この研究は、ドイツ、ガーナの研究機関の研究論文です。

掲載誌:International Journal of Infectious Diseases

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

マラリアは今も多くの国で重い公衆衛生上の課題で、患者の大半はサハラ以南のアフリカに集中しています。妊娠中のマラリアは、母親の貧血や低出生体重、胎児の発育遅延などにつながることが知られています。一方でこの地域では、糖尿病や心臓・血管の病気といった生活習慣に関わる病気(非感染性疾患)も増えています。感染症と非感染性疾患が同時に広がるこの状況から、両者のつながりに関心が寄せられています。

研究チームは以前、ガーナ農村部で、出産時に母親がマラリアに感染していた子どもは、そうでない子どもに比べて15歳前後の空腹時血糖値が平均0.20 mmol/L高かったと報告していました。空腹時血糖値とは、一晩食事をとらずに測る血液中のブドウ糖の濃度で、糖の代謝の状態を示す指標の一つです。

胎児期や乳幼児期の栄養不足などが、成長後の病気のなりやすさに影響するという考え方があります。研究チームは、妊娠中のマラリアが胎盤を通じた栄養の受け渡しを妨げ、その影響が子どもの食欲や食べ物の好みに及ぶ可能性に着目しました。著者らによれば、胎内でのマラリア曝露が後の食欲や食べ物の好みに与える影響を調べた研究はこれまでなかったといいます。そこで本研究では、思春期の食欲や食事の傾向が、胎内でのマラリア曝露と血糖値の関係をどの程度説明するのかを調べました。

どのように調べたか

調査はガーナのアシャンティ州アゴゴの病院で行われました。2000〜2001年に妊婦839人が登録され、出産時の母親の血液を顕微鏡検査と遺伝子検査(PCR)で調べて、マラリア感染の有無を記録しています。症状のない感染も含まれます。

2015年には、当時生まれた子どもたちが15歳前後になった時点で追跡調査が行われました。転居や所在不明などで多くの親子が追跡できず、必要な情報がそろった155人が分析の対象となりました。

追跡調査では、地域の食文化に合わせた質問票で63種類の食品群をどれくらい食べているかを尋ね、5項目の質問票で過去6か月のふだんの食欲を点数化しました。食欲の点数は5〜25点で、18点以上を「食欲が強い」と定めています。あわせて空腹時血糖値、体格指数(BMI)、血圧も測りました。

食事の記録からは、統計的な手法を使い、一緒に食べられやすい食品の組み合わせを「食事パターン」としてまとめました。そのうえで、マラリア曝露が食欲や食事パターンとどう関係するか、それらが血糖値などとどう関係するか、さらに食事パターンを考慮すると曝露と血糖値の関係がどの程度弱まるかを、母親の学歴や職業、家族の人数などの影響を調整しながら分析しました(媒介分析と呼ばれる方法です)。

主な結果

対象者の45%が胎内でマラリアに曝露しており、72%が「食欲が強い」に当てはまりました。血糖値が糖尿病の目安とされる7.0 mmol/Lを超えた人はいませんでした。

食事パターンとしては、加工食品中心、野菜中心、根菜・イモ類中心、スープとフフ(キャッサバやプランテンをついて作る主食)中心の四つが見いだされました。根菜・イモ類中心のパターンは、ココヤム、プランテン、キャッサバ、ヤム、フフ、発酵トウモロコシ食品のケンケイ、パーム油などを多く食べる傾向を表します。

胎内でマラリアに曝露した子どもは、曝露していない子どもに比べて「食欲が強い」に当てはまる人の割合が高く(80.0%対64.7%)、両群のオッズ比は2.18と報告されました。オッズ比は「当てはまる人と当てはまらない人の比」を二つの群で比べた指標で、割合そのものの比とは異なります。この関連は、社会経済的な要因や出産に関わる要因を調整した後も残っていました。また、曝露した子どもは根菜・イモ類中心のパターンへの当てはまりの強さを示す点数が平均で約2.2点高くなっていました。ほかの三つの食事パターンとは関連がみられませんでした。

根菜・イモ類中心のパターンは、点数が1点高いごとに空腹時血糖値が0.02 mmol/L高い傾向を示しましたが、統計的にはっきりした差とまでは言えない水準でした。このパターンを分析に加えると、マラリア曝露と血糖値の差は0.20 mmol/Lから0.08 mmol/Lに縮まり、研究チームはこの関係の60%がこの食事パターンを通じて説明されると算出しました。

この研究が示すこと

著者らは、胎内でのマラリア曝露が思春期の食欲を高め、炭水化物の多い食事を好む傾向を促す可能性があり、それが思春期の糖の代謝の変化に関わっているかもしれないと結論づけています。マラリアのような感染症と、後年の生活習慣病のリスクとを、「食べ方」という身近な行動がつないでいる可能性を示した点に、この研究の意味があります。

ただし著者ら自身、結果の解釈には慎重さが必要だとしています。当初の参加者の多くを追跡できなかったため対象者の偏りが否定できないこと、対象者数が少ないこと、測定していない要因の影響を排除できないこと、空腹時血糖値だけでは糖尿病の診断の代わりにならないことなどを限界として挙げ、この仮説は独立した、より大規模な出生コホート研究で確かめる必要があると述べています。

著者:Mahir Bhatt(Transdisciplinary Research Area "Technology and Innovation for Sustainable Futures" and Center for Development Research (ZEF), University of Bonn, Bonn, Germany. Electronic address: [email protected])、Alice Rodriguez Rein(Transdisciplinary Research Area "Technology and Innovation for Sustainable Futures" and Center for Development Research (ZEF), University of Bonn, Bonn, Germany)、Justice K. Boakye-Appiah(Komfo Anokye Teaching Hospital, Kwame Nkrumah University of Science and Technology (KNUST), Kumasi, Ghana)、Inusah Abdul-Jalil(Komfo Anokye Teaching Hospital, Kwame Nkrumah University of Science and Technology (KNUST), Kumasi, Ghana)、Markus van der Giet(Medical Center for Nephrology, Charité-Universitaetsmedizin Berlin, Berlin, Germany)、Yaw Ampem Amoako(Komfo Anokye Teaching Hospital, Kwame Nkrumah University of Science and Technology (KNUST), Kumasi, Ghana)、Frank P. Mockenhaupt(Institute of International Health, Charité Centre for Global Health; Charité-Universitaetsmedizin Berlin, Berlin, Germany)、Ina Danquah(Transdisciplinary Research Area "Technology and Innovation for Sustainable Futures" and Center for Development Research (ZEF), University of Bonn, Bonn, Germany; Heidelberg Institute of Global Health (HIGH), Medical Faculty and University Hospital Heidelberg, Heidelberg University, Heidelberg, Germany; Department Molecular Epidemiology, German Institute of Human Nutrition Potsdam-Rehbruecke (DIfE), Nuthetal, Germany)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mahir Bhatt, Alice Rodriguez Rein, Justice K. Boakye-Appiah, et al. The importance of dietary patterns and appetite for the association between in utero exposure to malaria and fasting plasma glucose among adolescents in rural Ghana. International Journal of Infectious Diseases 2026-09-22. DOI: 10.1016/j.ijid.2026.109124. 原著ライセンス:CC BY.