著者の所属・活動拠点の国は、韓国です。

掲載誌:Antioxidants

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

捨てられがちな魚の部位を活かせるか

魚を切り身に加工すると、頭や中骨、皮、内臓、尾などが残ります。著者らによると、これらは原料の約30〜75%にのぼります。その多くは埋め立てや焼却、海洋投棄、安価な飼料に回されています。一方で、こうした部位にはタンパク質が多く含まれ、機能性食品素材の原料として期待されています。

研究チームは、韓国・済州で入手したタチウオの加工残渣(頭、中骨、尾)に着目しました。酵素で分解したタンパク質分解物(論文ではHBPと呼びます)を作り、その成分と抗酸化性を調べました。さらに、筋肉のもとになる培養細胞で、筋細胞の形成が妨げられる状況に対してHBPがどう働くかを検討しました。

どのように調べたか

残渣を凍結乾燥して粉末にし、タンパク質分解酵素「プロタメックス」を加えて24時間分解しました。比較として、水だけで抽出したものも作っています。得られたHBPについては、アミノ酸組成を分析しました。抗酸化性は、ABTSとDPPHという2種類の試験で測りました。どちらも、試験管内で不安定な分子(ラジカル)をどれだけ消去できるかをみる化学的な試験です。

細胞実験には、筋細胞に育つ性質をもつ培養細胞「C2C12」を使いました。この細胞は、細胞どうしが融合して細長い「筋管」を作ります。研究チームは、筋管の形成が始まる時点でHBPを加え、その1時間後にデキサメタゾンを加えました。デキサメタゾンはステロイドの一種で、筋萎縮を起こす実験モデルに用いられます。そのうえで、細胞の生存率と増殖、筋管の太さ、筋管に取り込まれた核の割合(融合指数)などを比べました。比較対象には、サプリメントに使われるマカも用いています。

主な結果

乾燥した残渣の約54%は粗タンパク質でした。酵素で分解した場合の回収率は42.8%で、水抽出の13.2%の3倍以上でした。得られたHBPのタンパク質含量は82.4%です。構成アミノ酸ではアスパラギン酸とグルタミン酸が多く、必須アミノ酸は約30%を占めました。遊離アミノ酸の中では、ロイシンが約12%を占めていました。

抗酸化試験では、HBPは濃度に応じてラジカルを消去しました。ラジカルを半分消去するのに必要な濃度は、ABTS試験で5.653mg/mL、DPPH試験で1.933mg/mLと報告されています。

細胞実験では、30〜300µg/mLのHBPで細胞への毒性はみられませんでした。生存率と増殖は濃度に応じて高まりました。デキサメタゾンを加えると、筋管は細く不ぞろいになり、筋管内の核の数と融合指数はおよそ半分に下がりました。HBPを加えると、これらの指標は濃度に応じて改善し、300µg/mLで統計的に有意な増加がみられました。筋管の太さや広がりもデキサメタゾン単独の場合より大きくなり、マカに近い反応を示しました。

この研究が示すこと

著者らは、この結果を慎重に位置づけています。HBPとデキサメタゾンは筋管ができ始める時点から一緒に与えられていました。そのため、すでに起きた筋萎縮を元に戻したことを示すものではありません。筋管が作られる過程での障害を和らげた、と解釈すべきだとしています。

また、抗酸化性は試験管内の化学的な試験だけで評価しています。細胞内の酸化ストレスや、筋萎縮に関わる分子は測っていません。抗酸化性と細胞での働きの関係はまだ確かめられていない、と著者らは明記しています。どのペプチドが働いているのかも分析しておらず、結果は分解物という混合物全体の性質として示されています。

今回の成果は、タチウオの加工残渣から効率よくタンパク質素材を回収できること、その素材が培養筋細胞で興味深い反応を示したことを伝える予備的な知見です。動物や人で同じ働きがあることを示したものではありません。そのうえで、捨てられがちな水産加工残渣の価値を見直す一つの手がかりになる研究といえます。

原著論文の著者・所属:Cheol-Yeong Yoo(Department of Seafood Science and Technology, Gyeongsang National University, Tongyeong 53064, Republic of Korea)、Rajasinghe Peli Gedara Sewwandi Kaushalya Amarasiri(Department of Marine Life Sciences, Jeju National University, Jeju 63243, Republic of Korea)、Sang-Woon Lee(Department of Marine Life Sciences, Jeju National University, Jeju 63243, Republic of Korea)、Jeong Min Lee(National Marine Biodiversity Institute of Korea, Seochun 33662, Republic of Korea)、Mi-Jin Yim(National Marine Biodiversity Institute of Korea, Seochun 33662, Republic of Korea)、Hyun-Soo Kim(Department of Seafood Science and Technology, Gyeongsang National University, Tongyeong 53064, Republic of Korea)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Cheol-Yeong Yoo, Rajasinghe Peli Gedara Sewwandi Kaushalya Amarasiri, Sang-Woon Lee, et al. Antioxidant Activity and Effects of Protamex-Assisted Protein Hydrolysates from Trichiurus lepturus By-Products in a Dexamethasone-Induced C2C12 Muscle Atrophy Model. Antioxidants 2026-10-13. DOI: 10.3390/antiox15101320. 原著ライセンス:CC BY.