日本関連:この研究は海外機関を中心とする国際共同研究で、日本の研究機関に所属する共著者が参加しています。
掲載誌:Food Safety and Health
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ魚の保存が課題なのか
魚や水産加工品は、良質なたんぱく質、必須アミノ酸、ビタミン、ミネラル、そしてDHAやEPAといったオメガ3系の長鎖多価不飽和脂肪酸を豊富に含む、人にとって栄養価の高い食品です。論文では、魚が世界のたんぱく質需要のおよそ20%をまかなっていると述べられています。
その一方で、著者らは魚の最大の弱点として「傷みやすさ」を挙げています。水分が多く、栄養に富み、酸化しやすい多価不飽和脂肪酸を含むため、漁獲後の取り扱いや加工、保管の過程で微生物による腐敗と化学的な劣化が急速に進みます。脂質の酸化は、過酸化物やアルデヒド・ケトンといった二次生成物を生み、不快なにおいや食感・栄養の低下、消費者の受け入れにくさにつながると説明されています。論文が引用する報告では、2021年に食用水産物の損失・廃棄はおよそ2380万トン、同年の水産物生産量の14.8%に相当したとされています。
冷蔵、冷凍、真空包装などの保存技術は保存期間を延ばしますが、著者らはこれらが一時的な保護にとどまると位置づけています。BHT、BHA、TBHQといった合成酸化防止剤も広く使われてきたものの、毒性や発がん性などの懸念が指摘され、消費者は自然で環境にやさしい保存方法を求めるようになっている、というのが本総説の出発点です。
何を調べ、どう整理したか
この論文は新しい実験を行ったものではなく、既存の研究成果を集めて整理した総説(レビュー)です。著者らは、査読付きの学術論文、書籍や書籍の章、国際機関の報告書といった二次情報のみを用い、Google Scholar、ScienceDirect、SpringerLink、Wiley Online Library、MDPI、PubMedなどの学術データベースから関連文献を収集したと記しています。集めた文献は関連性と科学的な質の観点から検討され、体系的に整理されました。
注目したのは、光合成を行う海の大型藻類、つまり海藻に含まれる生理活性成分です。海藻にはフェノール類、褐藻だけに存在する特殊なポリフェノールであるフロロタンニン、カラギーナンやフコイダンといった硫酸化多糖、カロテノイドなどの色素、そして必須ミネラルが含まれます。著者らは、これらが抗酸化作用(酸化の連鎖を止めるはたらき)と抗菌作用を示すことに着目し、魚介類の保存にどう使えるかをまとめました。
報告されている主な結果
まず、海藻そのものの成分量について。引用された測定では、総フェノール量は最も低いものでGracilaria parvisporaのメタノール抽出物が50.33 mg GAE/g、最も高いものでBotryocladia wrightiiのアセトン抽出物が71.09 mg GAE/gでした。フラボノイド量は36.44から75.61 mg QE/gの範囲にありました。著者らは、こうしたばらつきが抽出方法の違い、海藻の産地、環境要因、種の多様性と関係しうると説明しています。
抗酸化能の指標としては、50%の遊離ラジカルを消去するのに必要な濃度であるIC50がよく使われます。値が低いほど少量で効くことを意味します。論文が紹介する例では、Sargassum ilicifoliumがDPPH法でIC50 51.25 ppmを示し、IC50が100 ppm未満であれば強い抗酸化物質とみなされると述べられています。
実際の水産物への応用例も複数集められています。Padina tetrastromatica抽出物で処理したパンガシウスの切り身は、冷蔵中に未処理のものより遊離脂肪酸(FFA)、TVB-N、TBARSの値が低く保たれました。TVB-Nは微生物がたんぱく質を分解して生じる揮発性の塩基性窒素化合物の量で鮮度の指標に、TBARSは脂質酸化の程度を示す指標に使われます。同じ海藻の抽出物(1〜1.5%)に浸したティラピアでは、対照と比べて保存期間が6日以上延びたと報告されています。
別の例では、Padina pavonica抽出物で処理したスズキの切り身のTVB-Nが保存18日目で20.20 mg/100 gだったのに対し、対照は12日目で39.45 mg/100 gと限界値を超えていました。キトサンとフコイダンを加えた試験では、魚の切り身の保存期間が6日から16日に延びたとされています。エビ(Litopenaeus vannamei)では、Porphyra yezoensisのポリフェノールと多糖により、冷蔵下で保存期間が3〜4日延びたと紹介されています。
著者らは、色や風味の保持についても触れています。Sargassum抽出物で処理した切り身は、対照より官能評価の各項目の低下が緩やかで、切り身についた色は官能的な品質に悪影響を与えなかったと報告されています。こうした結果を踏まえ、著者らは海藻の保存効果は単一の成分によるものではなく、多様な植物化学成分の組み合わせによる、抗酸化と抗菌の複合的なはたらきだとまとめています。
この総説が示すこと
著者らは結論として、海藻は持続可能な天然の酸化防止剤・抗菌剤を提供し、水産物の保存期間、機能性、栄養的な品質を高めうると述べています。海藻由来の成分は、魚の原材料や製品のコーティング、フィルム、包装材として使えるほか、食物繊維やビタミン、ヨウ素・カルシウム・マグネシウム・鉄といったミネラルを加えるという栄養面の利点もあわせ持つと整理されています。
同時にこの論文は、実用化にあたっての制約や規制対応上の課題を指摘する立場も取っています。傷みやすさゆえに大量に失われている水産資源をどう守るか、そして合成保存料への懸念にどう応えるか——この二つの問いに対して、海の藻類がひとつの手がかりを与えうることを、既存研究の集積から示したのが本総説の意義だといえます。
著者:Ashika Banu Rodela(Department of Fisheries Technology Gazipur Agricultural University Gazipur Bangladesh)、Md. Golam Rasul(Department of Fisheries Technology Gazipur Agricultural University Gazipur Bangladesh)、Ilias Ebne Kabir(Department of Fisheries Technology Gazipur Agricultural University Gazipur Bangladesh)、Jahid Hasan(Department of Aquatic Environment and Resource Management Sher‐e‐Bangla Agricultural University Dhaka Bangladesh)、Chunhong Yuan(Department of Food Production and Environmental Management Faculty of Agriculture Iwate University Morioka Japan)、Bhaskar Chandra Majumdar(Department of Fisheries Technology and Quality Control Khulna Agricultural University Khulna Bangladesh)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ashika Banu Rodela, Md. Golam Rasul, Ilias Ebne Kabir, et al. Potential of Seaweed to Improve the Quality and Shelf Life of Fish and Fishery Products. Food Safety and Health 2026-09-09. DOI: 10.1002/fsh3.70120. 原著ライセンス:CC BY.