著者の所属・活動拠点の国は、ガーナです。
掲載誌:Food Science & Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
伝統酒ピトへの応用を見すえた研究の目的
ピトは、ソルガム(モロコシ)を発酵させてつくるアルコール飲料で、西アフリカ、とくにガーナで文化的にも経済的にも重要な存在です。著者らは、薬用キノコとして知られるマンネンタケ属(ガノデルマ属)の菌糸体をピトづくりに取り入れる可能性に注目しました。対象は、近年ガーナで確認された Ganoderma resinaceum と Ganoderma enigmaticum の2種です。
マンネンタケ属のほかの種では、温度や光が菌糸の育ち方に影響することが知られています。一方、この2種がどのような条件でよく育つのかは、ほとんど分かっていませんでした。そこで研究チームは、将来のピト生産への適性を見きわめる基礎知識を得るため、温度、光、植え付ける菌の量が、麦芽にしたソルガム上での菌糸の成長にどう影響するかを調べました。
条件を組み合わせて育て、成分も分析
研究チームは、ガーナ産の赤いソルガムを発芽させ、乾燥させて麦芽にしました。これを加熱殺菌し、2種の菌を植え付けて実験室で育てました。条件は、温度が25℃・30℃・35℃の3通り、光が完全な暗闇と「12時間明るく12時間暗い」周期の2通り、植え付ける菌の量(接種量)が2%・4%・6%・8%の4通りです。これらをすべて組み合わせて比較しました。
菌糸の伸びは14日間、2日ごとに定規で測りました。14日目には菌糸体を回収して乾燥させ、その量を記録しました。さらに、菌糸体量が一定以上になった試料については、水分・脂肪・たんぱく質・食物繊維などの基本成分、抗酸化活性、ミネラルを分析しました。抗酸化活性は、不安定な分子(ラジカル)を消す力を化学的に調べる方法で測っています。ラジカルの半分を消すのに必要な濃度(EC50)が低いほど、活性が強いことを示します。
30℃・暗闇・多めの接種量でよく育った
両種とも、成長がゆっくりな初期、急速に伸びる時期、伸びが止まる時期という3つの段階を示しました。もっとも早く成長したのは、30℃、暗闇、接種量8%で育てた試料です。2種とも6日目までに、この実験での最大の長さである8.7ミリに達しました。25℃でも少し遅れながら十分に成長しました。一方、35℃では成長が明らかに遅く、最終的な長さも短めでした。著者らは、高温によるストレスの可能性を指摘しています。なお、いくつかの試料が8.7ミリのまま数日間とどまったのは、菌糸が容器の底に届いたためと考えられるとしています。
菌糸体量も、30℃・暗闇・接種量8%の条件で最大でした。論文の表示では G. enigmaticum が53.00%、G. resinaceum が49.00%です。暗闇で育てた方が、明暗周期の下より菌糸体量は有意に多くなりました。また、接種量が多いほど菌糸体量が増える傾向も見られました。長さが上限に達した後も菌糸体量には条件による差が残っており、著者らは菌糸の密度が収量を左右すると考察しています。
2種で異なる成分の特徴
成分にも種による違いが見られました。G. enigmaticum は食物繊維、脂肪、炭水化物が多く、リンの含有量も最も高い値(1キログラムあたり941ミリグラム)を示しました。G. resinaceum は水分が多く、カリウムも多めでした。たんぱく質の量には、統計的に意味のある差はありませんでした。
抗酸化活性が最も強かったのは、30℃・暗闇・接種量8%で育てた G. resinaceum で、EC50は6.7mg/mLでした。最も弱かったのは、30℃・暗闇・接種量2%の G. enigmaticum で、13.6mg/mLでした。カルシウムと硫黄は、30℃・接種量8%の条件で最も多くなりました。
著者らは、温度・光・接種量が2種の菌糸の成長や菌糸体量、成分に大きく影響し、キノコの機能的な性質には遺伝的な要因と環境要因の両方が関わると結論づけています。今回の研究は、実際にピトを醸造して確かめたものではありません。その前段階として、伝統的な原料であるソルガム麦芽の上でこれらのキノコを育てる条件と、得られる菌糸体の性質を調べた基礎研究といえます。
原著論文の著者・所属:Florence Adwoa Ayirezang(Science Laboratory Technology Department Accra Technical University Ghana)、William Otoo Ellis(Food Science and Technology Department Kwame Nkrumah University of Science and Technology Kumasi Ghana)、Ibok Nsa Oduro(Food Science and Technology Department Kwame Nkrumah University of Science and Technology Kumasi Ghana)、Matilda Dzomeku(CSIR‐Food Research Institute Accra Ghana)、Gideon Adotey(Science Laboratory Technology Department Accra Technical University Ghana)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Florence Adwoa Ayirezang, William Otoo Ellis, Ibok Nsa Oduro, et al. Environmental Drivers of Ganoderma resinaceum and Ganoderma enigmaticum Mycelial Growth on Malted Sorghum and Associated Changes in Antioxidant Activity and Mineral Composition: Implications for Pito Bio‐Enrichment. Food Science & Nutrition 2026-08-01. DOI: 10.1002/fsn3.72276. 原著ライセンス:CC BY.