著者の所属・活動拠点の国は、サウジアラビア、エジプトです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref
二つの伝統食品を組み合わせる試み
クレイジャは、サウジアラビアのカシーム地方で親しまれてきた伝統的な焼き菓子です。小麦粉、砂糖、乳、油脂などで作った生地に、香辛料を効かせた甘い詰め物を包んで焼きます。外側はさくっとし、中はしっとりとした食感が特徴です。
フル・ムルは、スーダンで飲み物の材料として使われてきた伝統食品です。ソルガム(モロコシ)の粉を発芽・発酵させ、薄く焼いたシートを砕いてフレーク状にします。研究チームは先行研究の報告として、乳酸菌や酵母による発酵がフェノール化合物などを利用されやすくし、抗酸化活性を高めることを紹介しています。
著者らによると、発酵ソルガム製品を小麦ベースの焼き菓子に取り入れた研究は、これまでありませんでした。そこで研究チームは、クレイジャの小麦粉の一部を、フル・ムルのフレークを粉にしたもの(以下、フル・ムル粉)に置き換えました。目的は、栄養成分、粉の性質、味や見た目の評価がどう変わるかを調べることです。そのうえで、食べる人の好みを損なわずに栄養面の改善が最も大きくなる配合を探りました。
どのように調べたか
研究チームは、市販のフル・ムルのフレークを粉砕してふるいにかけ、粒の大きさをそろえた粉を用意しました。クレイジャの生地には全粒粉と白い小麦粉を半分ずつ使い、そのうち白い小麦粉の一部をフル・ムル粉に置き換えました。置き換えた割合は重量比で2、4、6、8、10、12%の6段階です。これに置き換えなしの対照を加え、7種類のクレイジャを作りました。
フル・ムル粉は水を吸いやすいため、加える水の量は配合ごとに調整しました。生地のかたさをそろえるためで、水は対照の5リットルから、12%配合では6.14リットルまで増えています。その他の材料と作り方はすべて同じにしました。
焼き上がったクレイジャについては、たんぱく質、脂質、灰分(ミネラル分の総量の目安)、食物繊維、炭水化物、エネルギー量を測りました。あわせて、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛などのミネラル量も測定しています。さらに、植物に含まれるフェノール類、フラボノイド、カロテノイドの量を調べました。試験管内でのDPPHラジカル消去活性も測っています。DPPHラジカル消去活性は、抗酸化力を化学的に評価する指標の一つです。
味や見た目の評価では、どの試料か分からないよう番号を付け、順番を入れ替えて出しました。評価者は外観、色、食感、味、香り、総合的な好ましさを採点しました。採点には、「非常に嫌い」の1点から「非常に好き」の9点までの9段階を用いています。
主な結果
フル・ムル粉そのものは、白い小麦粉より水や油を吸収する力が大きいという結果でした。小麦粉と混ぜた粉でも、配合割合が増えるにつれてこれらの値は少しずつ上がりました。
焼き上がったクレイジャでは、フル・ムル粉を増やすほど、たんぱく質、灰分、食物繊維が増えました。乾燥重量あたりで比べた12%配合の値は次のとおりです。たんぱく質は対照の14.70%から15.60%に、灰分は2.74%から3.29%に、食物繊維は6.12%から7.69%に上がっています。一方、水分と脂質には、配合による有意な差は見られませんでした。計算上のエネルギー量は、100グラムあたり463.60キロカロリーから459.14キロカロリーへとわずかに下がりました。
ミネラルも、測定したすべての種類で配合割合とともに増えました。12%配合では、多くのミネラルが対照のおよそ1.2倍になっています。
抗酸化に関わる成分の伸びは、さらに大きいものでした。12%配合のクレイジャを対照と比べると、フェノール類が2.42倍、フラボノイドが2.33倍、カロテノイドが1.50倍でした。DPPHラジカル消去活性も1.54倍です。研究チームはこれを、配合量に応じて抗酸化力が高まった結果としています。
味や見た目の評価では、総合的な好ましさの平均点が8%配合で8.37、10%配合で8.45、12%配合で8.49でした。いずれも9点満点の中で高い点数です。著者らはこれらの点数を、消費者に強く好まれたことを示すものと述べています。そのうえで、栄養面を高めながら官能的な受け入れやすさも保てたと結論づけています。
研究が示すこと
この研究は、異なる地域の伝統食品を組み合わせて、慣れ親しんだ菓子の形のまま成分を変えようとした試みです。小麦粉の一部をスーダンの発酵ソルガム食品に置き換えた結果、今回調べた12%までの範囲で次のことが報告されました。たんぱく質、食物繊維、ミネラル、抗酸化に関わる成分の測定値が上がりました。また、8〜12%配合では、好ましさの点数が高い値となりました。著者らは、この成果を文化の垣根を越えた食品づくりの一つのモデルとして位置づけています。
著者:Rehab F. M. Ali(Department of Food Science and Human Nutrition, College of Agriculture and Food, Qassim University, Buraydah 51452, Saudi Arabia)、Ayman M. El-Anany(Special Food and Nutrition Department, Food Technology Research Institute, Agricultural Research Center, Giza 12619, Egypt)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rehab F. M. Ali, Ayman M. El-Anany. Enhancing the Nutritional Value and Sensory Quality of Traditional Saudi Kleija Through Partial Substitution of Wheat Flour with African Hulu-Mur Flakes Powder. Foods 2026-10-01. DOI: 10.3390/foods15193535. 原著ライセンス:CC BY.