この研究は、ロシアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Vestnik MGTU

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

乳製品に代わる発酵飲料をめざして

ヨーグルトやケフィアのような発酵乳製品は、乳酸菌を含む飲料として広く親しまれています。しかし、菜食主義の人、乳糖不耐症の人、乳たんぱく質にアレルギーのある人には利用しにくいという課題があります。著者らは、植物を原料にした発酵飲料の市場には、伝統的な発酵乳製品と風味が異なるものや、乳酸菌などの有用な微生物(プロバイオティクス)を含まないものが多いと指摘しています。

そこで研究チームは、植物性の原料を使い、抗酸化作用をもつビタミンを多く含み、乳酸菌で発酵させた飲料の開発に取り組みました。土台には、味にくせが少なく、ビタミンEやマグネシウムを含むアーモンド飲料が選ばれました。これに、β-カロテンの供給源としてニンジン粉末、ビタミンCの供給源としてローズヒップ(野バラの実)粉末、ビタミンEの供給源として小麦胚芽油、たんぱく質と食物繊維を補う脱脂アンズ種子粉を加えるという構想です。

どの乳酸菌が、どの配合でうまく発酵するか

研究チームはまず、文献をもとに12種類の植物素材の成分や使いやすさを比べ、添加する素材を選びました。続いて、水に浸したアーモンドを水とともにすりつぶしてこしたアーモンド飲料を実験室で作り、市販の乾燥スターター(発酵のもとになる菌の粉末)4種類で発酵させました。発酵の進み具合は、乳酸がたまることで高まる酸度で判断し、目標は50〜70度(°T、乳製品で使われる酸度の単位)としました。

7時間後に目標に近い50.2°Tに達したのは「ヨーグルト」用スターターだけで、ほかの3種類は10.2〜31°Tにとどまりました。顕微鏡観察では、ケフィア用の2種類で死んだ菌が多く見られ、「ヨーグルト」用スターターで生きた菌の数が最も多く、増殖の様子も確認されました。著者らは、アーモンド飲料だけでは菌の栄養が足りず、一部の菌が死んだと解釈しています。

次に研究チームは、「ヨーグルト」用スターターを使い、牛乳(対照)、アーモンド飲料のみ、さらにニンジン粉末やローズヒップ粉末、アンズ種子粉、小麦胚芽油、とろみと分離防止のためのリンゴペクチンを組み合わせた計6種類の試料を作りました。添加物なしのアーモンド飲料は40.4°Tまでしか酸度が上がらず、ニンジンやローズヒップを加えただけの試料も50°Tには届きませんでした。たんぱく質源のアンズ種子粉を加えた2試料は、決められた時間内に目標の酸度に達しました。

味・とろみ・栄養の評価

10人の評価者が、外観、色、味、香り、口当たりの5項目を各5点満点(合計25点)で評価しました。ニンジン粉末だけを加えた試料は、分離して見た目や味が悪く、評価対象から外されました。最も高い評価を得たのは、すべての素材とペクチンを加えた試料で、平均24点でした。牛乳の対照は21.29点、アーモンド飲料のみは23.86点でした。この試料は、わずかにオレンジがかった均一なクリーム色で、発酵によるやわらかな酸味にアーモンドの甘みとローズヒップの果実らしさが加わり、なめらかでほどよいとろみがあると報告されています。

研究チームはこの配合を「ラクトゼン」と名づけ、市販の飲むヨーグルトや市販のアーモンド飲料と比べました。とろみの強さは、アーモンド飲料を基準にすると、飲むヨーグルトが1.09倍、ラクトゼンが1.9倍でした。著者らは、加えたペクチンが関わっている可能性を挙げています。試飲評価でも、アーモンド飲料(4.1点)や飲むヨーグルト(4.4点)よりラクトゼンの評価が高かったとされています。

栄養価は、原料の成分表をもとに計算で求められました。200グラムの1食分あたり、エネルギー163キロカロリー、たんぱく質4.2グラム、脂質14.2グラム、炭水化物4.7グラム、ビタミンA73.6マイクログラム、ビタミンC10.1ミリグラム、ビタミンE11.4ミリグラムです。ビタミンEは推奨される1日摂取量の約76%に相当し、主に小麦胚芽油とアーモンドに由来すると著者らは説明しています。一方、脂質は比較した2つの市販品の4倍以上でした。

研究が示すこと

この研究は、アーモンド飲料だけでは乳酸菌がうまく育ちにくいものの、菌の種類を選び、たんぱく質源などの植物素材で成分を補えば、発酵乳製品に近い酸味ととろみをもつ植物性の発酵飲料を作れることを示しました。著者らは、菜食主義の人や乳糖不耐症の人などに向けた製品として位置づけ、工業生産を想定した製造工程もまとめています。ただし、今回報告されたのは風味や物性の評価と計算上の栄養価であり、飲んだ人の体への効果を調べたものではありません。

著者:G.V. Posnova(K. G. Razumovsky Moscow State University of Technologies and Management (The First Cossack University))、Н.Г. Иванова(K. G. Razumovsky Moscow State University of Technologies and Management (The First Cossack University))、K. A. Panchuk(K. G. Razumovsky Moscow State University of Technologies and Management (The First Cossack University))

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):G.V. Posnova, Н.Г. Иванова, K. A. Panchuk. Development and evaluation of consumer properties of a fermented plant-based beverage. Vestnik MGTU 2026-09-29. DOI: 10.21443/1560-9278-2026-29-3-417-432. 原著ライセンス:CC BY.