この研究は、ポルトガルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Recycling
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の狙い:捨てられる部分を保存の役に立てる
魚は良質なたんぱく質や必須ミネラル、ビタミンを含む食品で、アジ科のマアジ(大西洋アジ、ポルトガルでは「カラパウ」と呼ばれる)はオメガ3系多価不飽和脂肪酸にも富んでいます。ただし、著者らによれば、この脂質の豊かさは同時に弱点でもあります。脂質が酸化しやすく、日持ちが短くなるのです。水分活性(食品中で微生物が利用できる水の多さを示す指標)が高く、pHが中性に近いという魚の性質も酸化を早めます。魚のすり身を成形した魚バーガーのような加工品では、この条件がそろいます。
論文は、世界の漁獲・養殖生産が2022年に約9200万トンに達し、そのうち約7割が販売前に加工され、内臓・骨格・頭・皮・骨などの副産物が大量に生じると述べています。一部は飼料や肥料などに使われますが、残りは埋め立てや焼却に回ります。一方でこうした副産物には有用な分子が含まれているため、研究チームはこれを「価値あるものへ作り変える」対象と位置づけました。
そこで本研究は、タラ(大西洋マダラ)の加工残さから得たたんぱく質加水分解物(タンパク質を細かく切ってペプチドやアミノ酸にしたもの。以下PH)を、単独または緑茶抽出物(以下GTE)と組み合わせて魚バーガーに加え、天然の保存材料として日持ちを延ばせるかを評価することを目的としました。著者らは、タラ骨格由来のPHと緑茶抽出物を組み合わせて魚バーガーの保存性を検討した例は、自分たちの知る限りこれまでないと記しています。
何をどう調べたか
PHの取り出しには「亜臨界水抽出」が使われました。これは水を100℃より高い温度に保ち、同時に圧力をかけて液体のまま使う方法です。この状態の水は酸や塩基の触媒のようにはたらくため、酸やアルカリを加えずにたんぱく質を分解・抽出できる点が特徴として説明されています。研究チームはタラの骨格を90、140、190、250℃の4条件で処理し、抽出量や成分、抗酸化のはたらきなどを比べました。緑茶抽出物は含水アルコールによる抽出で得ています。
得られた抽出物のうち、190℃と250℃のものが有望な性質を示しました。最終的にバーガーに使ったのは190℃のPHです。著者らは、250℃のものは水溶液の褐色の度合い(420nmでの吸光度)が190℃の2倍以上で見た目が濃く、色は消費者が重視する要素であること、また190℃のPHはスーパーオキシドラジカルの消去や消化酵素アミラーゼの阻害で低濃度から良好な活性を示したことを、選択の理由として挙げています。
魚バーガーはマアジのすり身を用い、抽出物を全体の1%(重量比)加えた形で4種類作られました。PHのみ1%、GTEのみ1%、両方を0.5%ずつ合わせたもの、そして抽出物を加えない対照です。これらを冷蔵で6日間保存しながら、水分やpH、色、脂質酸化の指標であるTBARS(マロンジアルデヒド量として表す)、鮮度の指標となる揮発性塩基窒素(TVB-N)、そして微生物の数を測定しました。
報告された主な結果
脂質の酸化では、違いが明確でした。対照区のTBARSは6日目に4.26mgMDA/kgまで上がった一方、GTEを加えたものは1.55、GTEとPHを組み合わせたものは1.72にとどまりました。要旨では対照と比べて約50%低い値と表現されています。論文は、おおよそ1〜2mgMDA/kgが好ましくない匂いや味が出て消費者に拒否される境目とされると述べ、冷蔵保存後にこの範囲内に収まったのはGTE入りと組み合わせの2つだけだったと報告しています。PHのみを加えたバーガーは対照との統計的な差はなく、6日目には5.58と最も高い値になりました。著者らはこれを酸化を促す方向へ転じた可能性として、高温処理で遊離アミノ酸や微量金属が出ていること、緑茶ポリフェノールのように金属を囲い込んで無効化する成分がないことと関連づけて説明しています。
微生物についても、GTE入りと組み合わせで低温性菌(冷蔵下で増え、傷みや異臭の主因となる菌)の増加が抑えられました。初発は5.1LogCFU/gで、1日目に対照とPHのみが7.1まで跳ね上がったのに対し、GTEは5.9、組み合わせは5.8にとどまりました。3日目には組み合わせが6.2と最も低く、他のすべてより有意に良好でした。要旨では低温性菌の総数で0.5〜1.8LogCFU/gの低減と記されています。ただし6日目には全区が8.6〜9.4LogCFU/gの高い水準に達し、著者らはこれを保存期間の終わりを示すものとしています。鮮度指標のTVB-Nも同じ傾向で、3日目にGTE入りは18mgN/100gと対照の27、PHのみの32より有意に低い値でした。色についても、GTE入りは6日間を通じて色相角が最も高く安定していたと報告されています。
