著者の所属・活動拠点の国は、ロシアです。
掲載誌:Fisheries
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
食品や養殖用飼料には、ゲルを作る、とろみをつける、成分を安定させるといった働きをもつ「ハイドロコロイド」と呼ばれる高分子素材が広く使われています。著者らは、こうした素材の性質として、近年は形を整える働きに加え、フリーラジカル(不安定で反応しやすい分子)を抑える「抗ラジカル活性」も重視されるようになったと述べています。フリーラジカルは、空気との接触などをきっかけに生じます。そして、脂質の酸化による劣化、風味の変化、ビタミンの損失などを通じて、保存期間に影響します。
一方で、分子の大きいハイドロコロイドは従来の分析法では調べにくく、時間もかかります。そこで研究チームは、試料を壊さずに短時間で測定できる赤外分光法に注目しました。赤外分光法は、物質が赤外線をどの波長でどれだけ吸収するかを測る方法です。研究チームはこの方法で得たデータを統計的に処理しました。その目的は、抗ラジカル活性の高さと結びつくスペクトル上の特徴を見つけることです。このように測定データを統計で読み解く手法は「ケモメトリクス」と呼ばれます。
何をどのように調べたか
対象は、現代の食品や飼料の配合によく使われる素材です。ビタミンEの一種であるα-トコフェロールのほか、寒天、アルギン酸ナトリウム、3種類のカラギーナンといった海藻由来の素材が含まれます。さらに、グアーガム、アラビアガム、こんにゃくガム、カラマツ由来のアラビノガラクタン、各種デキストリンやでんぷん、セルロース系素材、ポリエチレングリコールなども調べられました。
研究チームは、これらの素材を中赤外域のフーリエ変換赤外分光計(FTIR)で測定し、合計34本のスペクトルを得ました。得られたスペクトルには、正規化、平滑化、中心化といった前処理が施されています。次に、各試料の抗ラジカル活性を測定しました。測定には、DPPHという安定なラジカルが色を失う度合いを光で測る方法を使い、各試料を3回ずつ調べました。結果はアスコルビン酸(ビタミンC)に換算した値で表されています。最後に、スペクトルの値と抗ラジカル活性の値を突き合わせて相関を探りました。多数の検定を同時に行うと偶然の一致が紛れ込みやすいため、その点を補正する手続き(ボンフェローニ補正)も用いられています。
主な結果
論文によると、抗ラジカル活性の高さと統計的に有意な相関を示す波数範囲が7か所見つかりました。そのうち6か所は、吸収が強いほど活性も高い正の相関を示し、平均の相関の強さは0.90〜0.96でした。これらの範囲は、1166〜1168、1189〜1217、1360〜1384、1428〜1473、1745〜1774、2915〜2975 cm⁻¹(1センチメートルあたりの波の数)に分布しています。著者らは、これらの範囲を、炭素と酸素の結合、炭素と水素の結合、カルボニル基(炭素と酸素の二重結合)などの分子構造に由来する吸収と関連づけて説明しています。
残る1か所の3415〜3465 cm⁻¹では、約−0.91という強い負の相関がみられました。つまり、この範囲の吸収が強い試料ほど抗ラジカル活性が低い傾向がありました。この範囲は、水分子や、糖・アルコールなどがもつ水酸基(酸素と水素の結合)の振動に対応します。このため著者らは、この範囲は原料の乾燥度合いの評価にも使える可能性があると述べています。
この研究が示すこと
著者らは、見つかったスペクトル上の特徴が、抗ラジカル活性を見積もる指標になりうると考えています。水分量や保存中の劣化の目安としても利用できる可能性があるとしています。ただし、今回示されたのは、あくまで赤外スペクトルと活性値の統計的な相関です。特定の分子構造が活性を生み出す因果関係を確かめたものではありません。
それでも、試料を壊さずに素早く測れる赤外分光法が、食品素材や養殖用飼料の性質を評価する手がかりになりうることを示した点に、この研究の意味があります。著者らは、こうしたデータが迅速な検査に向けた数理モデルづくりの基礎資料になると位置づけています。
原著論文の著者・所属:V. V. Gorbachev(St. Petersburg branch of the Scientific Research Center of the Russian Federation VNIRO Federal State Budgetary Scientific Institution (GosNIORH named after L.S. Berg))、A. A. Smirnov(Dagestan State University; Sakhalin State University; The State Scientific Center of the Russian Federation Research Institute of Fisheries and Oceanography (VNIRO))、M. A. Belyaeva(Plekhanov Russian University of Economics)、A. A. Lyutikov(St. Petersburg branch of the Scientific Research Center of the Russian Federation VNIRO Federal State Budgetary Scientific Institution (GosNIORH named after L.S. Berg))、D. V. Suslov(Peoples’ Friendship University of Russia; State University of Land Management)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):V. V. Gorbachev, A. A. Smirnov, M. A. Belyaeva, et al. Chemometric search for IR spectral characteristics associated with the level of antiradical activity of food ingredients and feed for aquaculture. Fisheries 2026-07-31. DOI: 10.36038/0131-6184-2026-3-93-99. 原著ライセンス:CC BY.