著者の所属・活動拠点の国は、スリランカ、中国です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

東アジアで親しまれてきたキノコを改めて見直す

Sarcodon aspratus は、中国、日本、韓国の森林に生える野生の食用キノコです。かさの裏側にひだではなく、下向きのとげ(歯)が並ぶ「ハリタケ型」のキノコの仲間です。東アジアでは風味のよい食材として料理に使われ、民間では消化の助けなどを目的に用いられてきました。

近年、このキノコから多糖類や脂質由来の化合物などが見つかり、実験でさまざまな生理作用が報告されています。ただし、それらの知見は個別の研究に分かれており、全体を見渡せる整理はありませんでした。著者らはこの論文で、既存の研究をもとに成分の特徴、報告されている生物活性、その仕組み、そして未解明の点をまとめています。

報告されている主な成分

栄養面では、ある研究で必須アミノ酸と非必須アミノ酸がバランスよく含まれていたことが報告されています。マグネシウム、鉄、亜鉛、マンガンといったミネラルも検出されています。

著者らが特に詳しく取り上げているのは多糖類です。熱水で抽出し、エタノールで沈殿させて得た水溶性の多糖画分には、分子量がおよそ43万〜67万の大きな分子が含まれていました。これらは、ブドウ糖がβ型の結合でつながった「βグルカン」に分類されます。主鎖はβ-(1→3)結合でつながり、そこにβ-(1→6)結合の枝分かれが付く構造です。論文は、分子の大きさだけで働きが決まるわけではないと述べています。枝分かれの程度、結合の型、純度、水への溶けやすさを合わせて考える必要があるという立場です。

このほか、脂溶性の成分としてエルゴステロールペルオキシドというステロール類が、小さな分子としてL-ピペコリン酸が、さらに新しいセレブロシド類が見つかっています。一方で、脂肪酸やフェノール類(ポリフェノールなど)については、このキノコ自体を直接調べたデータがまだ乏しいとされています。現在の記述は近縁種の分析結果を参考にしたものにとどまります。

実験で示された作用

論文が紹介する主な作用は、試験管内の実験や動物実験で得られたものです。まず、抽出物や多糖類は、試験管内の複数の測定法で、活性酸素などのフリーラジカルを打ち消す抗酸化能を示しました。

免疫に関しては、βグルカンを多く含む多糖画分が、病原体などを取り込んで処理する免疫細胞「マクロファージ」の活性を高めたと報告されています。具体的には、取り込み能力や一酸化窒素の産生が高まりました。炎症に関わる情報伝達経路(NF-κB)や、炎症を促す物質の産生が抑えられたという報告もあります。論文はこうした作用の仕組みとして、免疫細胞表面の受容体(Dectin-1やToll様受容体)がβグルカンを認識するという考え方を示しています。ただし、この経路の多くは他のキノコのβグルカン研究から推定したものです。著者らは、このキノコで一連の経路として実証されたものではなく、「提案段階のモデル」だと明記しています。

がんに関する報告もあります。培養したヒト白血病細胞では、エルゴステロールペルオキシドが細胞の自死(アポトーシス)を誘導しました。また、このキノコから得た多糖が、子宮頸がん由来の細胞でアポトーシスを引き起こしたという報告もあります。L-ピペコリン酸は、血圧の調節に関わる酵素(アンジオテンシン変換酵素)の働きを試験管内で抑えました。

代謝については、高脂肪食を与えたマウスで多糖を投与したところ、耐糖能の改善とインスリン抵抗性の低下が報告されています。腸内細菌の構成の変化や、血中の脂質と肝臓の脂肪蓄積の減少も見られました。ただし、腸内細菌の変化がこれらの効果にどこまで関わっているのかは、まだ確かめられていません。

この整理から見えること

著者らの整理からは、このキノコが食材としての価値に加えて、多様な成分と実験上の生理作用をもつことが分かります。その一方で、根拠のほとんどは試験管内や動物での研究です。人を対象とした臨床試験はなく、安全性や体内での吸収もまだ十分に分かっていません。

著者らはまた、研究ごとに抽出や精製の方法が異なるため、結果を比べにくいことを大きな課題として挙げています。健康への効果を語るには、成分の分析と評価の方法をそろえ、根拠を積み重ねることが前提になる。この論文が示しているのは、その現在地です。

原著論文の著者・所属:Nilakshi Dhanushika(Faculty of Agriculture, University of Peradeniya, Peradeniya 20400, Sri Lanka; Food Science and Technology Program, Department of Life Sciences, Beijing Normal-Hong Kong Baptist University, 2000 Jintong Road, Tangjiawan, Zhuhai 519087, China)、Baojun Xu(Food Science and Technology Program, Department of Life Sciences, Beijing Normal-Hong Kong Baptist University, 2000 Jintong Road, Tangjiawan, Zhuhai 519087, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nilakshi Dhanushika, Baojun Xu. New Insights into the Chemical Profile and Health-Promoting Effects of Mushroom Sarcodon aspratus. Foods 2026-10-28. DOI: 10.3390/foods15213861. 原著ライセンス:CC BY.