著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref
研究の目的
ハイビスカス(ローゼル、学名 Hibiscus sabdariffa)の萼(がく)は、お茶や酸味のある飲み物の材料として親しまれています。この萼には、赤紫色のもとになるアントシアニンをはじめ、フラボノイドやフェノール酸などのフェノール化合物(いわゆるポリフェノールの仲間)が多く含まれます。研究チームは、こうした成分を食品の機能性素材や天然の着色料として使える可能性に注目しました。
一方で、フェノール化合物は酸素、光、熱、pHの変化によって壊れやすく、食品の加工や保存の途中で抗酸化力や色が失われやすいという課題があります。そこで著者らは、成分を別の素材の殻で包んで保護する「マイクロカプセル化」に着目しました。研究の目的は、食品に使える溶媒でハイビスカスからフェノール化合物を効率よく取り出す条件を探し、その抽出液をマイクロカプセル化し、バターミルクを使った発酵乳飲料に加えて冷蔵保存中の安定性を調べることです。バターミルクはバター製造の副産物で、この飲料にはプロバイオティクスとして知られる乳酸菌の一種、ラクトバチルス・ガセリも加えられました。
三段階で進めた実験
実験は三つの段階で行われました。第一段階では、乾燥させた萼から成分を取り出す溶媒として、エタノールと、穀物由来の食品用アルコールの二種類を、それぞれ濃度50%、70%、80%で比較しました。抽出液ごとに、フェノール化合物、フラボノイド、アントシアニンの量と、抗酸化力を測定しています。
第二段階では、選んだ抽出液を、マルトデキストリン(でんぷん由来の糖質)、イヌリン(食物繊維の一種)、ホエイタンパク質濃縮物の組み合わせや配合比を変えた6種類の素材で包みました。さらに、乾燥方法として、凍らせてから水分を除く凍結乾燥と、熱風の中に液を霧状に吹き付けて乾かす噴霧乾燥を比べ、合計12通りのカプセル粉末を作って性質を調べました。
第三段階では、性質を比較した結果から選んだカプセルを、バターミルクと脱脂乳を発酵させた飲料に加え、冷蔵で28日間保存しました。保存中は、酸度や色、乳酸菌の数、フェノール化合物の量、抗酸化力などを定期的に測りました。加えて、高感度な分析装置を使い、原料の萼、カプセル、完成した飲料のそれぞれにどのような化合物が含まれているかを調べました。
主な結果
抽出では、70%の食品用穀物アルコールを使った条件で、フェノール化合物、フラボノイド、アントシアニンの量と抗酸化力が全体的に高くなりました。80%の穀物アルコールとの差は多くの指標で統計的に明確ではありませんでしたが、著者らは数値が最も高く、使うアルコールの割合も少ない70%の条件を次の段階に採用しました。研究チームは、食品用の溶媒で良い結果が得られた点を、食品への応用のうえで利点だと位置づけています。
作られたカプセル粉末は、いずれも酸性で、水への溶けやすさは75%を超えていました。抽出液のフェノール化合物のうち、どれだけがカプセルに取り込まれたかを示す封入効率は、配合や乾燥方法によって約49%から約92%まで幅がありました。顕微鏡で見た粒子の形も試料によってさまざまでした。これらを比較した結果、マルトデキストリン70%とイヌリン30%を噴霧乾燥した配合が飲料に使うものとして選ばれました。
このカプセルを加えた発酵乳飲料は、28日間の冷蔵保存中、物理的・化学的な性質が十分に安定していたと報告されています。フェノール化合物はゆっくりと減少し、保存中の減り方から計算した、量が半分になるまでの期間(半減期)は34.5日でした。また、分析によって14種類の化合物が萼、カプセル、飲料のいずれにも含まれていることが確認され、著者らはこれらの成分が最終製品まで保たれていたことを示すとしています。
研究が示すこと
著者らは、マイクロカプセル化によってハイビスカスのフェノール化合物を発酵乳飲料に組み込むことができたと結論づけ、機能性素材や天然の着色料としての可能性を裏づける結果だとしています。抽出から、カプセル化、バターミルクという乳製品の副産物を活かした飲料への応用までを一続きで検討した点が、この研究の特徴です。壊れやすい植物成分を、加工と保存を経ても食品の中に保つための一つの道筋が示されたといえます。
原著論文の著者・所属:Andressa Ladeira Bernardes(Department of Nutrition and Health, Universidade Federal de Viçosa, Viçosa CEP 36570-900, Minas Gerais, Brazil)、Marcella Duarte Villas Mishima(Department of Nutrition and Health, Universidade Federal de Viçosa, Viçosa CEP 36570-900, Minas Gerais, Brazil)、Jhonatan Faria da Costa(Department of Food Technology, Universidade Federal de Viçosa, Viçosa CEP 36570-900, Minas Gerais, Brazil)、Sidney Rodrigues de Jesus Silva(Department of Food Technology, Universidade Federal de Viçosa, Viçosa CEP 36570-900, Minas Gerais, Brazil)、Herlândia Cotrim Santos(Department of Food Technology, Universidade Federal de Viçosa, Viçosa CEP 36570-900, Minas Gerais, Brazil)、Evandro Martins(Department of Food Technology, Universidade Federal de Viçosa, Viçosa CEP 36570-900, Minas Gerais, Brazil)、Jane Sélia dos Reis Coimbra(Department of Food Technology, Universidade Federal de Viçosa, Viçosa CEP 36570-900, Minas Gerais, Brazil)、Renê Chagas da Silva(Department of Physics, Universidade Federal de Viçosa, Viçosa CEP 36570-900, Minas Gerais, Brazil)、Izabela Maria Montezano de Carvalho(Department of Nutrition and Health, Universidade Federal de Viçosa, Viçosa CEP 36570-900, Minas Gerais, Brazil)、Ana Clarissa dos Santos Pires(Department of Food Technology, Universidade Federal de Viçosa, Viçosa CEP 36570-900, Minas Gerais, Brazil)、Maria do Carmo Gouveia Peluzio(Department of Nutrition and Health, Universidade Federal de Viçosa, Viçosa CEP 36570-900, Minas Gerais, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Andressa Ladeira Bernardes, Marcella Duarte Villas Mishima, Jhonatan Faria da Costa, et al. Phenolic Compounds from <i>Hibiscus sabdariffa</i> L.: Extraction, Microencapsulation and Application in a Buttermilk-Based Fermented Dairy Beverage. Foods 2026-10-01. DOI: 10.3390/foods15203628. 原著ライセンス:CC BY.