著者の所属・活動拠点の国は、トルコです。

掲載誌:Pamukkale University Journal of Social Sciences Institute

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:伝統食堂の厨房の内側を記録する

トルコには「エスナフ・ロカンタス」と呼ばれる食堂があります。直訳すると「商店主・職人の食堂」で、職人や労働者が多い地域や路地裏で、家庭料理の味をお手頃な価格で提供する小規模な店です。常連客と名前で呼び合うほど近い関係を築き、その日に食べられる分だけを作るのが特徴とされ、トルコ料理の食文化を受け継ぐ場としても位置づけられています。一方で、インフレや仕入れコストの上昇、人手不足などにより、閉店に追い込まれる店も少なくないと論文は紹介しています。

これまでの研究は、客の満足度や料理の文化的価値、本物らしさといったテーマが中心でした。著者らは、こうした食堂の厨房内の運営、廃棄物の扱い方、持続可能性に関わる取り組みをまとめて検討した研究は限られていると指摘しています。そこで研究チームは、メニューの組み立て、食品安全、廃棄物管理の三つを軸に、エスナフ・ロカンタスの運営実態を詳しく調べ、経営者の視点から店の将来と直面する課題を明らかにすることを目指しました。

調べ方:10軒の経営者への聞き取り

研究チームは、トルコ南部のメルスィン県で営業する10軒のエスナフ・ロカンタスを対象に、店主や管理者への半構造化インタビューを行いました。半構造化インタビューとは、あらかじめ用意した質問を軸にしつつ、相手の答えに応じて自由に話を掘り下げる聞き取りの方法です。得られた回答を内容ごとに分類・整理し、「メニュー作り」「商品開発と郷土料理」「持続可能性」などのテーマ別に分析しました。数値で効果を測る研究ではなく、現場の語りから実践の姿を描き出す質的研究です。

主な結果:柔軟なメニュー、厨房内での食材の再活用、動物への提供

メニューの内容は主に店主と料理人が決めており、その際に客の要望や旬が考慮されていました。メニューは日替わりで変わる店が多く、一定の周期で料理が繰り返されます。ある店では「子羊のすね肉は木曜日、白インゲン豆の煮込みは火曜日」のように料理を出す曜日が決まっており、著者らは、こうした仕組みが客の習慣や期待、店への愛着を生む戦略になっていると解釈しています。雨の日には煮込み、暑い日には脂の少ない料理といった天候に応じた変更も語られました。伝統料理が中心で、各店は看板料理によって他店との違いを出そうとしていました。

新しい料理は研究開発部門のような仕組みではなく、試行錯誤で作られ、店のスタッフや常連客に味見をしてもらい、その反応を確かめて定着させるという実践的なやり方でした。レシピの多くは家族や師匠から受け継がれ、伝統的な作り方をできる限り守ろうとする姿勢が見られました。食材が手に入らない場合などには小さな調整をしますが、著者らはこれを文化を崩すものではなく、本来の姿をおおむね保ちながら今の条件に合わせて伝統を生かし続けるための適応だと捉えています。

持続可能性の面では、調理の過程で出る食材の余りが、ピラフやだし(肉のスープストック)、スープなどに厨房内で再利用されていることが分かりました。一方、客が食べ残した料理は、食品安全上の理由から人の食用には回されず、主に動物保護施設や路上の動物向けに活用されていました。それができない場合は、法令に沿って処分されていました。

食品安全に関しては、決まった仕入れ先と取引を続けることや、食品の種類ごとに調理器具を分けて使うことが目立った取り組みとして挙がりました。味を一定に保つために同じ食材を使い続けたり、手書きや文書のレシピで技術を次の世代や従業員に伝えたりする店がある一方、長年の経験に基づく「目分量」で作る伝統的なやり方も続いていました。また経営者たちは、経済的な圧迫の強まりと、技能を持つ働き手の不足が、こうした食堂の長期的な存続を脅かす大きな要因だと強調していました。

この研究が伝えること

著者らは、エスナフ・ロカンタスで行われている計画的な調理、余った料理の活用、仕入れの工夫などの中に、明確に「持続可能性」と名づけられてはいないものの、それに通じる考え方が根づいていることを示しました。廃棄物を減らし資源を無駄なく使う取り組みや食品安全への配慮は、単なる業務上の必要だけでなく、社会的・倫理的な責任感のもとで行われていると論文は述べています。

ただし、この研究はメルスィン県の限られた数の店を対象とした質的研究で、話を聞いた相手も店主や料理人に限られており、著者ら自身も結果をそのまま一般化するには限界があるとしています。それでも、親しみやすい大衆食堂の日々の営みが、食文化の継承と資源の有効活用の両方に関わっていること、そしてその存続が経済状況や人材の確保に左右されていることを、現場の声から具体的に伝える研究となっています。

原著論文の著者・所属:Serpil Yalım Kaya(MERSİN ÜNİVERSİTESİ, TURİZM FAKÜLTESİ)、Nuri Anıl Mazlum(MERSİN ÜNİVERSİTESİ, SOSYAL BİLİMLER ENSTİTÜSÜ)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Serpil Yalım Kaya, Nuri Anıl Mazlum. GELENEKSEL ESNAF LOKANTALARINDA SÜRDÜRÜLEBİLİRLİK: MENÜ, GIDA GÜVENLİĞİ VE ATIK YÖNETİMİ. Pamukkale University Journal of Social Sciences Institute 2026-09-10. DOI: 10.30794/pausbed.1794972. 原著ライセンス:CC BY.