この研究は、ブラジル、イタリア、イギリスの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Molecular Nutrition & Food Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
腸内細菌叢は代謝や免疫、神経の働きに関わり、食事の成分を分解してさまざまな物質をつくり出します。発酵食品は、発酵で生じた成分や微生物を通じて腸内細菌叢に働きかける可能性があるとして注目されています。コンブチャは、砂糖を加えた紅茶や緑茶を、酢酸菌・乳酸菌・酵母が共生する培養体(SCOBY)で発酵させた飲料で、ポリフェノールや有機酸などを含みます。
研究チームは、ブラジルの大西洋岸森林に自生する果実であるジャボチカバ、グルミシャマ、ジュサラに着目しました。これらの果実は独特で豊富な植物成分を持つとされます。著者らは、これらの果実で風味づけした緑茶コンブチャについて、消化の過程で成分や微生物がどの程度残るのか、また健康な人の腸内細菌叢の構成や代謝産物にどのような変化をもたらすのかを、試験管内の模擬実験で探索的に調べました。
何をどう調べたか
研究チームは、緑茶に砂糖を加えてSCOBYで7日間発酵させた後、3種の果実のパルプを等量ずつ混ぜて加え、瓶内でさらに発酵させて「風味づけコンブチャ」をつくりました。比較用として、果実を加えない「ナチュラルコンブチャ」、発酵させていない茶、市販のベリー風味コンブチャも用意しました。
まず、風味づけコンブチャを口・胃・小腸の段階を順に再現する模擬消化にかけ、各段階で酵母、酢酸菌、乳酸菌の生菌数を数えました。あわせて、アントシアニン(果実の色素成分)、総ポリフェノール量、抗酸化能を飲料と消化の各段階で測り、消化後にどれだけの成分が溶けた状態で残るかを示す「バイオアクセシビリティ」(消化管で吸収されうる形で放出される割合)を算出しました。
次に、健康な3人の提供者の便を使い、大腸の条件を再現した培養装置で、それぞれの飲料を24時間発酵させました。プラスの対照として食物繊維の一種イヌリン、マイナスの対照として何も加えない条件も設けています。腸内細菌がつくる短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)と、主にたんぱく質の分解に伴って生じる分岐鎖脂肪酸を測定し、細菌の遺伝子解析で菌の種類や多様性の変化を追いました。
主な結果
風味づけコンブチャに含まれる酵母、酢酸菌、乳酸菌は、口と胃の段階ではわずかな減少にとどまり、小腸の段階でより大きく減ったものの、生菌数は1ミリリットルあたり10の4.2乗個を上回って残ったと報告されています。ただし、著者らはこれを菌のグループ単位での生存の目安と位置づけ、どの菌種が残ったかは特定していないこと、腸に定着できるかを示すものではないことを明記しています。
消化後に残った成分の割合は、アントシアニンが39.27%、総ポリフェノール量が20.95%でした。抗酸化能も小腸段階で低下しました。著者らは、消化管のpH変化や酵素の働きによってポリフェノールが分解されたり他の成分と結びついたりすることで、大腸まで届く量が減ると説明しています。
大腸モデルでは、風味づけコンブチャで24時間後に酢酸が大きく増え、酪酸や分岐鎖脂肪酸も増加しました。ナチュラルコンブチャも同様の傾向をより穏やかに示した一方、茶と市販コンブチャではほとんど変化がありませんでした。ただし、結果には便の提供者による大きなばらつきがありました。
細菌の構成をみると、風味づけコンブチャでは実験開始時に比べ、いずれの時点でも細菌の多様性が低下しており、最も速く大きな変化をもたらしたと著者らは述べています。多くの条件で大腸菌などを含む腸内細菌科が時間とともに増えましたが、市販コンブチャでは比較的安定していました。風味づけコンブチャでは、一般に有益とされるビフィズス菌やフィーカリバクテリウムが減少しました。一方、肥満との関連が指摘されるコリンセラも減少しました。コンブチャ由来の菌は腸内細菌の解析では検出されず、著者らは、コンブチャが菌の定着ではなく間接的に細菌叢に影響している可能性を示しています。
この研究が示すこと
著者らは、果実で風味づけしたコンブチャが試験管内の条件では腸内細菌が利用できる発酵材料として働き、短鎖脂肪酸の産生や細菌叢の構成に影響を与えうることを示したとしています。同時に、腸内細菌科の増加や有益とされる菌の減少といった好ましくない変化も見られたことから、腸の健康について結論を出すには慎重であるべきだと強調しています。
この研究は多くの制約を伴う探索的なものです。便の提供者は3人と少なく、生き残った菌の種類は特定されていません。アントシアニンなどの成分測定は風味づけコンブチャについてのみ行われ、比較用の飲料とは比べていません。また、大腸での発酵実験の前に各コンブチャの物理化学的な特性を評価していないため、観察された変化を飲料の特定の性質と結びつけることはできないと著者らは述べています。結果は試験管内モデルに限られ、人の体内での効果にそのまま当てはめることはできない、というのが著者らの立場です。それでも、身近な発酵飲料と未活用の地域果実を組み合わせたとき、消化や腸内細菌との関わりにどのような変化が起こりうるかを具体的に示した点に、この研究の意味があります。
著者:Kawany de Faria Forato(Department of Food Science and Technology State University of Londrina Londrina Brazil)、Vinícius dos Santos Domingues(Department of Food Science and Technology State University of Londrina Londrina Brazil)、Eduardo Lolato(Department of Food Science and Technology State University of Londrina Londrina Brazil)、Silvia Turroni(IRCCS Azienda Ospedaliero‐Universitaria di Bologna Bologna Italy)、Semeh Bejaoui(Unit of Microbiome Science and Biotechnology, Department of Pharmacy and Biotechnology University of Bologna Bologna Italy)、Federica D’Amico(Unit of Microbiome Science and Biotechnology, Department of Pharmacy and Biotechnology University of Bologna Bologna Italy)、Volker Behrends(Centre For Innovation in Genomics and Microbiome Sciences, School of Medicine and Biosciences University of West London London UK)、Solidea Amadei(Department of Agricultural and Food Sciences, Campus of Food Science, Alma Mater Studiorum University of Bologna Cesena Italy)、Asia <1996> Pizzi(Beneficial Microbes Laboratory, Department of Pharmacy and Biotechnology University of Bologna Bologna Italy)、Giselle Nobre Costa(Department of Food Science and Technology State University of Londrina Londrina Brazil)、Adele Costabile(School of Life and Health Sciences University of Roehampton London UK)、Karla Bigetti Guergoletto(Department of Food Science and Technology State University of Londrina Londrina Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kawany de Faria Forato, Vinícius dos Santos Domingues, Eduardo Lolato, et al. In Vitro Gastrointestinal Digestion and Gut Fermentation of Atlantic Forest Fruit‐Flavored Kombucha: Gut Microbiota Dynamics and Bioactive Compound Bioaccessibility. Molecular Nutrition & Food Research 2026-09-30. DOI: 10.1002/mnfr.70620. 原著ライセンス:CC BY.