反復あたり15株という規模です。菌液はあらかじめ1ミリリットルあたり10億個相当の濃度に調整され、養液タンクに7日おきに加えられました。栽培期間は40日間で、その後、草丈や茎の太さ、葉数、根の重さといった生育の指標に加え、葉の葉緑素量を示すSPAD値、葉液のpHや電気伝導度(EC)、さらにポリフェノールやフラボノイド、ビタミンC(L-アスコルビン酸)、硝酸塩の含有量まで、幅広い項目が測定されました。

研究でわかったこと

結果として、乳酸菌を加えたどの処理区も、対照区と比べて生育や収量に良い影響が見られたと報告されています。中でもLP(Lactiplantibacillus plantarum)を加えた区の成績が際立っており、株の生重量が対照区より34.0%、総収量が36.0%増加したとされています。草丈は対照区の20.67cmに対しLP区は25.10cm、茎の太さも19.44mmから30.14mmへと大きくなったと記録されています。加えてLP区では、ポリフェノール含有量が17.5%、フラボノイドが46.9%、ビタミンCが37.5%それぞれ対照区より高くなったとされ、収量の増加と栄養的な質の向上が同時に起きた可能性が示唆されています。

一方でLB(Levilactobacillus brevis)は、根の生重量を最も強く増やした処理として報告されています(対照区の20.87gに対し33.16gで58.9%増)。さらにLB区は硝酸塩の蓄積量が全処理の中で最も低かったとされ(対照区649.90mg/kgに対し622.04mg/kg)、対照区より4.3%少ない値だったとしています。これに対しLPは収量や抗酸化成分では優れていたものの、硝酸塩の蓄積量はむしろ対照区より17.2%高かったと報告されており、収量の増加が必ずしもすべての品質指標の改善を伴うわけではないことが示されています。なお、3菌株を混ぜたMix LAB区は、単独のLP区ほどの効果は見られず、フェノール含有量やビタミンC含有量はむしろ対照区より低下したと報告されており、菌株同士の組み合わせが常に相乗効果を生むとは限らないことがうかがえます。市販のPGPR製剤Rhizofillと比較すると、LPは複数の生育・品質指標で同等かそれ以上の成績を示したとされ、著者らは乳酸菌が既存のPGPR製剤に代わる選択肢になりうると述べています。

この研究を読むうえでの注意

著者らは論文中で、今回の生育促進の仕組みについて、根の活性を高める植物ホルモン様物質の関与や、鉄などの微量要素の可給性を高めるシデロフォア産生といった機構を推定として挙げていますが、実際に植物組織内のミネラル濃度は測定していないため、これらはあくまで推定される機序であり、直接的な証拠ではないと断っています。また、養液中に加えた乳酸菌がその後どの程度定着し、どのように個体数が変化したかについては、栽培期間中モニタリングされていないとも述べられています。この研究は温室内・冬季・特定の品種という条件下での一つの実験結果であり、乳酸菌の効果や机序が確立されたと結論づけるものではない点に留意が必要です。

この研究は水耕栽培という限られた条件下での知見であり、家庭菜園や露地栽培にそのまま当てはまるとは限りません。また、収量や特定の抗酸化成分が増えたことと、実際の健康への効果とは別の話であり、この研究の結果から健康効果を断定することはできません。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Boran İkiz, H.Y. Daşgan, Ilker Yildiz, et al. Biostimulant potential of lactic acid bacteria in hydroponic lettuce production: growth and nutritional quality. インターナショナル・ジャーナル・オブ・アグリカルチャー・エンバイロメント・アンド・フード・サイエンシズ (2026). DOI: 10.31015/jaefs.2026.3.4.