掲載誌:Food Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜパンの減塩を調べたのか
ナトリウムのとりすぎは血圧の上昇や高血圧と関係し、心臓や血管の病気につながることが知られています。研究チームは、世界の多くの大人が推奨量を超える食塩をとっていることを背景に挙げ、毎日食べられる主食であるパンが食事からのナトリウムの大きな供給源になっている点に注目しました。
そこでこの研究の目的は、パンに使う塩化ナトリウム(いわゆる食塩)の一部を塩化マグネシウムに置き換えることで、ナトリウムを減らしながらも消費者に受け入れられる味と品質を保てるかどうかを確かめることでした。塩化マグネシウムは食品添加物として認められている物質ですが、マグネシウム塩には苦味や金属のような味、渋味など複雑な味の性質があることも、論文では前提として説明されています。
どのように調べたか
研究チームは、小麦粉、砂糖、バター、粉乳、イースト、水を同じ分量にしたうえで、塩の部分だけを変えた4種類のパンを焼きました。塩化ナトリウムと塩化マグネシウムの比率は、100対0(対照のT0)、90対10(T1)、80対20(T2)、70対30(T3)です。
焼き上がったパンについて、水分、たんぱく質、脂質、灰分、粗繊維、炭水化物、そしてナトリウムとマグネシウムの量を、標準的な公定分析法で測定しました。ナトリウムとマグネシウムは原子吸光分光光度計で分析しています。
味の評価には、20〜35歳の学生と職員からなる半訓練済みのパネル30人が参加しました。パンの色、香り、味、金属的な味、食感、総合的な好ましさを、「非常に好き」を9点、「非常に嫌い」を1点とする9段階の尺度で採点しています。あわせて、対照のパンと減塩パンの違いを言い当てられるかを調べる「デュオトリオ法」という識別テストも行いました。これは3つの試料のうち1つを基準として示し、残り2つのどちらが基準と同じかを選ばせる方法です。
報告された主な結果
著者らの報告によると、水分、たんぱく質、脂質、灰分、粗繊維、炭水化物、エネルギーには4種類の間で統計的に意味のある差は見られず、栄養成分の面では安定していました。一方、ナトリウムとマグネシウムの量は置き換えの割合に応じてはっきり変化し、ナトリウムは対照の100gあたり192.97mgから、置き換えが最も多いT3では171.55mgへと減少しました。マグネシウムは逆に100gあたり17.05mgから31.17mgへ増えています。10%置き換えのT1では、ナトリウムは186.11mgでした。
識別テストでは、対照とT1の比較で正解したのは30回のうち3回にとどまり、有意とみなすのに必要な20回に届きませんでした。つまり10%の置き換えでは、パネルは違いをほとんど感じ取れなかったと報告されています。対照とT2では19回で基準をわずかに下回り、対照とT3では22回で基準を超えたため、30%の置き換えでは違いが感じ取れる差だったとされています。
9段階評価では、T1が色、香り、味で最も高い点を得て、総合的な好ましさも対照と同程度に高い水準でした。これに対し、20%以上置き換えた試料では点数が下がり、とくにT3は味が3.96点、金属的な味の評価が3.56点と大きく低下しました。著者らは、この低下を塩化マグネシウムの濃度が高いときの苦味や金属的な味によるものと考えています。また食感の低下については、マグネシウムイオンがグルテンの網目構造に作用して生地の性質を変えることが関係している可能性を挙げています。
この報告が示すこと
論文の結論は、塩化ナトリウムの一部を塩化マグネシウムに置き換えることは、パンの栄養成分を大きく変えずにナトリウムを減らす実行可能な方法だというものです。ただし、その効果が味を損なわずに得られたのは10%程度までで、20%以上では金属的な味などの変化が総合的な受容度を下げました。
著者らは、マグネシウム塩の独特な味の性質が使える範囲を低い置き換え率に限る可能性があり、風味を隠す工夫を伴わなければ難しいと述べています。さらに、塩化マグネシウムを使うと製造コストが上がる可能性があり、それが工業的な規模での採用に影響しうる点も課題として挙げられています。減塩という目標と、食べる人が受け入れられる味との折り合いをどこでつけるか——この研究は、身近な主食を題材にその境目を具体的な数字で示したといえます。
著者:M.S. Rahman、A.K.D. Joy、M.I. Mahin、N.A. Onty、M. Khatun、U. Sarker
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):M.S. Rahman, A.K.D. Joy, M.I. Mahin, et al. Development of sodium salt reduced bread by partial substitution of magnesium salt and analysis of its sensory acceptance. Food Research 2026-08-26. DOI: 10.26656/fr.2017.10(4).012. 原著ライセンス:CC BY.