一方で、限界も率直に述べられています。6日間を通じて微生物の増殖を完全に止めた添加はなく、GTEまたはGTEとPHの組み合わせが延ばせたのは微生物的に安定な初期の期間で、対照に比べて24〜48時間でした。原料の初発菌数が他の報告より高かった点については、切り身を魚屋が調製したことや、ひき身にする際の手作業と粉砕の工程が汚染につながりやすいことを、著者らは理由として挙げています。要旨は、抽出物の配合が酸化の進行を抑え微生物面の安定性を高める可能性を示す一方で、より高い配合量が必要だと結論づけています。
この研究が示すこと
この研究が示したのは、捨てられていた魚の加工残さを酸やアルカリを使わない方法で機能性のある材料へ作り変え、同じ魚由来の食品の保存性を調べる道筋です。結果の中心を担ったのは緑茶抽出物でしたが、タラ由来のPHを組み合わせても緑茶単独の保存効果は保たれ、低温性菌の抑制では3日目に組み合わせが最も良い成績を示しました。著者らは、こうした天然抽出物の利用が、添加物表示をできるだけ簡素にしたい「クリーンラベル」志向の消費者の要望にも合うと述べ、持続可能な漁獲資源の活用と産業副産物の再利用を、国連の持続可能な開発目標12(つくる責任つかう責任)に沿う取り組みとして位置づけています。
著者:Kiana Bila(MEtRICs, Departamento de Química, NOVA School of Science and Technology, Universidade NOVA de Lisboa, Campus de Caparica, 2829-516 Caparica, Portugal)、Lucas Comba(MEtRICs, Departamento de Química, NOVA School of Science and Technology, Universidade NOVA de Lisboa, Campus de Caparica, 2829-516 Caparica, Portugal)、Edgar Perestrelo(LAQV-REQUIMTE, Departamento de Química, NOVA School of Science and Technology, Universidade NOVA de Lisboa, Campus de Caparica, 2829-516 Caparica, Portugal)、Sara Tomé(MEtRICs, Departamento de Química, NOVA School of Science and Technology, Universidade NOVA de Lisboa, Campus de Caparica, 2829-516 Caparica, Portugal)、Verónica Weng(LAQV-REQUIMTE, Departamento de Química, NOVA School of Science and Technology, Universidade NOVA de Lisboa, Campus de Caparica, 2829-516 Caparica, Portugal)、Maria Paula Duarte(LAQV-REQUIMTE, Departamento de Química, NOVA School of Science and Technology, Universidade NOVA de Lisboa, Campus de Caparica, 2829-516 Caparica, Portugal)、Isabel M. Coelhoso(LAQV-REQUIMTE, Departamento de Química, NOVA School of Science and Technology, Universidade NOVA de Lisboa, Campus de Caparica, 2829-516 Caparica, Portugal)、Pedro Calado Simões(LAQV-REQUIMTE, Departamento de Química, NOVA School of Science and Technology, Universidade NOVA de Lisboa, Campus de Caparica, 2829-516 Caparica, Portugal)、Victor Gomes Lauriano Souza(GeoBioTec, Departamento de Ciências da Terra, NOVA School of Science and Technology, Universidade Nova de Lisboa, Campus de Caparica, 2829-516 Caparica, Portugal)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kiana Bila, Lucas Comba, Edgar Perestrelo, et al. The Use of Bioactive Extracts from Fish By-Products in Improving Microbiological Stability of Fish Based Food. Recycling 2026-09-01. DOI: 10.3390/recycling11090157. 原著ライセンス:CC BY.