この研究は、カザフスタンの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Шәкәрім университетінің хабаршысы: Техника ғылымдар
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
馬乳は消化されやすいたんぱく質や生理活性成分、多価不飽和脂肪酸を多く含む栄養価の高い原料として知られています。しかし著者らによれば、その不飽和脂肪酸の多さがかえって弱点にもなります。不飽和な脂質は空気中の酸素と反応しやすく、保存中に酸化が進むと、味やにおいが損なわれ、栄養価も下がってしまうためです。
また馬乳を使った伝統的な発酵乳飲料は生物学的価値が高い一方、賞味期限が5〜15日と短く、遠隔地への輸送や販売が難しいという課題も指摘されています。そこで研究チームは、馬乳を凍結乾燥(フリーズドライ)して粉末にする技術を改良し、さらに天然の抗酸化物質を加えて脂質の酸化を抑えること、そしてその粉末を用いた保存期間の長い発酵乳飲料をつくることを目的としました。
何をどのように調べたか
凍結乾燥とは、凍らせた状態のまま低い圧力のもとで水分を氷から直接水蒸気にして取り除く乾燥法で、強い熱を加えずに済むため、熱に弱い成分を保ちやすいとされます。研究チームは馬乳を殺菌・冷却したのち、マイナス25℃で2時間凍結し、マイナス40℃・残圧60パスカルの条件で15時間かけて一次乾燥を行い、さらに37〜42℃で残った水分を抜いて、水分量が5%以下になるまで仕上げました。できた粉末は真空包装して6か月間保存されました。
酸化を抑えるため、乾燥の前段階で三種類の天然抗酸化物質(ジヒドロケルセチン、α-トコフェロール、γ-トコフェロール)を、乳脂肪の重量に対して0.5%・1.0%・2.0%の濃度で加えた試料を用意し、何も加えない試料を対照としました。ジヒドロケルセチンはタキシフォリンとも呼ばれる植物由来のフラボノイドの一種、トコフェロールはビタミンEの仲間にあたる成分です。保存中の酸化の進み具合は、脂質の酸化でできる初期生成物の量を示す「過酸化物価」と、酸化の途中でできるマロンジアルデヒド(MDA)という物質の量で評価されました。
さらに、生の馬乳と、粉末を水で戻した馬乳の両方を使い、乳酸菌(Lactobacillus rhamnosusとLactobacillus caseiを1対1で含むスターター)で発酵させた飲料を試作しました。発酵の段階でビタミンA、ビタミンE、ジヒドロケルセチンを加え、4±2℃で保存しながら25日目まで、味や見た目などの官能評価と微生物検査を続けています。
主な報告結果
乾燥後の粉末について、著者らは水分2.64%、溶けやすさを示す不溶解度指数0.1立方センチメートルという値を報告し、規格に適合し復元性も良好だったとしています。成分は製品100グラムあたりたんぱく質17.52グラム、脂肪15.4グラム、炭水化物63.05グラムでした。抗生物質や病原微生物、農薬、放射性核種は検出されなかったと報告されています。
抗酸化物質の効果については、抗酸化物質を加えない対照試料の過酸化物価が6か月の保存で1.7から3.9マイクロモル(活性酸素換算、脂肪1キログラムあたり)へ上昇したのに対し、ジヒドロケルセチンを脂肪重量の2.0%加えた試料は2.3、γ-トコフェロールを同じ濃度で加えた試料は2.4にとどまったとされます。α-トコフェロールは同濃度でも2.9と、抑制効果が相対的に弱かったと報告されました。MDAについても、対照試料では6か月で11倍以上に増えたのに対し、ジヒドロケルセチンを2.0%加えた場合は大きく低い値になったとしています。なお著者らは、α-トコフェロールはビタミンとしての働きは最も強い一方で抗酸化作用は最も弱く、脂肪濃度が高い条件では抗酸化作用が逆に酸化を促す方向へ転じうる点にも触れています。
発酵乳飲料については、5点満点の官能評価で保存1日目の総合評価が4.8点、25日目でも4.6点を保ち、苦味や沈殿、分離は見られなかったと報告されています。微生物検査では、大腸菌群や黄色ブドウ球菌、サルモネラを含む病原微生物はいずれの試料からも検出されず、25日目に酵母のわずかな増加傾向はあったものの基準値を大きく下回っていました。また25日後の過酸化物価は、この抗酸化物質の組み合わせを加えていない対照製品より45%低かったとされています。
この研究が示すこと
この研究は、季節に左右されやすい馬乳を粉末として通年利用できるようにする凍結乾燥の条件を示すとともに、その最大の弱点である脂質の酸化を、天然の抗酸化物質を乾燥の工程で加えることで抑えられると報告したものです。とくにジヒドロケルセチンとγ-トコフェロールを脂肪重量の2.0%加えた条件で、保存中の酸化指標の上昇が最も抑えられました。
さらに著者らは、この技術を土台として、賞味期限25日という従来より長い保存性をもつ発酵乳飲料を試作し、その間の風味と微生物学的な安全性が保たれたことを示しています。伝統的な地域の原料を、酸化に強く、輸送や流通に耐える製品へとつなげる道筋を具体的に描いた点に、この研究の意味があると言えるでしょう。
著者:D. N. Tuigunov(Kazakh Academy of Nutrition)、Yuriy A. Sinyavskiy(Kazakh Academy of Nutrition)、Zh. Kalibekkyzy(Shakarim University)、Yerzhan Omarov(Kazakh Academy of Nutrition)、А.Б. Бердыгалиев(Asfendiyarov Kazakh National Medical University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):D. N. Tuigunov, Yu. A. Sinyavskiy, Zh. Kalibekkyzy, et al. IMPROVEMENT OF THE TECHNOLOGY FOR THE PRODUCTION OF FREEZE-DRIED MARE'S MILK AND FERMENTED MILK DRINKS BASED ON IT. Шәкәрім университетінің хабаршысы: Техника ғылымдар 2026-07-01. DOI: 10.53360/2788-7995-2026-2(22)-53. 原著ライセンス:CC BY.