この研究は、ドイツの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
高齢になると、食欲や味覚・嗅覚の変化、消化機能の変化、日光を浴びる機会の減少による皮膚でのビタミンD合成の変化などから、栄養の摂り方や体内での利用が変わる可能性があります。ドイツでは、介護施設の入所者や入院中の高齢者の栄養不足については多くのデータがあります。一方、自宅で自立して暮らす比較的健康な高齢者を対象にした研究は多くありませんでした。
そこで研究チームは、ベルリンで行われている加齢研究「BASE-II」の参加者を対象に、自宅で暮らすおおむね健康な高齢者の栄養摂取を若い世代の参加者と比べました。高齢者のほうが栄養不足のリスクを抱えやすいのかを確かめることが目的です。あわせて、サプリメントの利用状況を、EUの法律上の区分(医薬品、特別用途の医療用食品、食品としてのサプリメントなど)に沿って整理しました。
どのように調べたか
分析の対象は2171人です。約75%が60〜84歳の高齢者、約25%が22〜36歳の若い参加者でした。参加者は、過去12カ月の普段の食事について、148の食品項目を含む質問票に回答しました。この質問票は検証済みのもので、食品をどのくらいの頻度で食べるかを尋ねる形式です。栄養素の量は、ドイツの食品成分データベースを用いて算出されました。ここで扱った摂取量は食事だけによるもので、サプリメントの分は含まれていません。
摂取量は、ドイツ栄養学会の推奨値と比べて評価しました。さらに、栄養素ごとに定められた「平均必要量」を下回る人の割合を求めました。平均必要量とは、集団の半数の人の必要量を満たす水準のことです。これを下回る人の割合から、集団のうちどれだけが不足のリスクを抱えているかを推定できます。ただし、この方法で個人ごとのリスクは判定できません。過剰摂取の目安として、健康への悪影響が生じにくいとされる「耐容上限量」との比較も行いました。
著者らは、研究の限界も挙げています。この研究は一時点の調査であり、年齢と食事の因果関係は示せません。二つの年齢群は条件をそろえて選ばれたものではなく、参加者はベルリン在住者に限られるため、ドイツ全体を代表するものでもありません。また、自己申告による食事調査では摂取量が少なめに報告されることがあり、その場合は不足の割合が実際より高く見積もられた可能性があります。
主な結果
食事全体の構成は、どちらの年齢群にも好ましくない傾向が見られました。脂質はほぼ全員が推奨を超え、推奨値に対する達成度の中央値は両群とも約140%でした。飽和脂肪酸もほぼ全員が多すぎる一方、多価不飽和脂肪酸は推奨に届いていませんでした。食物繊維は多くの人が推奨量の1日30グラムに達していませんでした。たんぱく質は推奨値を大きく上回り、特に若い男性の27%は推奨値の2倍を超えていました。魚に多いEPAやDHAといったオメガ3脂肪酸は、高齢者のほうがはっきり多く摂っていました。食塩が1日6グラムを超える人もかなりおり、男性では若い世代で61%、高齢世代で55%でした。飲酒の推奨上限を超えていた人は、高齢者で44%、若い世代で38%でした。
ビタミンやミネラルの多くは、推奨値並みかそれ以上の摂取でした。一方、カリウム、カルシウム、ヨウ素、葉酸、ビタミンDは、両群とも推奨値に届いていませんでした。なお、ヨウ素の値には、ヨウ素添加塩から摂る分が含まれていません。
平均必要量を下回る人の割合は、ミネラルではカルシウムとマグネシウムで高く、若い女性では鉄でも高い割合でした。ビタミンでは、ビタミンB1、B2、B6、葉酸、ビタミンDで高い割合が見られました。ミネラルには年齢群によるはっきりした差はなく、高齢者で不足リスクがやや高い傾向にとどまりました。明確な差が出たのはカルシウムで、高齢者のほうが平均必要量を下回る人の割合が高くなりました。ビタミンでは逆に、すべての種類で若い世代のほうが平均必要量を下回る割合が高く、女性は男性より高い割合でした。ほぼすべてのビタミンで最も割合が高かったのは若い女性でした。食事だけで耐容上限量を超えた人はごく一部に限られました。
ビタミンDについて著者らは、食品から多く摂ることは難しく、体内で作られる分が主な供給源であるため、食事からの摂取量が低いことは予想どおりだったと述べています。
サプリメントの利用と研究が示すこと
サプリメントを利用していた人は、高齢者で47.3%、若い世代で43.0%と、ほぼ半数にのぼりました。どちらの群でも最も多かったのは、食品として扱われるサプリメントでした。高齢者は多くの区分で若い世代より利用率が高かったものの、その差は統計的に有意ではありませんでした。性別と年齢で見ると、利用が最も多かったのは高齢女性、最も少なかったのはおおむね若い男性でした。なお、情報が足りず、どの区分にも分類できなかったサプリメントも少なくありませんでした。
この研究から読み取れるのは、自宅で自立して暮らす比較的健康な高齢者が、食事の面で若い世代より一様に不利だとは限らないということです。ビタミンについては、むしろ若い世代、特に若い女性で不足リスクのある人の割合が高く出ました。その一方で、脂質の多さや食物繊維の不足、カルシウム、ビタミンD、葉酸などの摂取の少なさは、年齢を問わず共通して見られた課題でした。
著者:Katharina Heimberg(Department of Food Safety, Federal Institute for Risk Assessment (BfR), 10589 Berlin, Germany)、Annett Martin(Department Exposure, Federal Institute for Risk Assessment (BfR), 10589 Berlin, Germany)、Anke Ehlers(Department of Food Safety, Federal Institute for Risk Assessment (BfR), 10589 Berlin, Germany)、Karen Ildico Hirsch‐Ernst(Department of Food Safety, Federal Institute for Risk Assessment (BfR), 10589 Berlin, Germany)、Ilja Demuth(BCRT—Berlin Institute of Health Center for Regenerative Therapies, 10117 Berlin, Germany)、Dominik Spira(Department of Endocrinology and Metabolic Diseases, Charité–Universitätsmedizin Berlin, 13353 Berlin, Germany)、Elisabeth Steinhagen‐Thiessen(Department of Endocrinology and Metabolic Diseases, Charité–Universitätsmedizin Berlin, 13353 Berlin, Germany)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Katharina Heimberg, Annett Martin, Anke Ehlers, et al. Dietary Nutrient Adequacy and Supplement Use in German Community-Dwelling Older Adults Compared to a Group of Younger People: Findings from the Berlin Aging Study II (BASE-II). Nutrients 2026-09-20. DOI: 10.3390/nu18183077. 原著ライセンス:CC BY.