著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:脂質を多く含む粉への超音波処理を比較する

タイガーナッツ(学名 Cyperus esculentus)は、ナッツという名前ですが、地中にできる塊茎を食用にする作物です。論文によると、デンプンを40〜50%、タンパク質を6〜12%、不飽和脂肪酸を15〜25%ほど含み、近年は植物由来の食品素材として関心を集めています。一方で、その粉は水に溶けにくい、乳化(油と水を混ざった状態に保つこと)が安定しにくい、加熱したときの糊の粘りが強すぎる、といった性質のため、使い道が限られているといいます。

こうした性質を、薬品を使わない物理的な方法で改善する手段として、超音波処理が注目されています。超音波を液体に当てると微小な気泡が生じてはじける「キャビテーション」が起こり、その衝撃やせん断力で成分の構造が変わります。ただし、これまでの研究は主にデンプンやタンパク質を単独で取り出した系を対象としていました。タイガーナッツ粉は脂質を多く含むため、超音波を当てたときに脂質がデンプンやタンパク質とどう関わるのかは十分に分かっていませんでした。

研究チームは、粉にもともと含まれる脂質が超音波処理による変化にどう関係するのかを調べるため、脂質を含むそのままの粉と、脂質を取り除いた粉を比べました。

何を調べたか

著者らは、殻を除いたタイガーナッツを粉砕した全粒粉(脂質含量は乾燥重量あたり約15.6%)と、そこからヘキサンで脂質を抽出した脱脂粉(残った脂質は約0.82%)を用意しました。両者の粒の大きさの分布には有意な差がなかったと報告されています。

それぞれの粉を水に分散させ、周波数20キロヘルツの棒状の超音波装置で、設定出力0(未処理)、300、600、900ワットの4条件で10分間処理しました。処理中は氷水で冷やし、温度は最高でも約28℃に保たれていました。

処理後の粉について、加熱したときの粘りの出方(糊化特性)、糊を冷やしてできるゲルの弾力、加熱時の熱の出入り、X線回折による結晶構造、粉から抽出したタンパク質の分子量分布と蛍光、そして抽出したタンパク質の乳化のしやすさと安定性などを測定しました。

主な結果:粉の種類と性質によって反応が異なった

研究チームは、超音波への反応が粉の種類と測る性質の両方によって異なったと報告しています。粘りの最大値(ピーク粘度)は、全粒粉では未処理の493 cPから300ワットで673 cPに上がり、それより高い出力では下がりました。脱脂粉では、未処理の768 cPから300ワットで1104 cPに上がったあと、600ワットで930 cPに下がり、900ワットで1034 cPへと再び上がりました。どの出力でも、全粒粉の粘りは脱脂粉より低い値でした。

糊から作ったゲルの弾力の指標(貯蔵弾性率)は、全粒粉では600ワットで最も高く、未処理の約152パスカルに対して約289パスカルでした。ただし、900ワットの値はばらつきが大きく、処理条件間の差は慎重に解釈すべきだとされています。脱脂粉のゲルでは変化が比較的小さく、出力に沿った一方向の変化も見られませんでした。

X線回折では、超音波処理によってどちらの粉でもデンプン本来の結晶の並びが弱まりました。さらに、超音波処理した全粒粉では2θ≈20°付近に幅の広い回折の山が現れました。著者らは、これがデンプンの成分アミロースと脂質が結びついた「V型複合体」と呼ばれる構造の存在と矛盾しないものの、それを確証するものではないと述べています。

加熱時の熱の出入りの測定では、高い温度域で熱を吸収する変化が観察されましたが、デンプン、タンパク質、水の移動などの影響が重なりうるため、何に由来するかは特定できなかったとされています。抽出したタンパク質の主な成分の分子量分布には、目に見える変化はありませんでした。抽出したタンパク質の乳化のしやすさと乳化の安定性は、600ワットまでは高まり、900ワットでは低下しました。

この研究が示すこと

著者らは、これらの結果から、タイガーナッツ粉にもともと含まれる脂質が、超音波処理に対する粉の異なる反応と関連していると結論づけています。脂質を含む粉と除いた粉とで、同じ処理でも粘りやゲルの性質の変わり方が違うことが示されました。

一方で論文は、アミロースと脂質の複合体ができたこと、デンプンとタンパク質が結びついたこと、脂質がタンパク質を保護するような特定の仕組みがあることは、今回の証拠からは直接示されていないと明記しています。超音波処理でどのような変化が起きるかを考えるとき、粉に含まれる脂質の存在を考慮に入れる必要があることを示した比較研究といえます。

原著論文の著者・所属:Jing Zhu(School of Food Science and Technology, Shenyang Normal University, Shenyang 110031, China)、Wenhao Hu(School of Food Science and Technology, Shenyang Normal University, Shenyang 110031, China)、Xiaolong Shen(School of Food Science and Technology, Shenyang Normal University, Shenyang 110031, China)、Wenrong Meng(School of Food Science and Technology, Shenyang Normal University, Shenyang 110031, China)、Tiancheng Sheng(School of Food Science and Technology, Shenyang Normal University, Shenyang 110031, China)、Caihong Xu(School of Food Science and Technology, Shenyang Normal University, Shenyang 110031, China)、Fei Lu(School of Food Science and Technology, Shenyang Normal University, Shenyang 110031, China)、Longkun Wu(School of Food Science and Technology, Shenyang Normal University, Shenyang 110031, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jing Zhu, Wenhao Hu, Xiaolong Shen, et al. Ultrasound-Induced Changes in the Physicochemical and Functional Properties of Whole and Defatted Tiger Nut Flours: Association with Endogenous Lipid Content. Foods 2026-09-25. DOI: 10.3390/foods15193437. 原著ライセンス:CC BY.